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「ヒスイカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #14

 誰も居ないビル街に、野生化したヒスイカズラの花房を見上げる。この翡翠の色に、これほど惹かれる理由はわかっている。蜜を吸いに訪れたオオコウモリたちの姿を見て、来世はまたコウモリに生まれ変われるよう祈った。

 ヒスイカズラの花言葉は「私を忘れないで」。もちろんこの長く垂れ下がる翡翠色の花の房を忘れることはない。そして、この花が咲く温室を建て、花言葉なんてつけて喜んでいた者たちがいたことも決して忘れない。

 冬の太陽が、ドウダンツツジの影を歩道へと伸ばす。気をつけないと、足元の影にからまって転ぶ人がいる。ドウダンツツジのいたずらなら、転んだときに花の鈴の音が聞こえるというが、一度くらいは聞いてみたいものだ。

 ハコベの花を見かけるようになった。道草界では、ハコベは馬の生まれ変わりだという。茎に鬣(たてがみ)のような毛が生えているからだ。白馬だったろうかと考えているハコベを、雀がついばんでいった。雀は白馬より強し。

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