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「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

 茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケシ粒を拾って帰ると、今日の夕飯になる。

 六十年前、こうしておまえを囚えておけば、この国のどこまでもオレンジ色の花を咲かせることは無かったかも知れない。そして、あの重大な事件も起こらなかったかも知れぬ。ああナガミヒナゲシよ、時を戻しておくれ。

 ネズミムギの花咲く頃、ベジタリアンな猫たちがいそいそと集まってくる。そこでその草をイタリアンライグラスと別名で呼ぶと、今度は牧草を求めて牛たちが集まってくる。あなたはどちらに食べてもらいたいのだろう。

 金魚葉椿の新芽が伸びて、尾っぽが愛らしい。原発事故の影響だとか、金魚の死骸を肥料にしたからだという人がいるが、そんなわけがない。江戸時代からある園芸種だ。夜中に、たまに泳ぎだしていることがあるだけだ。

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