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漫才論| ⁵⁴カバー漫才台本 「チュートリアルの『バーベキュー』をアンタッチャブルがカバーしたら」

「カバー」と言いながら,カバーではなくコピーやモノマネになってしまうパターンが多いカバー漫才ですが,その原因についてはこちらの記事で書きました

原因が分かっても,コピーやモノマネではない「カバー漫才」がどのようなものなのかを見てみないとイメージが湧かないかもしれないと思い,カバー漫才台本を作ってみました

元ネタは,2005年のM-1グランプリ決勝で披露されたチュートリアル「バーベキュー」のネタです。今回はこのネタを,「アンタッチャブルがカバーしたらこうなるのではないか」というイメージで書いてみました(読みやすいように元ネタよりも短くしてあります)

柴田:明後日バーベキューに行こうと思ってるんですけどね
山崎:一人でね

柴:みんなでだよ
山:みんなで!?
柴:あたりまえだろ。なんで俺一人でバーベキューに行かなきゃいけないんだよ
山:一人で行ったら串に具材を刺し放題だからね
柴:うれしくないだろ。一人で串に具材刺し放題。寂しいだけだよ
山:寂しくはないでしょ
柴:寂しいよ。一人でひたすら串に具材刺す作業
山:みんなと行くと人の目が気になりますからね
柴:「人の目」ってなんだよ
山:串に肉刺すでしょまずね
柴:バーベキューの準備ね
山:次にぼくは,ピーマンを刺したいのよほんとは
柴:刺せばいいだろピーマンを
山:でも肉さして次にピーマン刺したらね,みんなに「ダサい」って思われるんじゃないかと思って
柴:言わないよ。「ダサい」なんて
山:口に出しては言いませんよそりゃあ。大人だからね
柴:だったらいいだろ
山:でも心の中ではみんな「ダサい」って思ってるんじゃないかな〜って
柴:誰も思ってないよそんなこと
山:だって肉の次にピーマンだよ
柴:なんなんだよ,「肉の次にピーマン」って。普通だろ
山:いやだって,「肉→ピーマン」から刺し始めるのは80年代の刺し方だからね
柴:「80年代の刺し方」ってなんだよ
山:でもぼくは80年代の刺し方が大好きなのよ
柴:だから「『80年代の刺し方』ってなんなんだ」って聞いてんだよ
山:あのモダンなかんじが?
柴:え?何?音楽とかファッションの話?
山:バーベキューで串に具材を刺すときの話
柴:そんなのに80年代がどうのとかないだろ別に。みんな適当に刺してんだからあんなの
山:そういう感覚の人と一緒にバーベキュー行くのが嫌なのよぼくは
柴:「そういう感覚の人」ってなんだよ
山:バーベキューを軽視するような発言をする人?
柴:軽視はしてねぇよ別に。みんな適当に刺してんのよあれはほんとに
山:だからぼくはいつも一人でバーベキューに行くんですけどね
柴:寂しい人生だなぁおまえは
山:「寂しくない」って言ってんでしょうが。ぼくはもう今年はね,人目を気にせず,肉からじゃなくてピーマンから刺し始めようと思ってますからね
柴:いいんだよ別にそれは。ピーマンから刺し始めたって
山:今年はピーマンから刺し始めるのが流行ってるんでね

