M-1グランプリ2019はM-1の終わりの始まりかもしれない
生放送で上戸彩が見られる唯一の番組として知られる(笑)M-1見ましたか? 私は久しぶりにリアルタイムで見ました。ちょっと驚いたので、書いてみようと思います。
M-1が壁に当たっているのでは
漫才については、これまでも、このnoteでいくつか書いてます。
日本文化と言う文脈で書いたり
ナイツ塙の「言い訳」を読んで書いたりしてます。
M-1について考えていることは、ここで書いた通りなのですが
そこでは、4分間という時間制限の中に、どれだけ笑いのタネを仕込めるかという新しいMANZAIのスタイルが生まれます。そこで磨かれたのが笑い飯のWボケというスタイルだったり、パンクブーブーやノンスタイルのスピード感だったり。今ではあまり漫才ネタを見ることがないブラックマヨネーズやフットボールアワー、アンタッチャブルも当時は抜群のスピード感でやってました。
今回は、このM-1と言うスタイルが、壁に当たっているのではないかと感じた大会でした。
その話の前に、審査員の話をしましょう。
M-1で審査員がこんなに注目された大会もなかったかもしれませんね。
もちろんナイツ塙は、本を出した後ですから、司会の今田にも松本にもいじられていました。そして、上沼恵美子の強欲なこと。しっかり、去年の騒動を自分の栄養にして笑いにしていました。
審査員は、去年と同じ7人。
この7人がどう言う点をつけるかなわけで、上沼恵美子が言うように「この子ら(出場者)の人生を決めるわけ」ですから、責任重大であることを自覚している皆さんで、あまりやりたくない仕事でしょう。
なぜならば、この審査員によってM-1の方向性が決まってしまうからです。
今大会の特徴と疑問
今回の特徴は、初出場が9組中7組と多く、多くの常連組が敗者復活戦に回っていたこと。
去年決勝に出たコンビで今回の決勝に残ったのは、かまいたちと見取り図だけ。ミキ、和牛、トムブラウンが敗者復活戦の中にいました。
そして、敗者復活戦で選ばれたのは和牛。
3年連続準優勝という記録を持つ二人です。
この、敗者復活戦から当日の勢いでトップまで登った例は、過去にも何組もありますから、これは、今日は、和牛がついにトップを取るのか、という期待を持ちました。
しかし、結果は、1本目で4位。
和牛を押し除けて決勝に上がったのが、ぺこぱでした。
確かに、ぺこぱは良かった。
でも、なぜ、和牛ではなかったのか、というのがM-1への疑問1なのです。
実は、私は、この時点で、今回は、ぺこぱなのではないかと考えていました。でも、そうではなかった。それが、M-1への疑問2です。
ただ、1本目でのミルクボーイの得点が凄かったのは事実です。
M-1史上最高得点となる681点。オール巨人師匠が、初めて97点をつけたと言ってました。
でも、ミルクボーイが決勝に持ってきたのは、1本目と同じ構造のネタでした。今までは、こうした2本続けておなじ構造のネタだと決勝では点が取れなかったはずですが、ミルクボーイが勝ちました。圧勝でした。ミルクボーイに投票しなかったのは、松本人志だけ。あとの6人がミルクボーイでした。ここがM-1への疑問3です。
疑問1:敗者復活から勝ち上がった和牛が1本目で4位だったわけ
上沼恵美子という人は、天才漫才師だったわけですし、関西ローカルでは女帝と言われるほどの人気と実力の持ち主です。その人が、若手漫才師に対して、明らかに個人的な好みで「ファンです」とか「嫌いです」とか言ってしまうのは、この人の持ち味ではありますが、全国ネットでは奇異に感じる人も多いのではないでしょうか。
M-1で上位にならなくても、上沼さんにはまって番組(解決えみチャンネルとか)に呼んでもらえれば、少なくてもなんばグランド花月での出番は増えそうです。今回も吉本所属の若手は、そういう感じのやり取りがあったかと思います。でも、それって東京圏のファンにとっては、「どういうこと?」と思うんじゃないですかね。
和牛についても、緊張感がなかっただの、舞台を自分たちのものだっと思ってるだの、若手の初々しさを褒めるだけでいいのに、付け加えてこき下ろしていました。それって、どうなの?
