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第六十七話:両家の問題と、私の事

「話、というのは先日のカルミネさんの命を狙っていた輩――アナベル家とシネン家の両家の事柄で宜しいでしょうか?」
 私は確認するようにたずねた。
「はいその通りです」
「カリーナ陛下から頂いた情報では狙われていたのは怪我をしたアルバートさんではなく、カルミネさん。そして依頼したのはカルミネさんの『叔父』と『弟』と聞いています。合っていますか?」
「……はい、その通りです。ダンテ殿下」
 カルミネさんが口を開き、酷く重い声を吐き出した。
 私は悩んだ。

 心当たりが一つあるのだ。

 前世でギリギリノーマルエンドまでしか行けなかった私だが、覚えている。
 アルバートとカルミネは次期当主にはなりたくない。
 だが、自分の一つ下の弟――つまり次男達は問題があるので跡継ぎにしたら家がつぶれる。
 それをどうにかしたいと思いながらもどうにもできないでいるのがこの二人だ。

 二人のどっちかとくっつくルートに行けば、王族特権というか助言で次期当主を両家ともカルミネは三男坊、アルバートは妹であり長女に任せることができる。

 だが、現状私と二人の関係はそこまでではないので、それができないし、そもそも知っている事事態がおかしいので言うこともできない。

 という事で、私は何を言えばいいのか分からない状態になっている。
 ため息をついて言葉を零した。
「――それにしてもぞっとします、あの時私が居なかったらというのもそうなのですが……もし、どちらかが亡くなったら何か企みを持っている輩が一気に隙を狙ってきたでしょう」
 そう言って酷く空気が重くなったのを見て顔を上げれば、アルバートとカルミネの顔は強張っている。

――ん?――
――これ確実に今の言葉で何かきてるよね?――
『その通りだ。私は特に今は助言はしない、故に悩み自分なりに話を進めろ』
――えー?!――

 神様に「頑張れ」と言われるが、ちょっと無理すぎて辛い。

「フィレンツォ、もしかして……」
 私は、フィレンツォのしか聞こえない声で彼に言うと頷いた。
「はい、ダンテ様。その通りかと、此処からは私に少しお任せくださいませ」
「分かった、頼んだよ」
 フィレンツォは穏やかにほほ笑んで頷いてから、生真面目な表情を浮かべた。
「今回の事件、どちらが跡継ぎになれない状態にさえなればよかったものではないでしょうか?」
「それは……その……」
「どういう事ですか? フィレンツォ」
 私は素知らぬ風に、フィレンツォに問いかける。
「つまりです、例えば当初の予定通りカルミネ様がそのような状態になった場合はおそらくアルバート様は今後自分が当主になったら同じ事が起こり続ける可能性があるかもしれないからと次期当主であることを辞めることを言う可能性があり得ます」
「成程……」
「今回はアルバート様がカルミネ様を庇われたましたが、主犯格等からするとこちらの方が好都合。何故なら、カルミネ様はシネン家の跡継ぎであり同時にアルバート様の側近かつ護衛の立場でもあります、それが主人に守られたなど跡継ぎ失格、故に両家の次の当主の座が空白になります」
「確かに……考えればそうなりえますね」
 私はそう言いながら、二人に視線を向ける。

 明らかに図星と言わんばかりの表情だった。
 私はそれに違和感を抱いた。

 前世の記憶――基ゲーム中の二人はごまかす、隠し事をする事に非常に長けているのだ。
 それなりに友好的にならないとそれを見抜くまでにはいけない。

 なのにそれがないのだ。

――何故?――

 理由が思いつかない。

 前世のゲームのどのルートでも、基本この二人は主人公ダンテに関わってくるのだ。
 けれども今回のような事件は起きる事がない。

 つまり今回の事が起きる何かがあったと言う事になる。

――しかし、いきなり跡継ぎやめるなんて言う事態はこの二人は起こさないだろうし、じゃあ他に穏便に跡継ぎを辞めれてなおかつ、信頼できる相手に跡継ぎを任せれるなんて都合のいい事が――
――あった――

