第六十三話:だから一体何なんだ?!(お前はそういう奴だからなfrom神様)
手紙はフィレンツォに前回同様渡し、フィレンツォは屋敷を出ていった。
何処か安心したフィレンツォの表情的に、私がエドガルドと手紙でやり取りすることが私にとって良い事だと思っているように見えた。
フィレンツォ的に、私は抱え込みすぎているのだろう。
それ以外にも色々とあるのは分かっているけども。
少し色々と考えてたら疲れたので、ベッドの上に横になり、目を閉じた。
そのまま程よい眠気がやってきて、私の意識はそこで暗転した。
「「――」」
私を呼ぶような声が聞こえて目を覚ますと、そこにはフィレンツォではなくエリアとクレメンテが居た。
「クレメンテ……殿下に、エリア? どうしたのですか?」
まだ少しだけ怠い体を起こす。
本当はクレメンテを名前だけで呼びたかったがエリアが居るのでやめておいた。
何となくだけど。
「フィレンツォ様が……ダンテ殿下を、起こしにいこうとしていたのを、代わって、もらったんです……」
「夕食の支度で……」
話すのが苦手な二人は何とか言葉を口から紡いでいた。
嘘は言っていないのは分かる。
けれども、何か、隠してはいる。
『それを詮索しようとしたりするなら』
――はいはいゲーム的に言えば難易度滅茶苦茶難しくなるんでしょ?!――
『分かっているならいい』
いつものように、突如私の頭の中にだけ聞こえる神様の言葉。
――本当この神様はありがたいけど、ありがたくない!!――
はた迷惑ではないのだが、不穏要素を漂わせてくるから怖いのだ。
ただでさえ、色んなドロ沼状態の所に足突っ込んでるんだ、勘弁してほしい。
少しは心に平穏をください、本当。
神様に呼び出されて、そして「戻される」のには慣れているし、その直前までどう答えるかも考えてはいた。
「ありがとうございます。クレメンテ殿下、エリア」
まだまとわりつく眠気を払って私はそう答える。
「ただ、寝ているのを見られたのは少し恥ずかしいですね、酷い時は酷い寝顔をしているそうですから」
続けて困ったように笑う。
「そ、そんなこと、ありません、でしたよ……」
「はい……それよりも、私達に代わりに起こしにいっても良いと判断した事に驚きました……」
「それですか」
クレメンテの言葉に私は何でもないように返す。
「フィレンツォはああ見えて人を見る目は確かですよ。まぁそれを知っていたからフィレンツォの前に中々姿を見せない輩もいて苦労しましたけれども」
「あの……つまり?」
「フィレンツォはお二人を信じております、そういうことです。」
私は其処で答えを区切った。
あまり色々と言うのは何となく不味い気がしたのだ。
「……ダンテ……殿下は私達の事をどう思ってらっしゃるのですか?」
クレメンテの言葉に、私は即答した。
「大切な方々だと思っています。二人ともとても大切なのです」
私はそう言ってベッドから完全に起き上がる。
「――どうかしましたか?」
私は何でもないことなので二人を見るが、驚きと落胆それとよく分からない何かが混じった表情を浮かべているのが分かった。
「……いえ、何でも、ありません」
「ダンテ殿下は、お気になさらず……」
「?」
『まぁ、お前ならそうなるだろうな。今は気にするな』
――さよですか……――
何か気にはなるが、とりあえず、二人が手を掴み、引っ付いて歩きだすのでこのまま歩き出さないのも危ないと思いそのまま足を動かし、歩き始めた。
食事を並べ終えたフィレンツォに見られると、目を丸くしてすぐさま呆れの顔をされた。
――解せぬ――
食事は美味しかった。
前世の昔の世界の王族や貴族を元にしてたままなら、私は冷めた料理を食べている事が基本になる。
だが、この世界ではそうではない。
温かな料理を口にできる、それは嬉しい事だ。
夕食を取り、入浴やらなにやら済ませて、一人部屋に戻って読書の時間。
予習復習は終えたので、趣味の読書の時間。
音楽を流す魔具を使用して、音楽を聴きながらの読書はとても幸せな時間だ。
神様曰く、前世からの音楽を魔具に入れて聞くことも可能らしいが、あえてそれはしない。
いや、聞きたいのだけれども、それをやったら不味い気がするので我慢することにしている。
読んでいる本は異種恋愛の本。
――人外×人、人×人外、どっちも好きです、美味しい――
この世界でもそういう話は割とあるのは嬉しかった。
無かったら自分で書くしかなかったからだ。
――いや、自分も書いてるけどさ――
そう思いながらちらりと時計を見る。
まだ全然早い時間なのだが――
扉を叩く音が聞こえた。
「ダンテ殿下、いらっしゃいますか?」
「フィレンツォか、入って来てくれて構わない」
私はそう答える。
扉が開きフィレンツォが入ってきた。
トレーの上にカップが乗っている。
「どうぞ」
カップを手に取り中身を見る。
独特の匂いにとろみのある黄色っぽい温かい液体が入っている。
この飲み物、生姜茶。
前世では生姜湯と呼ばれるもの。
これを出すという事は――
――さっさと寝ろって事か――
「分かったよ、飲んだら今日はもう寝るから」
「そうして頂けると幸いです」
カップの中の生姜湯をゆっくりと飲む。
飲み終えてカップをトレイにのせると、フィレンツォはサイドテーブルにトレイを置いて膝をつく。
「ダンテ様」
「どうした?」
いつもならそのまま部屋から出ていくのに、フィレンツォはそれをしない。
――何か、あったのか?――
――いや、私が何かしたか?――
「……大変失礼な質問をしますが宜しいでしょうか?」
「別に構わない、お前がそこまで深刻そうな顔をしてるのだから」
さっぱり原因が思いつかないが、深刻な顔をしているフィレンツォを見るとそうとしか返せなかった。
「では、お聞きします。ダンテ様」
「ダンテ様は誰かを抱きたいと言う欲求をお持ちでないのでしょうか?」
――は?――
フィレンツォの質問に私の思考は一瞬停止した。
――なに、つまり私は不能とか、もしくは性的欲求持たない系と思われてるわけ?――
頭の中がこんがらがってきた。
「――待ってくれ、フィレンツォ。私にはまだ『婚約者』どころか『恋人』もいないんだぞ? そんな事をする訳ないじゃないか!!」
何とか吐き出せた言葉がそれだった。
事実、私はまだ誰とも付き合っていないし、婚約関係を結んでいない。
――あ、待って、フィレンツォの目が凄い私を哀れんでる、やめて、その目止めてマジで――
「……ダンテ様」
「な、なんだ?」
「……その内、痛い目をみますよ」
「いや、だからどういう?!」
何となく今のフィレンツォの発言が神様の教えてくれない発言のと似ている気がして怖い、めっちゃくちゃ怖い。
呆れの息を吐いて出ていくフィレンツォを私はどうすればいいのか分からず見つめるだけだった。
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