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第五十九話:謎の現象とトラブル対処

 私は何かを書いている。
 いや、違う。
 誰かが何かを書いているのを私が見ている。

――過去の記録?――

 そう思いながらそれを見る。
 本に魔術に関する事柄を書き記している。

『私ではあれらを――のは無理だった、だから私を超える者に託そう』

 男性の声だ。
 聞いたことがない、一体誰の声だ?
 後、大事な箇所が聞こえなかった気がする。

『三つの学院に私の残した魔術陣を代々見せる事を頼んだ。私を超える資格を持つものはこの記録を見るだろう』

 えっと、まって。
 もしかしてこの声の主は術王サロモネ?
 え、ちょっとどういう事?

『どうか、どうか、インヴェルノ王家の書庫にある私のこの本を――』

「ダンテ殿下!!」
 フィレンツォの声に目を覚ます。
 大事な箇所を聞きそびれた気がするのは気のせいではない。 

 痛みもすっかり治まっていたので、私は若干不機嫌な顔をして体を起こしてフィレンツォを見る。

「――フィレンツォ、心配してくれたのはありがたいのですが、おかげで最後まで聞けなかったではないですか」
「……何をおっしゃられているのです?」
 目覚めた主がいきなり訳の分からないことを言い出したのにフィレンツォは困惑しているのが分かるが仕方ないだろう、事実なんだから。
「……教授か学長を呼んではいただけないでしょうか? あの魔術陣について、聞きたいことがあるのです」
「し、しかし……」
「フィレンツォ、これは『命令』です」
「……畏まりました」
 フィレンツォはそう言って医務室を後にした。

 扉の閉まる音を聞いて、私は少し硬いが清潔なベッドの上で息を吐く。

「……」
 目元を触る。
 気になったので、ベッドから起きて医務室の鏡のある箇所を探し、見つけて近寄る。
「……」
 一見すると何も変わっていない私の目だが魔力を目に集中させる。

 証が銀色に光り、黄金の目に虹色の輝きが混じる。

「?!」
 私はその現象に驚いて、確認するが、やはりその現象はまた起きた。

――なにこれ?!――
――こんな現象聞いたことない!!――

 何が起きたのかさっぱり分からない私はただ混乱する。
「……とりあえず、事実確認のためにフィレンツォを待つか……」
 そう一人呟き、ベッドに戻り、腰を掛ける。

 ふぅと、息を吐くと。
 ノックもなく扉が勢いよく開いた。

「すみません! 講義で怪我を――」
 入ってきたのは、火傷をしているアルバートを背負っている、カルミネだった。
「だ、ダンテ殿下?!」
 私の姿を視認すると、カルミネは驚嘆の声をあげた。
「すみません、医務室担当者は今不在のようです……宜しければ私が診ましょうか? 一応医療資格は国にいる時既に取得していますので、他国やここでも通用する資格ですし……」
「その……申し訳ございません」
「隣のベッドに寝かせてあげてください」
「はい」
 カルミネはアルバートをベッドに寝かせた。
 服が焼けこげ、火傷も酷い。

 魔術基礎でこんな重症になるなんて聞いていない、何か理由があるはずだ。

 だが、治療できない程の傷ではない。

 アルバートの火傷の箇所に手を近づけ、火傷の治療を妨げている「物」を排除してから治癒術を使用する。
治癒サニターム
 白い光が火傷の箇所を覆い、光が消えると火傷の痕は綺麗に消えていた。
 一応、こっそり目で身体状況を見るが、特に悪いところは残っていない。
「もう大丈夫ですよ。でも念のため医療関係者の方にも診てもらってください」
 私はカルミネにそう言ってから話を切り出す。
「確か魔術基礎では最初に触媒を使う魔術を行うはず、ですよね?」
「そうですが」
「――カルミネさんが使おうとした触媒を先にアルバートさんが取られましたか?」
 私の言葉に、カルミネの目が驚愕の色に染まった。
「……触媒は授業時に、学生の出身地に分けられて置かれ、学生は自分の出身地の触媒を手にするよう言われます。お二人の授業時、お二人と同じ出身地――エステータ王国の方は他にいらっしゃいましたか?」
 その言葉にカルミネは首を振った。

 つまり、確実に狙っていたのだ。
 どちらを狙ったか、なんていうのはまだ分からない。
 ただ、どちらかを狙ったのは確かだろう。

「学長に報告しましょう」
「お、お待ちください!! その――」
「握りつぶされる恐れがあると? そんな事はありません、ならば私の名に誓っても構いません」
 私ははっきりと言った。
 それにカルミネは圧倒されたようだ。

 王族が、己の名に誓うというのをここ最近ぽんぽんとやっているが、ぶっちゃけるとこれ非常にやばいのだ。

――母国じゃ全然やらなかったからなー……――

 なんて思いながらカルミネを見据える。
 扉をノックする音が聞こえた。
 知らない人物だ、フィレンツォでもクレメンテでも、エリアでも、ブリジッタさんでもない音。
「失礼します」
 教授の補佐役らしき恰好の人物がやってきた。
「シネン君、アナベル君の容態――ダンテ、殿下?」
 私の「目」にはそいつが何か「よからぬ」物を纏っているのが見えた。

 私はそいつの手を掴む。

「貴様は誰だ」

 解除術と電撃術の両方を浴びせてやる。
「ギャアアアアアア?!?!」
 髪の毛がまぁ爆発した状態の――知らない人物が姿を現した。
 威力を上げて気絶させてから、そいつから手を離す。
 床に倒れるそいつから視線を移して、カルミネを見る。
「……カルミネさん、誰だか知ってますか?」
「い、いえ……ただ、エステータ王国の人間という事位しか……」
「なるほど」
 魔術的素質がエステータ王国で生まれ育った者のだからそれは私も分かる。

 ここに来るまで国外には出れなくても国外から来た客人に会わなかったわけではないから、そこらへん分かるようにはなってる。

「何事ですか?!?!」
 フィレンツォが血相を変えて医務室に飛び込んできた。
「ダンテ殿下、お怪我は?!」
「いや、私が狙われたんじゃなくてアルバートさんかカルミネさんのどちらかが狙われたのをちょっと対処しただけですから」
「どうして私をお呼びにならないんですか?!?!」
 目が血走っているんじゃないかと思う位の形相になって、私の肩を掴んでフィレンツォが揺さぶる。
「いや、割と緊急事態だったので、フィレンツォを呼ぶより私が直接手を出した方が早いと思いまして……あの、これでもさっきまでぶっ倒れてたんです、揺するのは止めてください」
 揺すられて頭がくらくらしてきた。
 いや、それ以外にも頭が結構きつい状態になりつつあるのは分かる。
「フィレンツォ、まず私が倒れた経緯よりも、命の危険性が今かなり高い二人の事について話したいのです。宜しいでしょうか、ブルーノ学長?」
「――勿論です、ダンテ殿下」
 医務室に入ってきたブルーノ学長は私の提案に応じてくれた。

 おっとりとした表情だか、いつもよりもどこか生真面目な雰囲気を醸し出している。

――どうしてこう問題が起きるのやら……――

 誰にも知られぬよう、私は心の中で一人ため息をついた。





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