 少し考えてあった。

――もしかして、この二人、私に一目惚れをした?――

 自惚れた考えなのは分かっている。
 でも、この二人があそこまで私に接触しようとするのは前世のゲーム内の出来事ではないことだ。

――まぁ、外れたら外れたで別にかまへんわな――

 と思いながらも口にはしない。

――私そういう奴じゃないもん、しゃーない!!――

 私は他者を口説けるような人間じゃない、スパダリ系とかチャラ系とかギャル系とか女王系でもなんでもない、ヘタレなんです、勘弁してくれ。

 言うべき言葉が思い浮かばず、かと言って二人にそういう事を言えるようなキャラでもない私は頭を悩ませた。
 正直私が言うと拗れる気がしないでもない。
「ダンテ殿下」
「フィレンツォ、どうしましたか?」
「少しだけ席を外してくださいませんか? その間はクレメンテ殿下やエリア様とお待ちいただいてください」
「――分かりました。アルバートさんに、カルミネさんもそれで宜しいでしょうか?」
「は、はい。もちろんです」
「はい、構いません」
 私は立ち上がり部屋を出る。
 護衛の一人が傍に着いて移動し、そしてクレメンテ達のいる部屋へと向かった。

 クレメンテとエリア、ブリジッタさんが待っている部屋の扉を叩く。
「す、すみませんダンテ殿下。す、少しお待ちを……ああ、クレメンテ殿下、落ち着いてください」
 困り果てたようなブリジッタさんの声が聞こえた。

――待つべきか、否か――
『入れ』
――いえっさー――

 神様から即座に言葉が来たので入ることにする。
「どうしたんですか、二人とも……?!」
 視界に入ったのは、微妙にエリアを押し倒してモチモチと頬を両手でつまんでいるクレメンテの姿だった。
「一体何を食べればこんな肌艶に……」
「……あの、クレメンテ殿下? 何をなさっているのですか?」
 漸く私の存在に気づいたのか、クレメンテは慌ててエリアから離れようとしてこけた。
「だ、大丈夫ですか?」
 こけたクレメンテに手を差し出しつつ、エリアを見る。
「エリア、何があったのですか?」
「あ、そ、その……」
 酷く言いづらそうな顔をしている。
 ちらりとブリジッタさんを見れば彼女も困った顔をしてクレメンテの傍に近寄っている。

――これあれか――
――たずねたら難易度天元突破しかねない奴か――
『正解だ、分かったらやめて置け』

 神様の言葉もあるので深く問うことは止めておくことにした。
「分かりました、言いづらい事もあるのでしょう」
 私はそう言ってブリジッタさんと共にクレメンテをソファーに座らせてから、エリアに近づいて手を差し出す。
「あ、あの……お、おはなし、は……?」
「少し席を外して欲しいとフィレンツォにお願いをされましてね、私が居ない方が話しやすいこともあるのでしょう」
 そう答えてエリアをソファーに座らせて、私も座る。
「ダンテ殿下、どのようなお話だったのですか?」
「そうですね……両家の中でのゴタゴタとだけ」
「……そんな風には見えなかったのですが」
 私の言葉に、クレメンテはそう呟いた。
「その家の内情など表に出す方もいれば、いない方もいます。目に見えるものが全てではない――と、私が言っても説得力がカケラもありませんね」
 と自嘲する。

「そんなことは、ありません!」
「何をおっしゃられているのですか?!」

 エリアが私の腕を掴み、クレメンテが私の胸倉をつかんで引き寄せて言った。

――え、えー⁇――

「ダンテ殿下は、どうして、そんなことをおっしゃられるのです?!」
「ダンテ殿下、貴方はどうして他者の事には寛容なのに、自分にはそうなのですか?!?!」

――そんな事言われても困るんですけど――

 と、思いながらも反論すらさせてもらえない私は、二人の圧と言葉をフィレンツォからの呼び出しが来るまで浴び続ける羽目になった。




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