第十二話:返事の手紙~兄が抱えるモノ~
外から見たら順風満帆。
非の打ちどころがない次期国王となるダンテ王子。
慈悲深く、けれども許されざる悪には決して情けを与えぬ正義感の強き御方。
等等色々言われているものの、とうの本人の私としては――
両親が無理をしてないかいつも心配で過保護になりがち。
無理を少しでもしたら今は執事であるフィレンツォの圧で強制休養。
部屋にぶちこまれて、しかも監視される。
不安要素の実兄の状態が分からず不安満載。
という状態にある。
内情を知らんまぁ、良く分からないって本当だなと言わざる得ない。
そして、私の不安要素はピーク状態を保ったままに今なっている。
理由は簡単だ。
兄が留学して四年目になる。
つまり、兄がもうじき帰ってくるのだ。
手紙の返事は一度もない。
兄の交友関係も分からない、そして知っているはずの神様も何一つ教えてくれない。
なのに。
『エドガルドは帰ってきた後にあるお前の16歳の誕生日に、お前を強姦しようとするのは確定だから頑張れ』
と言う鬼畜っぷり。
相談できる相手なんていないから私は誰にもそういう事を相談できないまま一人頭を抱える。
ゲロ吐けるならマジで吐きたい。
そんな気分でもある。
「……もうじき兄上が帰国するのか……」
誰にも言えない不安の所為でちょっと無理をやらかした私は、自室でフィレンツォに監視され勉強関係の事をやらないよう監視されたまま呟く。
「ええ、エドガルド様の帰国の準備が進められております」
「……結局兄上から返事は一度も来なかったのは、悲しいな……」
「ダンテ様……」
「兄上が良い学院生活を過ごせたかすら私にはわからない。父上と母上にも分からないのだ。兄上の執事も把握できない、もしくは把握できても言えないのかもしれない。どちらにせよ、不安なんだ」
「だからあのような無理をここ最近なされていたのですね……」
「分かってくれたならそろそろ外とかに出たいんだけど……」
「それは駄目です」
フィレンツォの言葉に盛大に舌打ちする。
抜け出す方法はなくもないが、それをやったら不味い気がするので、此処は大人しくしておこうと我慢することにした。
ノックする音が聞こえた。
「ダンテ殿下、今お時間宜しいでしょうか?」
この声はメイドのベルタの声だな。
「ええ、ベルタ。入ってきてください。どうしたのですか?」
入ってきたベルタは私に丁寧な礼をすると近づいてきた。
そして一通の手紙を取り出した。
それはインヴェルノ王家の者しか使うことが許されていない印璽で封蝋がされていた。
父や母が手紙で私に何か言う必要はない、呼べばいい。
となると、現時点でこれを使える人物はただ一人――
兄――エドガルド、という事になる。
私は手紙を手にした。
「では……」
ベルタが出ていくのを見送ると、私は手紙を暫く見つめて、口を開いた。
「すまない、フィレンツォ。出て行ってくれ」
「ダンテ様?」
フィレンツォは問うように私の名を呼ぶ。
「――これは私以外が見るべきものじゃない、おそらく。父上も母上もだ。だからすまない、出て行ってくれ」
「……畏まりました、ですが何かあった時はすぐお呼びください」
「分かってる」
フィレンツォはそう言って部屋を出て行った。
私は周囲の監視や透視の類の術が解かれているのを確認した上で手紙をの封を解く。
中には、一枚の紙、便箋。
文字は何もないように見える。
が、この世界は消しゴムに相当する修正筆が相当する。
元の世界の修正ペンのように液体をだすのではなく、筆でなぞった箇所、文字が跡形もなく消えるものだ。
なので消しゴムのように痕が残ることもない。
「……」
それを利用して暗号文を送るという事も出来る。
だが、魔術的な要素があるので、素人がそれをやったらすぐさまバレてしまう。
兄は――かなり強い魔力を込めている。
並大抵の術師では兄が何を書こうとしたのか読めないだろう。
私には読めるのだが――これは読みにくい代物だった。
理由は簡単、幾度も、幾度も修正しているのだ。
文字を無数に重なっているのだ。
これを読み解くのは非常に面倒だ、時間帯毎に文字を見る事もできるが、私は手っ取り早い方法をとる事にした。
兄が書きたい、書きたかった文字。
兄が、強く思っていること。
その二つを読み取ることにした。
神様が口出しをして来ないので、おそらく間違ってはいないのだろう。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
ユ る し テ く レ
た ス け テ
―――し テ――
「っはぁ……!!」
どぱっと汗が出た。
あまりやらない事の上、此処迄重く苦しく、辛い感情を抱えているのが分かったのだ。
また、それらの所為で薄れて完全に読み取れなかったものもある。
それでも分かったことがある。
兄は助けて欲しがっていると、許しを欲しがってると。
問題は何をどう、許し、助けて欲しいのかが分からないということ。
そして予想ができた。
おそらく、兄の学院生活は、兄にとってよくないものだったのだろう。
これほど憎しみを膨らませているのだ。
けれども――
それを、両親に伝える事はしてはならないのが分かる。
これは兄が「私」へ宛てたものなのだ。
他の者が立ち入ることは兄への裏切りになる。
私は目を閉じ、息を吐いて鍵付きの机の引き出しに手紙を仕舞い、鍵をかける。
「……」
――一体どうすればいい?――
『とにかく、下手な行動はとるな、いつも通りでいろ。もしくは兄の無事を待つそう言う行動だけとれ』
――……わかった――
困ったときの神頼みという言葉はあるが、まさにその通りだ。
こういう時は素直に従おう。
私は、兄からの強姦を防ぐと同時に、兄に「手を差し伸べる」ことをやらなければならないのだ。
自信などない。
けれども、やらなければならない。
私が選んだ道なのだ、これは――
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