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無礼は死を招く~PS4「ヒットマン2」から学ぶ無礼の害悪

「他人には礼儀正しく接しましょう」
当然と考えられているコミュニケーションの基本ですが、最近ハマったゲーム「ヒットマン2」をプレイしてその理由を嫌というほど思い知りました。

その理由は簡単。「無礼は死を招く」のです。

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「ヒットマン2」がどんなゲームかは、公式動画を見ればすぐに分かります。要するに「悪党どもを暗殺せよ」です。

リアリティあふれる美しいグラフィックのフィールドで、いま目の前で生きているターゲットを殺すので、遊び始めた最初のうちは、思わずこの暴力の妥当性に疑問を持ってしまいます。それほどまでに、ゲーム全体の演出と殺人シーンはリアルでえげつない。

「ターゲットはこれまで暴力の限りを尽くしてきた悪党なんだから」と考えれば多少は納得できますし、「そもそもただのゲームだろう」と言われればまったくそのとおりなので、倫理的な疑問を持つのもバカらしいと思われるかもしれません。

しかし、あまりにリアリティが高いので、どうしても倫理観を刺激されるのです。実際、自分の差し金で、初めてターゲットが目の前で頭を打ち抜かれた時はギョッとしました。悪党とはいえ人間だぞ。そんなにあっさり殺していいのか!?

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ところが、プレイに慣れて周囲を見渡す余裕ができると、そんな疑問はすぐに消え去ります。なぜなら、ターゲットはすべて「徹底して他人に無礼」だからです。

誰に対しても居丈高で、少しでも気に入らないことがあれば誰彼かまわす暴言を浴びせ、傲慢であることを隠しもせず、他人を傷つけることを一顧だにしない・・・絵に描いたような、清々しいほどの「嫌な奴」ばかりなのです。

犯罪に手を染め尽くした悪党とはいえ、要人として組織を束ねる立場にあるならば、部下の感情に配慮する最低限の人間性くらいは持ち合わせていていいのではないか。それなら暗殺することに少しは躊躇もするだろうに。

そんな期待を木っ端微塵に吹き飛ばす見事なクズっぷり。衆人の前で部下を理不尽に侮辱する無礼を物陰から観察し、それに対する部下たちの嘆きや陰口を聞き、こう決意するわけです。自分の目的はともかく、必ずかの邪智暴虐のクズを除かねばならぬ、と。

こうなると、もはや少しの疑問も躊躇もありません。プレイヤーは何のわだかまりもなくターゲットに天誅を下して溜飲を下げることができます。悪党だから殺すのではなく、近しい人々を不快にさせる無礼なクズを排除するのですから

例えば、麻薬カルテルのトップに君臨するこの悪党。

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ヘマをした部下を薄暗い自室に呼び出し、「お前より脳みそが入っていそうな奴を見つけたぞ」と軽くジャブを入れてからの「荷物をまとめて俺の前から消えろ!」・・・まァ、実際ホントの意味でブラックなんですが、まさしくブラック企業ですね。

ちなみに、部下が部屋から出て行った後、この無礼な悪党には首筋にドライバーを突き立ててやりました。実にすっきりした。

さて、責任を問うて部下を辞めさせるにしても、例えば、こう言って頭を下げたとしたらどうでしょうか。

「すまんが、来月から君に給料は払えないんだ・・・もちろん、君のこれまでの貢献は高く評価してるし、感謝もしてるよ。ただ、前回の失敗については君をかばってやれなくてね・・・本当に申し訳ない。次の就職先は斡旋するよ。他にも私にできることがあれば、何でも相談してくれ」

もちろん、麻薬売りの悪党であることには違いありません。どちらかと言えば、この世からいなくなった方がいい。

しかし、たとえこれがゲームであったとしても、いま自分の手でドライバーを突き立てることには躊躇すると思います。なぜなら、少なくとも無礼ではないからです。

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実際「無礼」ほど人間の悪感情を刺激する振る舞いはありません。例えば「Think CIVILITY『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」という本は、科学的根拠を示しながら、いかに無礼が有害かを語っています。

その人が下品であることを証明し、尊敬できないなと思わせるような言動を、「無礼」と言う。
礼節ある態度とはたとえば、人に感謝する、人の話をよく聞く、わからないことは謙虚に人に尋ねる、他人の良さを認める、成果を独り占めせずに分かち合う、笑顔を絶やさない、といったことを指す。
いくつかの調査により、失敗するリーダーの多くには、無神経、人を不快にさせる、弱い者いじめをする、という共通の性質があるとわかっている。またその次くらいに多く見られるのが、よそよそしい、傲慢といった性質である。

また、どれほど実務能力に秀でていようとも、礼節に欠ける無礼な人は組織のパフォーマンスを大きく損ねることが科学的に証明されているそうです。この本は、そんな無礼な人を要職に就けてはならない、そもそも組織のメンバーに加えてはならないと説いています。

科学的根拠を持ち出さずとも、感覚的に当たり前の話です。例えば、他人の前で侮辱されて、誰がその人の下で働きたいと思うでしょうか?もしこれがゲームなら殺してやると思うのが、人間の感情として普通でしょう。

無礼には死をもって償わせよ。「無礼」にはここまで強烈な感情を抱かせる破壊力があることを、このゲームは嫌というほど教えてくれます。

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「他人には礼儀正しく接しなさい」
子供の頃に親から教わったことを、まさか暇つぶしに買ったゲームから教わるとは思いませんでした。滝に打たれて瞑想したい気分です。

もしあなたが人の上に立つ立場なら、周囲に対して礼節を尽くさなければ、誰かがあなたを殺しに来るかもしれません。

そうでない立場であっても、礼節を尽くさなければ、上の立場に立つことは許されないと思いますし、ヘタをすると組織を追われることになるかもしれません。

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私の母親は職歴30年超のベテラン看護師なのですが、多くの最期を看取ってきた経験から「死に様は生き様」という死生観を持つに至りました。

私はたいした人間ではありませんし、他人に礼節を尽くしているなどとはとても言えませんが、せめて無礼でないように心がけ、まっとうに生きて普通に往生したいと切に願う次第です。

無礼で不本意な死を招くのは嫌ですから。

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