和牛の出来は良かったし、これまでにないネタになっていたと思います。確かにツッコミの言葉のバリエーションが限られるシチュエーションにしてしまった(「いいね」に絞っていた)ことの是非はあるでしょうが、塙や志らくが96点をつけたように、十分決勝にいけるだけのネタだったと思います。
しかし、結果は3位のぺこぱと2点差という僅差で4位に破れました。
実は、ぺこぱと和牛の差は、ネタの出来ではなく、スタイルの差だったのではないかと思っています。
和牛とぺこぱを比較して、和牛が上だったのが、塙、志らく、礼二。
ぺこぱが上だったのが、巨人、冨澤、松本、上沼でした。
練度とスタイルでスタイルをとったのが後者だったのではないか。
疑問2:ぺこぱの日だったのではないか?
実は、私は、この時点で、ぺこぱの日ではないか、と思っていました。
それは、私は、M-1というのは、新しい漫才のスタイルを生み出したものが勝つ大会だと思っているからです。
それは、2009年に書いたブログの頃から変わっていません。
ワタシもM-1は漫才の可能性を広げる「新しさ」を評価する番組であって欲しかった。
この時は、パンクブーブーが優勝しました。九州からの初優勝です。
手数をどう増やすかとか、ボケとツッコミだけではなく、ダブルボケとか、ボケとツッコミの交換とか、いろんなスタイルの漫才が出てきて、その発見があるかどうかが、M-1であってほしいのです。
ただ塙がこの本で書いているように、ここで許容されるスタイルというのは、漫才のスタイルであって、笑いのスタイルではないのです。
「M-1ではキャラ漫才以外にもギャグやモノマネは、マイナス要素になるという共通認識があります・それらは漫才における芸ではない」
その意味で、今回、面白かったけど票が伸びなかった「すゑひろがりず」は、能・狂言というキャラが強すぎたと言えます。でも、司会の今田が思わず口にした通り、正月のお笑い番組には呼ばれるかもしれません。
その点、ぺこぱが持ち込んだ新しさは「許容するツッコミ」というものでした。ボケを否定しない、強くはじき返さないで、受け止めて認めてしまうことで笑いに変えるというスタイルは、しゃべくり漫才の範囲内における一つの創造になっていました。
こうしたスタイルの提案がハマると、その日は、そのコンビの日になることが多いのです。それは今までの、アンタッチャブルでありノンスタイルであり、パンクブーブーでした。一方で、南海キャンディーズであり、オードリーであり、スリムクラブであり、笑い飯であり、爆発力があったものの優勝しない場合、その後の笑いを席巻する力を持つスタイルになっていくこともあります。
ぺこばの反省は、提案したスタイル以上に、それをやるキャラが強すぎたことかもしれません。キャラにはめると点が低いというのは塙の指摘する通りで、それが決勝での0票につながったのかなと思います。
ただ、あの許容するツッコミは、うまく磨けば、新しいスタイルとして定着する可能性を感じました。あの売れないホストみたいなキャラではないかもしれませんが。
疑問3:なぜミルクボーイだったのか?
