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第六十八話:かくして縁は結ばれた(余計な事言ったら空回りするから言わんぞfrom神様)

「ダンテ殿下、大丈夫ですか?」
「ははは……お気になさらず」
 再び応接室に戻ると、少しやつれているのがごまかせなかった私は、アルバートにそうたずねられたが苦笑いを浮かべてごまかした。
 フィレンツォは何があったのか分かっているような、少し呆れの色で顔を染めていた。
「ダンテ殿下、後で少しお話があります、この件とは別に」
「わかっていますよ……」

――うわぁ、怒られるなコレ――

 屋敷に戻った後の事を考えたくなかったので、頭の隅に追いやる。
「それよりも、私が席を外している間に色々と話しているのでしょう? 現状私が知ってよい範囲だけでもよいので教えていただけませんか?」
「……畏まりました」
 フィレンツォは重い息を吐きだしてから内容を説明しはじめた。

 まず、最初に今回の件を起こしたのはカルミネの一つ下の弟と、叔父という情報だったが、そこにアルバートの一つ下の弟とその弟の従者も関わっていることが分かった。
 そしてカルミネを狙って起こした事件だったが、実際はアルバート狙いだった事も判明。

 では何故、カルミネが取るであろう触媒にしたのかという疑問が湧く。

 理由はアルバートが取るであろう触媒にした場合、カルミネが気づき急ぎ交換するなりするが、カルミネは自分が狙われた場合そのままアルバートを守ろうと知らぬふりをする。
 しかし、アルバートはそれに気づくので、結果アルバートに被害が及ぶという互いの関係性を理解した上で仕掛けたというのだ。

 二人の繋がり故に把握されていた為、アルバートとカルミネはその罠にまんまをはまってしまった。

 時間帯的に担当者が席を外している医務室に二人きりになったところで、アルバートには跡継ぎになれないような怪我を、カルミネにも「護衛」として「無能」の烙印を押すような痕を残すつもりだったのだが――

 想定外の事が起きた。

 部外者が、私が居たのだ。
 その結果、アルバートの怪我は全て治り、実行犯は捕まり、雇い主からの情報を吐き出し、雇い主である二人を締め上げると――他にも協力者がいたことが判明した。

 言ってしまえば両家のドロドロとした物が表沙汰になり、カリーナ陛下の耳に届くことになってしまった。

 エステータ王国の国王たるカリーナ陛下は――

『インヴェルノ次期国王、ダンテ殿下の言葉で両家の処遇を決定する』

 とまぁ、私にとっては寝耳に水な発言なので頭が痛い。
 ぶっちゃけると、私の判断一つで前世的に言えばお家断絶、取り潰しも可能なのだ。

 追放も、存続も、処刑も、私の判断一つで決まる。

――頭が痛い!!――
――何でこんな若造に重い事背負わせんのかなぁ国王様達って~~!!――

 話を聞かされた私はそう思った。
 これだと、確実に二人との間に溝が出来かねないし、頭痛の種が増える増える。

――いや、本当何で私に任せるのかな?――

 カリーナ陛下はそういうタイプの王様だとは思っていなかっただけにダメージもでかい。

 私はちらりと沈痛な面持ちの二人を見て、額に手を当て息を吐いた。
「――とりあえず一つだけ、アルバートさんとカルミネさんには非がないと思っています。なので両家の爵位返上等は考えておりません」
 私は何とか言葉を絞り出した。
 その言葉に、二人の気が少し緩んだのか、重い空気が少しだけ軽くなった。
「私はアルバートさんと、カルミネさんの家の内情をまだ知りません。何故あのような事が起きたのかすら私はまだ知らないのです。ですから――」

「お二人からお話を聞きたいのです。私に話せる所からでよいので、話してくださるのでしたら……私はとても嬉しく思います」

 口元に淡く笑みを浮かべて私は二人を見る。

――安心してくれればいいのだけれども――

 そう願いながら二人を見る。
「ダンテ殿下の恩情に報いれるようにいたします」
「有難うございます、ダンテ殿下」
 少し言葉がこわばっているが、それでも少しはマシになっているように思えた。
「有難うございます。ですがさすがに今日いきなり事情を私に話すというのは急すぎますので……少しずつお二人と交流できたらというのが私の願いです」
 私がそう答えると隣からちょっと圧を感じた。

――まーだ許してないんかお前――

 フィレンツォはまだ不服そうだ。
 私がいない間に二人から色々話を聞いたからか、それともまだ根に持っているのかどっちか分からないが、どっちにしろこれは強引に行かせてもらおう。

「宜しければ今度は屋敷に来ていただけないでしょうか? もし宜しければ『友人』として私と行動を共にしてくださいませんか?」
「ダンテ殿下?」
 私の言葉に、フィレンツォは「何をいってるんだ私の主人は?」と言いたげな声で私を呼ぶ。
 アルバートとカルミネも驚愕の表情を浮かべている。
「毎回応接室を借りるもの大変ですし、それに同じような事が起きないとは限りません。それならばと、思いまして」
 私は淡々と言葉を口にする。

「何より、私はお二人と仲良くなりたいのです」

 偽りのない言葉を二人へと告げた。

 だって、私が居るのはその先の為だからだ。

 皆を幸せにしたい、皆と幸せになりたい。
 変わらぬ、私の願い。

 二人は私の言葉に、一瞬だけ顔色を喜色に染めたが、すぐそれを隠して頷いた。
 フィレンツォはまだ若干不満げだったが、そこは後でフォローする予定だ。

 つまり、私はクレメンテ、エリア、アルバート、カルミネ、フィレンツォ、ブリジッタさん。
 この六名と、基本行動をとることになったのだ。

 ちょっとした集団になる。
 目をつけられやすくなるが、逆に私が対応しやすいので都合がいい。
 エリアにクレメンテ、アルバートにカルミネが悪く言われるのではないかは不安だが、適宜対応していけばいい。

 問題はまだ山積みだし、課題も多い。
 正直、前世かつての私なら逃げ出すか関わらない様にするだろう事柄だって多い。

 でも、それはしない。

 私が望んだ未来に至る為なら、私は頑張るとあの時決めたのだ。

 話合いを終え、屋敷に戻った私は少しばかり疲れていたので、自室で休むことにした。
 ベッドに寝っ転がり、息を吐きだす。
「……」
 目を閉じるが、若干渋い顔をしている気がする。

 前世から本当は人付き合いが苦手で、コミュ障で、仲良くなった同士にだけおしゃべりになるか、SNS上だけ「おしゃべり」とかのタイプの存在だ私は。
 今も完全に変わっているわけではない。

 次期国王という事もあり、前世以上に上辺を取り繕うのが上手くなってしまったのだ。

 なので、慣れない事をすると、どっと疲れる。

――まじしんど――
『お前にしてはかなり頑張ったな』
――がんばったからほめてくださいませ――
『うむ、よくやった』

 神様の誉め言葉が、何故か不穏に感じられた。

『さて、漸くお前は本格的にエドガルド、エリア、クレメンテ、アルバート、カルミネ、この五人との縁ができた訳だ』
――アッハイ――
『つまり、ここからがより重要になる、しくじるなよ?』
――あの、しくじるなと言われても……――
『んー私が言った事を守っていればいい、お前の場合はな』
――はい?――
『つまり肉体関係解禁の合図を送るまでそう言った事柄は厳禁だ、というのを守れ、以上』
――ほ、他は?!――
『お前の性格じゃ言うだけ面倒くさい事なるだけだ』

 神様の無慈悲な言葉。

――そんなぁああああああああああああああ!!!!――

 一寸先は闇とはこのことだ、本当。




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