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コロナ発生届が電子化されない理由に行政のIT化の落とし穴を見た

5月に書いたこの記事にアクセスをいただいております。

この時は、やるじゃんと思ったコロナ発生届の電子化ですが、結局、現場で活用されていない様子だということが、最近、テレビのワイドショーなどで報道されて始めたからでしょう。

政府が5月に運用を始めた新型コロナウイルス感染症の情報把握システム「HER-SYS」(ハーシス)の普及が遅れている。国、自治体、医療機関が感染者らの情報を共有できるようになるシステムだが、保健所が設置されている155自治体のうち、7月14日時点で4分の1の39自治体が利用を始めていない。独自システムを使う東京都、神奈川県、大阪府で切り替えに時間がかかっているためだという。国内初の感染者が確認された1月16日から半年たっても、全国的な情報集約システムが確立していない。

せっかく作ったシステムが使われていないのには、いくつかの段階で問題があるようですので、段階を追って見ていきましょう。

電子化されない理由:自治体の問題

まず、自治体の問題です。

最近、東京都の感染者数が増加していますが、前日の感染者数の連絡が、都庁に朝9時までにファックスに届くという話が話題になっていたように、東京都はまるで使えていないようです。

都の担当職員が出勤して間もない午前9時。この日に発表される感染者数の報告が締め切られる。都庁の30階にある感染症対策部には2台のファクスが常備され、そこに都内31保健所から「新型コロナウイルス感染症発生届」が送られてくる。感染者1人につき、A4判1枚。この枚数が、その日に発表される都内の感染者数となる。

見事なファックスぶりです。

先の毎日新聞の記事でも、その点を書いています。

感染者が急増する東京都は「特別区(23区)の中に既存のシステムからの移行準備が整っていない自治体がある」(感染症対策課)状況で、医療機関や23区の保健所からの報告は依然としてファクスが中心だ。大阪府と神奈川県も既存システムからのデータ移行に手間取っている。政府は7月中の全自治体の利用開始を目指し、自治体と調整している。

なぜ、移行準備が整っていないのでしょう。

厚生労働省によると、7月3日時点で、都道府県や政令指定都市・中核市など保健所を設置する155自治体のうち、43自治体(28%)がまだ利用していない。既存の情報把握システムからの切り替えや、システム上で個人情報を国などに報告することについて個人情報保護審議会への諮問が必要なためだ。

どうも個人情報が立ちはだかっているという理由で、対応が遅れているようです。言い訳のような気もしますが、お役所のシステム替えへの対応の遅さは、調整の難しさというか、誰が音頭をとって進めるかという、新しいことをやる際のリスクを取る難しさではないかと想像します。

お役所が個人情報でリスクを取れないように、医療機関でも問題があります。

電子化されない理由:病院の問題

ここでも一概に、電子化していない保健所や病院を非難することもできにくい事情があるようです。

だが実は、この発生届は、性急にウェブ化すべきでない。誤解を恐れずに言えば、ファックスでの報告が「現段階では」望ましいのである。

まず、医療機関から保健所に行く連絡がファックスです。これを、医師からのツイートを受けて、電子化を急いだのが今回の電子化の始まりでした。

平副大臣は「正直、結構大変だろうなと思った」と振り返る。オンライン化するには医療機関だけでなく、保健所から自治体、厚労省も網羅するシステムを整備する必要があるからだ。実際に厚労省が進めているシステム開発は一筋縄とはいかないようだ。

これを政治家がなんとかしたわけですが、現場ではもっといろいろあるわけです。

まず、医師が病院でネットを使うところで問題が発生するようです。

医療機関では、個人情報の保護のため、患者情報の入った情報システムは基本的にインターネットに接続しないことになっている。ネットに接続した少数の閲覧用端末は外来や病棟にあるだろうが、電子カルテから患者の氏名や住所等の情報を持ってくることができなければ、「二重入力」が生じる。

入力用のPCはどうするのか、という問題と、その入力する医師にアカウントとパスワードを付与する問題です。

患者の個人情報を扱うわけですから、誰でもできるわけではありませんし、認証やセキュリティも厳しくする必要もあるでしょう。

もともと電子カルテの導入時にも医療機関はデジタル化に消極的だったのですが、今では情報の共有化のために、電子カルテで管理している病院がほとんどです。だから、今回の導入もメリットがはっきりすれば、一気に進むように思えるのですが、今はまだ入力の煩雑さや、入力機器の管理やセキュリティの問題が、メリットを超えていないのでしょう。