そして、優勝はミルクボーイでした。
1本目のコーンフレークは圧巻でした。ツッコミを担当する角刈りの内海の声のトーン、大きさ、滑舌の良さ、言葉の選び方、全てが完璧でした。
上位5組の点数は以下の通り。
1本目で全員が最高得点をつけているというのは、あまり例がないです。
去年は、霜降り明星と和牛の一騎討ちでしたが、志らくはジャルジャルに99点つけていたり、上沼恵美子がミキに98点つけていたりしています。
一昨年は、優勝したとろサーモンは1本目3位でした。
それだけ、今回のミルクボーイの1本目はズバ抜けていました。
でも、決勝は、おなじ構造で、対象をコーンフレークから最中に変えただけでした。肯定や否定のあり方も、ほぼ同じです。言葉選びはさすがですが、正直、1本目のコーンフレークの方が圧倒的に内容が良かった。最中だけを聞いたらば、最中のネタでも決勝に行けたかもしれません。でも決勝で最中はどうなんだろう、そう思ったのは事実です。
しかし、決勝でも圧勝でした。
ぺこぱも決勝のネタはおなじ構造というかスタイルでした。でもキャラがある分、お客さんは慣れてしまうんですね。かまいたちは安定したうまさで、これも新鮮味がなかったかもしれません。
結果として、おなじ構造でもネタの内容が良かったミルクボーイが、芸人としての鮮度と今のお客さんには新味のある構造のネタで優勝しました。
しかし、ミルクボーイのネタは、ダウンタウン以前の漫才を知るものとしては、それほど新しいものではなかったと思います。ただ、恒星が実にしっかりしていた。昔よく見た漫才作家が作ったもののようでした。
それは、この審査員のコメントを見ると分かります。
98点をつけた上沼恵美子は「1番笑いました。センス。ネタのセンス抜群。新しい」と絶賛。99点をつけたナイツ塙は「誰がやっても面白い、プラスこの2人がやるとおもしろい。人の力とセンスが凝縮されていた」。
ダウンタウン以降に、チンピラの立ち話が主流になり、構成のシッカリした漫才が「古い」と嫌われていた時代がありました。それが、一周回って新しくなった、それが分かったのが、今回のM-1だったのではないでしょうか。
漫才のネタは、今ではコンビのどちらかが書くものになっていますが、初期のTHE MANZAIくらいまでは、今でいうバラエティの構成作家・放送作家のような人、当時はコント作家とか漫才作家とか言われていた人が書いていたものが主流でした。漫才番組などでは、台本の作者の名前がタイトルと同時に出ていたものでした。その辺りのことは、朝ドラでも出てきます。
ミルクボーイは、自分たちで書いていると思いますが、台本がしっかりしていたことが勝因でした。
でも、M-1が作ってきた漫才よりも、先祖返りしたような違和感を感じました。松本人志が票を投じなかったのは、その辺りのこともあるのではないでしょうか。面白かったけれども、これではない、という選択。
ぺこぱは、キャラ設定をマイナーチェンジして、あの独特のツッコミを洗練させて来年も出てきてほしいです。いじめにつながりがちなダウンタウン的な漫才を否定した現代的なツッコミになり得ると思うからです。
ミルクボーイは、去年の霜降り明星のような売れ方はしなさそうですが、劇場では安定した人気を誇りそうな気もします。テレビで初めて漫才をやったと言ってましたが、テレビでは漫才番組も減ってますから、お正月にどれくらい見られるかかなあ、と思います。多分、この正月は、コーンフレークが売れるんじゃないでしょうか(笑)
結論:M-1にはずっと失望している
よく考えると、私は、2008年にすでにM-1は曲がり角だと書き、2009年に新しい漫才が見られなかったと書いていて、ずっと不満げに見ていますね。
あれから10年ですが、今こそ、この頃のブログでも引用しているサンキュータツオの解説が聞きたいところです。今回は、随分前に決勝進出者を予想したと話題になってました。
もうM-1のこと書いたりしていないのかなあ。
毎年、M-1の審査には失望していて、それでも毎年気になって見てしまうんですよね。どれだけ、漫才が好きなんだ自分、という感じです。
でも、10年前に見たM-1に出ていた人たちは、今の笑いというかテレビの中心にいるけど、今回のM-1に出た人は10年後、何組残っているのかなあ、という感じがしました。5040組ですか参加者数が。裾野は広くなっているんでしょうけど、頂点が高くなっていないなあと。
笑いの世界で上が使えている感じがする最たる番組がM-1かもしれませんね。審査員を見ていると。
でもなんだかんだ言いながら、来年もM-1見るんだろうなあ。
上戸彩が見たいわけではないけど。
サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。