第七十三話:自分が分からないけども~従者の爆弾発言~
フィレンツォの言葉に、私は自問自答する。
――そうなのかなぁ?――
『そうだぞ、お前は自分の中で答えが一つ固まっているなら迷うことなく答えられる。だが、逆に言えば相手が求める答えがどれなのか分からないと答えや説明が上手くできなくなる』
神様の言葉。
少し美鶴だったころの人生と、今の人生を振り返ってみて納得する。
確かに、その通りだ。
答えが複数あったり相手の求めるものが分からないと途端に説明ができなくなる。
けれども、書きだして整理することで答えを出す、説明をすることはできた。
『まぁ、勉学面での説明に悩むなら、一旦書きだして整理をしてから説明するなりすればいい。ただ』
――ただ?――
『フラグ――基恋愛的な事柄に関してはお前のへたれっぷりを理解しているからそれ相応の答えを出してやる、出せなかった場合』
――何か……すみません……――
神様の言葉に私は一気に自分のアレな所を自覚する。
『まぁ、それも考慮してお前を導くから安心しろ。お前に所謂スパダリなど求めん』
――求められても困ります――
自分に全くない要素を求められたら私は困る。
――スパダリ要素なんぞ、私にはカケラもないわ!!――
才色兼備、非の打ち所がない、完璧、なんて存在ではないのだ私は。
人と話すのは苦手だし、性格も根は陰キャ、此処で頭とかがいいのは神様の加護的なもの。
『おい、そこは自分の努力も否定するな。努力は報われるとは限らないが、努力はお前を裏切ることはなかった、だから此処迄来たのだ、そこは誇れ。自分を褒めよ』
神様にそうは言われても、何故か私はまだ自分を褒められない。
どうしてかと聞かれたら、まだ自分が皆を幸せにする事ができるって言える地点に立ってないからだと思う。
エドガルドの方は何とかなっているけども――
エリアや、クレメンテ、アルバートに、カルミネ。
この学院で出会う四人に関しては、そうではないのだ。
まだ、それぞれが抱える問題が解決していない。
解決して、皆を幸せにできるところまで持っていって、漸く私は自分を褒める事が出来るのだろう。
『やれやれ、難儀な性格だ』
――自覚してます――
『だが、その方が良いだろう。調子にのって失敗するよりはな』
――ですよね……――
調子に乗ると大体人は痛い目を見るのだ。
肝に銘じておかなければと自分に言い聞かせる。
『まぁ、問題の解決関係に関しては向こうからの反応待ちだ、あまり無理をするな』
――さよですか……――
向こうから待つしかないというのは、もどかしい。
『そんな事言って今からお前が積極的に向こうにアプローチしすぎると、後々地獄を見かねんぞ?』
――分かりました、私は大人しく気になる時こそりとフィレンツォに聞く程度にします――
神様の言葉に手のひらを返してしまう。
――いや返すだろう?!――
――地獄ってなんですか、マジ怖い!!――
『まぁ、後々分かる』
神様の「今は聞くな」宣言を、私は受け入れるしかない。
この神様、私の性格とか把握した上で、助言しているからだ。
だから、下手に助言をすることで、私が逆にヘマをする可能性が高いと助言とかしてくれない。
なので、深く問うことはしないことにした。
『――此処でうだうだしてても仕方あるまい、さっさと「戻れ」』
――え、ちょっとー?!?!――
神様に強制的に戻された。
――向こうから呼んでおいて酷い!!――
そう思っても、どうしようもない。
「ははは……そうかは、分からないですが」
私はフィレンツォの先ほどの言葉を濁すように答える。
「何をおっしゃいますか、守るべき方であれば全身全霊を込めて守ろうとし、敵であると見定めたなら迷うことなく打ちのめすのですから」
「……打ちのめすのは否定しませんが、全身全霊かけて守れているかと聞かれたら肯定する自信が私にはありません」
確かに、打ちのめした事はあるが、守れているかと聞かれたら私は「勿論だ」と胸を張って言う事ができない。
そんな私の耳にフィレンツォの呆れのため息が聞こえた。
「何寝言をおっしゃられているのですか? エドガルド殿下の件を解決に至らせたのはダンテ殿下、貴方様ではないですか」
フィレンツォははっきりと言った。
「クレメンテ殿下が暗殺の対象にされた件、エリア様への虐待、アナベル家とシネン家の問題、それらを見つけ、解決の糸口をつかんだのはほかならぬ貴方様ではないですか」
「待ってください、フィレンツォ。まだどれも解決しきっていません。アナベル家とシネン家の問題だって発覚したばかりではないですか」
「ですが、貴方様が動いたからこそ、どの問題も白日の下にさらされたのです。どうか、胸を張ってください、ダンテ殿下。貴方は守るべき相手を見つけては必ず守ろうとしています」
「……」
返す言葉が思いつかず、私は口を閉ざしてしまった。
――そうなのだろうか?――
――私は、今も、私がどんな存在か、分からない所が多すぎる――
そう思ってしまう。
「――ダンテ殿下、貴方様は素晴らしい御方なのはご理解いただきたい。私は貴方様がどれほど『面倒くさがり』で『対人交流が嫌い』で『臆病』なのを理解した上で、先ほどの発言をさせていただきました」
「んな?!」
フィレンツォの続きの言葉に、私は思わず声を上げてしまった。
――この野郎!!――
――よりにもよって二人がいる場所で言うか普通!!――
幻滅される恐怖を抱えながら二人をちらりと見る。
エリアは困った顔をし、おろおろしている。
クレメンテはふぅと息を吐いて「そんな事知っています」と言わんばかりの顔をしている。
「無礼と承知で、クレメンテ殿下とエリア様にはダンテ殿下の根本にある性格などをお伝えしております」
「はぁ?!」
寝耳に水とはこの事だ。
――何考えてやがるこの馬鹿!!――
――普通主人の仮面の下というか本性は隠しておくべきもんだろう?!――
――知ってて二人に伝えるとか何してくれてんだお前は!!――
正直頭が痛いどころではない。
私の駄目駄目な所を知られたくない相手に知られたのだ。
――大切な相手には知られたくない!――
「フィレンツォ!! お前言って良いことと悪いことが――!!」
思わず、フィレンツォを怒鳴りつける。
口調も、対外的なものを気にせずフィレンツォと二人きりの時のものになる。
「貴方様は大切な人に程、自分の弱い部分や悪いと駄目だと思っている箇所を隠したがります。ですが、はっきりと言わせていただきます。ダンテ様」
「何だ?!」
フィレンツォははっきり言った。
「クレメンテ殿下とエリア様を幸せにしたい程大切ならば、自分の駄目な所をひっくるめて自分の事を好いてもらうのが一番です」
「はぁ?!」
思わずすっとんきょうな声がでる。
いや、確かに、私の目標というか神様の設定した地点は五人と幸せになる……基ハーレムを築くことだが、私はこれは誰にも言ってないし、そんな素振りした覚えもない。
一体何がどうして、フィレンツォはこんなことを言い出したというか理解してるんだ?!
ぐるぐると困惑している私に、フィレンツォは止めを刺すように言った。
「――エドガルド殿下の時のように」
と。
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