さらに、コロナウイルス患者が入院している場所は隔離されているので、そこに入力用PCやタブレットを持ち込んで聞き取りをするわけにもいきませんから、手書きメモを消毒して持ち出すとか、ウイルス対応も必要になります。

その辺りも、今までのやり方を改める気になれない理由かもしれません。

電子化されない理由:保健所の負担増

さらに、導入していても、保健所に負荷がかかるだけという例も見られるようです。

 独自の情報システムを有していない自治体であっても、他の日常的な感染症対応フローと新型コロナのフロー、2つの業務フローが並立してしまう。これは、パンデミック対応に追われる保健所にとって余分な負担となる。

現在あるシステムとコロナ対応システムなどが並立すれば、フローが増えるだけで、PCでの作業が増えるばかりです。

しかも、入力作業まで保健所任せになっているとすれば、保健所の作業はただでさえ膨大なのに、パンクします。

利用が始まっている道府県でも、医療機関でどの程度利用されているかは不明だ。厚労省は「医療機関へのID・パスワード付与は保健所の担当で、国は医療機関の利用状況を把握できていない」と説明する。
大半の自治体では医療機関からファクスで患者の報告を受けた後、保健所がハーシスへの入力を代行しており、保健所の業務軽減につながっていない。自治体からは「全ての自治体や医療機関が利用して初めて意味のあるシステムだ」(関係者)との声も上がる。

なぜ、保健所の担当で、厚労省が把握できないのか理解できないのですが、そういう保健所依存の体制が、保健所の負担を増しているのではないかという気がします。

その保健所を減らしてきたのは誰なのかということですよね。

1990年代に850以上あった保健所(1994年には847)が2020年には469に4割以上減少し、保健所の統合・再編のツケが、新型コロナ感染に忙殺される現場の保健所職員にかかってしまった

ウェブ化だけでは解決しない

こうして見てきたように、ウェブ化しデータがデジタルで共有されることで生まれるメリットの裏側で、それを達成するための作業が、現場で歓迎されるかどうか、という議論がないことがわかります。

省庁で作るシステムが、自治体や関連団体で利用されず、巨額な資金の投入が無駄になる例というのは、これまでも多く見受けられます。

サイバー攻撃などによる情報流出を防ぐため、2017年度に運用開始された政府の情報システムが、使い勝手が悪いため実際の業務に全く使われていなかったことが会計検査院の調べでわかった。今年3月に廃止され、システム開発費など計約18億円が無駄になったという。

ところが、多くの場合、こうした事例から学んで、新たな開発の仕様書が設計されたり、予見が整理されることはありません。省庁では、同じ担当者が2度開発を担当することはないからです。

別の省庁では全く関係なく開発が進められ、開発理由は素晴らしくても、使用の不備から、実際には使いにくいシステムや、過剰な仕様が盛り込まれた開発側が儲かるばかりのシステムが作られてはいないでしょうか。

それは、発注側に専門家がいないからでもありますが、結局、誰もシステムの全体像を把握できないからではないでしょうか。

デジタル化すれば都合が良いことが生まれるならば良いのですが、不具合が生まれることもあります。

そこを学習して、次の開発に進むというような段階的な進化をしないと、いつまでも同じことが起こるように思います。

電子化で本当に楽になるようにするのは、何をなくすのが必要なのか、どこにネックがあるのか、きちんと考えることができる人がいないと、結局使われないのだなあ、と、改めて思います。

それは、日本だけの問題ではなく、実はアメリカでも同様なんだなとしりました。

各衛生当局が感染経路を追跡するのに使っている方法は、いかにもアメリカ的なごたまぜだ。一部の検査結果はデジタル化されスムーズに集積されるが、電話、電子メール、郵便、ファクスで送られてくる検査結果も多い。
 ファクスがいまだに使われているのは、保健情報のデジタルプライバシー基準に配慮した結果だ。物理的に送られる報告書は往々にして重複し、管轄とは違う保健所に届き、感染者の電話番号や住所といった肝心の情報も抜けている。
こうしたデジタル化の遅れのせいで、感染拡大の抑制に欠かせない症例報告と接触者の追跡に支障が出ている。さらに公衆衛生分野の経験に乏しい機関が多数、症例報告と接触者追跡に加わったことで、混乱はいっそう深まった。

新型コロナウイルスは、本当に、嫌なところを責めてくる奴で、社会の弱いところを明らかにする性質を持っていますね。



サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。