見出し画像

また怪獣が好きになれそう 〜ジョン・スコルジー『怪獣保護協会』

『老人と宇宙』シリーズ、『アンドロイドの夢の羊』、『レッドスーツ』、『ロックイン』。ジョン・スコルジーの、いつでもユーモアを忘れないその気風がめちゃくちゃ大好きで、これまで読んだ作品にもいっさいハズレがない。(…あー、でも『星間帝国の皇女』を積んでいるのだった。これも読まなくちゃ…)
 50-60年代の東宝特撮へのリスペクトを捧げた怪獣SFだと聞いて、邦訳刊行決定の第一報からずっと楽しみにしていた新作、今回も堪能しました。

ジョン・スコルジー / 訳: 内田昌之『怪獣保護協会』(早川書房)

ヒューゴー賞、ローカス賞、星雲賞受賞作家が描く驚天動地の怪獣SF話題作!
映画のゴジラは、並行宇宙の地球〈怪獣惑星〉からこちらの地球にやってきた巨大怪獣がモデルだった! ジェイミーはひょんなことから〈怪獣保護協会〉の一員となり、もうひとつの地球でこの怪獣たち相手に大奮闘することに!? 『老人と宇宙』著者の冒険SF!

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015532/ より

 コロナパンデミックの混乱に主人公ジェイミーが飲み込まれていく導入から素晴らしい。専門性は高くないが、仲間思いのただ一点を買われ、皆に愛されていくこの人物のことを、開巻数ページで一気に理解して大好きになってしまう。脇を固めるは怪獣保護協会/KPSのプロフェッショナルかつ気のいい連中(カナダ出身の無骨なヘリパイロットがとてもウルヴィーでよかった)、対する悪役は100点満点・グッドデザインなクソ野郎。これでもかとポップネスが敷き詰められた王道を進みながら、あれよあれよと物語は怪獣の星へ運ばれていく。
 並行世界からの怪獣の越境を防ぐ、いわゆる〝防衛チーム〟を描く冒険ものながら、ここで描かれるのは、巨獣大暴れのドンパチ——ももちろんあるんだけど、タイトル通り保護・生態調査のためのアクションが主で、我らが知る怪獣映画のもっともド派手な要素は、実のところそこまで色濃くはない。だけど、不思議とここの塩梅がとってもよくて、スコルジーのユーモアセンスも手伝い、ぼくらが映画やドラマで目にしてきた、怪獣の恐ろしさと奇妙な愛くるしさの両面が無理なく作品に落とし込まれていると感じた。久々にウルトラ怪獣図鑑を開きたくなったもんな。

 終始痛快な本編に続く、2020年-2021年1月を回想するあとがきも、作中においてすでに自明な〝現実と娯楽の地続き性〟をもう一度補完するエンドロールとしてグッとくるものがあった。いつも以上にエンタテインメントに振り切った人物配置にも、しかし切実な意味が込められていたのであろうことがなんとなく見えてくる。もとより超弩級・超一流のSFエンターテイナーであるスコルジーが、あらためて『これはポップソングだ。軽快でキャッチーな、いっしょに歌えるサビとコーラスがある三分間の曲。聴き終えたあとは、できれば笑顔で一日を過ごしたい。わたしはこれを楽しんで書いたし、楽しんで書く必要があった。だれだってポップソングを必要とするときはある。とりわけ、長い暗闇が続いたあとには』と語ることの重みを噛み締めたい。ちょうどこちらとしても喫緊に〝楽しんで読む必要〟があって、助かりました。またお会いしましょう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?