柴:流行ってんの?そんなの?
山:まずピーマンを刺して,次に何刺します?柴田さん
柴:俺は別に「ピーマンから刺す」って言ってねぇよ
山:とりあえず流行りには乗っからないと
柴:おまえ結局人の目気にしてんじゃねぇかよ。流行りに乗っかろうとしてよぉ
山:流行りには乗っかりたいよ〜
柴:流行ってないんだよだいたい。その「ピーマンから刺す」とかいうやつ
山:どうします?次。何刺します?
柴:なんで俺に聞くんだよ。おまえが「好きなように具材を刺したい」って話じゃないのかよ
山:ちょっと思いつかなくてね。ピーマンの次に何刺したらいいか
柴:「思いつかない」とかないだろこんなのに
山:ピーマンから入るとねぇ,次が難しくなるんですよね〜
柴:なんだよ「次が難しくなる」って。その辺にある具材適当に刺せばいいんだよ
山:とりあえず柴田さんのやつ教えてよ
柴:じゃあもうウィンナーウィンナー
山:ウィンナー2個ね。それは思いつかなかった
柴:2個じゃねぇよ
山:「ウィンナーウィンナー」って2回言ってたから
柴:それはただ投げやりな気持ちで「ウィンナーウィンナー」って2回言っただけだよ
山:柴田さんこれあれでしょ
柴:なんだよ
山:初めてじゃないでしょ
柴:「初めてじゃない」って何が
山:「ピーマン→ウィンナー」から刺し始めるのはニューヨークスタイルだからね
柴:ニューヨークスタイル?
山:雑誌かなんかで見たのかな〜
柴:見てねぇよ。あんのかおまえ。「月間バーベキュー」みたいな雑誌が
山:トーマス・マッコイが得意とするニューヨークスタイルね
柴:誰だよそいつ。トーマス・マッコイって。聞いたことねぇよ
山:近代バーベキューの父トーマス・マッコイですよねぇ
柴:いるの?そんなやつほんとに
山:有名ですよ
柴:なんなんだよ「近代バーベキューの父」って。おまえあれだろ。「トーマス・エジソン」を文字っておまえが勝手に考えた名前だろこれ
山:で?ウィンナーの次は何刺します?
柴:え?
山:お次は?
柴:じゃあもうエリンギ
山:エリンギね。それから?
柴:え〜とうもろこし
山:そして?
柴:え〜とうもろこし
山:おぉきた!からの?
柴:とうもろこし
山:そうきますか!もういっちょ!
柴:とうもろこし?
山:すごいですね〜柴田さ〜ん
柴:すごくねぇよ。俺調子に乗せられて最後とうもろこし4個も刺しちゃってるからね
山:柴田さんやってたでしょ
柴:「やってた」ってなんだよ
山:バーベキュー
柴:バーベキューはやったことあるけど,「やってた」っていう言い方は違くない?
山:最後とうもろこし4個も刺しちゃうのはもう師匠レベルよ
柴:なんだよ「師匠レベル」って
山:バーベキュー師匠レベルよ
柴:「ハンバーグ師匠」みたいに言うんじゃねぇよ
山:柴田さんホームページ持ってんの?
柴:ホームページ?
山:バーベキュー専門のホームページ
柴:持ってるかい!そんなもん
山:師匠なのに?
柴:師匠じゃないのよ俺は
山:いや師匠!もう一本刺していただいてもよろしいでしょうか?
柴:なんでだよ
山:そこをなんとかお願いします

柴:そしたらもう〜ピーマン→
山:さすが!
柴:ピーマンは流行りに乗っかってるだけだからね
山:お次は?
柴:そしたらイカ
山:ここでイカね〜
柴:いいのこれ?合ってんの?
山:めちゃくちゃいいですよこれは
柴:全然分かんないのよ。いいとか悪いとか
山:それから?
柴:え〜たまねぎ→ベーコン→とうもろこし
山:出たとうもろこし!
柴:最後はとうもろこしがいいんでしょたぶん
山:素晴らしい作品ですね〜
柴:作品?
山:その新作を披露されてはいかがでしょうか?師匠
柴:「新作」ってなんだよ。こんなのに「新作」とかないだろ
山:早速明日のバーベキューで
柴:明日のバーベキュー?
山:ぼく明日バーベキュー行く予定なんでね
柴:俺は明後日バーベキュー行く予定なんだよ
山:明日も一緒に行きましょうよ師匠
柴:嫌だよ。なんで俺二日続けてバーベキュー行かなきゃいけないんだよ
山:明日のバーベキュー,ぼく一人で行くの寂しいんでね
柴:おまえ一人で寂しいんじゃねぇかよ。いいかげんにしろ

これを読んで,「チュートリアルのモノマネ」という印象はなく,「アンタッチャブルのネタのようだ」と感じられたら,「カバー漫才」として成功だと思います

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作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた


あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】