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第六十九話:問題は解決に至らず(お前の性格的に最善なんだすまぬfrom神様)

「――ダンテ様?」
 はっと目を覚ますと、フィレンツォの顔が目の前にあった。
「うなされていたようですが……大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
 私は笑ってごまかす。
「……ダンテ様」
 体を起こした私の手をフィレンツォが握った。
「貴方様が他者と関わる事を本来不得手としていることを私は知っております。だからこそ、何故此処迄無理をしているのかが不安で仕方ないのです」
 フィレンツォの顔は、まるで親に言えない隠し事――そういじめと言う名前で軽くみられる犯罪行為をされているのを我慢している子の様子に気づき、それをどうにかして引き出して解決したいと願っている親の顔をしていた。
「……」
「エリア様の件は納得できます、ダンテ様はお優しい方ですから。クレメンテ殿下の件も納得できます。ですが――」

「何故、アルバート様とカルミネ様にそこまで気にかけられるのですか?」

 フィレンツォの言葉は納得はできる。

 エリアとの出会いは私が助けたという所から。
 クレメンテは同じ学年の王族という所から私が気になり関わった。
 だが、アルバートとカルミネは向こうから私に関わってきた。

 確かに、助けたり色々あったが、フィレンツォからすると納得がいかないのだろう。

 エリアもクレメンテも自分ではどうにもできない苦しみを抱えて生きていた。
 けれども、アルバートとカルミネはフィレンツォからすると二人に比べて軽く感じられるのだ。

 まぁ、細かな両家の家庭内の事情なんて私はまだ知らないけど。
 知ってるのは、両方とも次男が屑ということか。

 そこも踏まえて二人から聞いた事で、フィレンツォにとって納得がいかないことがあったのかもしれない。

 それでも、納得してほしいのだ、私は。

「――他の人達はやや強引に勧誘したり交友関係を持ちたがったけど、アルバートさんとカルミネさんは何処か違うように思ったんだ」
「つまりそれは……」
「他の方は大体私が『次期国王』だから近づきたい方々ばかりだし、そうじゃないまぁ……少し苦手な奴もいたが、二人は違った」
 少しぼかしつつ、私は二人がそういう類の輩とは違うとフィレンツォに言う。
「……ですが、あの御二方は約束を――」
「フィレンツォ、それはそうかもしれないけれど。お前は二人から話を聞いているのだろう?」
「ええ……」
 私はフィレンツォの手を握り返す。
「自身の家がどうなるかもわからない状況で、家の心配をしている者がその不安に耐えられるわけがないだろう? 彼らはまだ若い……というか、私と同い年なんだから焦るのは当然だ」
「ですが……」
「私はまだほとんどの事を知らないけれども、あの二人は良からぬ感情で私に近づいたわけではないのは分かるから、私にはそれだけで十分だよ」
 笑って答えると、フィレンツォは呆れの息をついた。

「だから、問題なのです」

 そうぽつりと呟くのが聞こえた。

――え、どゆこと?――

 意味が分からなくて、混乱する。

『お前は気にするな、聞かなかったフリしとけ』
――アッハイ――

 神様のお告げ基いつものアレなのを理解し、私はフィレンツォの言葉を聞かなかったことにした。

 とにかく、フィレンツォを何とか言いくるめた私は、その後「夕食まで休んでいてください、いいですか『休んで』くださいね!!」というフィレンツォからの圧もあったので自室のベッドでゆっくり休む事にした。

 精神的に疲れているからありがたかった。

 やらなければいけない事はたくさんあるが、その為の無理は周囲を不安にさせる。
 それは裏切り行為に他ならない。
 だから、無理はよほどのことがない限り控えたいと思っている。

 ベッドの上で横になっているのはとても落ち着く。
 前世でも、ベッドの上は至福の場所だった。

――ベッドでごろごろしながら動画見たりソシャゲやったりと最高だったなぁ――

 しかし、此処では電子書籍っぽいものと動画っぽいのはあるけども、どれも前世のモノとは明らかに違うものばかり。
 それにそう言う類のものに向こうでいう「アクセス」するには色々と手続きがあって面倒なのだ。

――しかし、横になっているのも暇だ――

 本を何度も読み返すのもいいけれども、少し新しいものが欲しい。
 遊びたいが遊びたくない。

 矛盾した感情と、我儘な願いが頭をよぎる。

――うーむ、城に居た時より確かに不便だ――

 そんな事を考えながら目を閉じる。

――……ちょっと待て?――

 ふとあることに気づき、私は目を開けて、思案する。

 神様からは「解禁の許可を出すまで、性的行為やそれに近しい行為は禁止」と言われている。
 つまり今の私は童貞だ。
 前世の私も性的知識しかないような奴だ、エロ本とか動画とかエロゲーあんだけやってたけど性的趣向の所為でどうしてもやれなかった。

 つまり、ぶっつけ本番になる。

――ギャー!!――

 起きて頭を抱える。

 解禁の許可がいつかも分からない上に、そういう経験もロクにないまま私はすることになるのだ。
 いくら本等で事前学習していようが、本番では役に立つかなんてわからない。
 耳年増なんて役に立つとは限らない。

――どうしよう!?!?――
『余計なことするな、お前はそのままでいろ』
――はぁ?!?!――

 神様の「人の心が分からない」ような発言に耳を疑う。

――散々私の悪いところ駄目だししてる癖になんでこういう所で「そのままでいろ」とか言うんだよこの神様!!――
『仕方ないだろう、お前そういう事にビビりなんだから』
――うぐ――

 ビビりなのは否定できない。
 そうだ、私は怖くてそういう事が出来なかった。
 男と女が一般的にするようなセックスだって、そうじゃないのセックスだって経験がない。

 裸で抱き合って異性もしくは同性と寝ることすらも経験した事がない。

――そうだ私は臆病者だ――
――臆病者で何が悪い――

 開き直る様に自分に言い聞かせると、神様の呆れたようなため息が聞こえた。

『――だからだ、お前はそういう事に関しては臆病だ、だから無理強いして拗らせるよりも、そのままでいる事でいいように私は導いている』
――そのままでいる事でいいように導いている……?――
『お前からすると良く分からないだろうな、お前はそういう存在なのは重々承知だ。だからこそ、言うぞ。絶対性行為やそれに近しい行為はするな、解禁宣言までするな』

 念を押すように神様は言う。

『解禁後にあった事は大体想像ができているからこそ、私はお前の怒りを受け止める。わかったら今は先ほど言った事は守れ』
――いや、それ何か不穏なんですが?!――
『余計な事を考えるな、お前の性格上現在はこれが最善だ』

 そこまで言われたらやはり大人しく聞くしかない。
 実際、神様は口を出さない事が最善だと判断したらそうするし、逆に口を出さないと不味い時は遠慮なく言ってくる。

 実際、神様は助言してきたし、色々と教えてくれている。
 私を苦しめて確かめる性質ではないのも分かる。

 先が見えない不安と、本当にこれでいいのかという疑問。
 それらを何とか飲み干して、私は進まなければいけない。

 自分で選んだことだから。



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