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第九十一話:そうして奴は身の程を知る~けどメンタルタフすぎん?~

 翌朝、いつものように食堂へ向かう、昨日はエドガルドと共に眠ったから一緒にだ。
「お早うございます、ダンテ様、エドガルド様」
「お早うございます、フィレンツォ」
「お早う、フィレンツォ」
 フィレンツォ、朝食を用意しながらそう穏やかに出迎えた。
 食堂には他に、エリアとクレメンテがいた。
「アルバートとカルミネは?」
「御二人は未だカリーナ陛下に……」
「何、私達にしゃべってなかった重大事項でもあったのですか?」
「いえ、逆です。カリーナ陛下には伝えない方がいいと二人の両家の事情がバレてしまい現在説教を受けております……」
「あー……そっちか……」
 心当たりはないでもなかった。

 叔父と二人の弟基次男達のやらかしがあまりにも酷くて、下手すれば両家潰される可能性がでていたので、隠していたのだ。

「フィレンツォ、後でカリーナ陛下に謁見の許可を」
「既に頂いております」
「流石だ」
 思わず拍手する。
「……此処迄到達するのに何年かかることか……」
 フィレンツォの態度を見て、エドガルドが呟いた。
「大丈夫ですよ、エドガルド様。エドガルド様なら習得できますとも」
 フィレンツォには聞こえてたらしく、エドガルドは面食らった表情をしてから、頷いた。
「その前に朝食と行きましょうか」
「ああ」

 柔らかな白いパン、甘いコーンのスープに、カリカリのベーコン。
 そして新鮮なサラダに。

 良い朝食なのだが、たまに物足りなくなる。

――今度施設行ったらおにぎりとかたくさん食べよ――

 前世の食事へと私は思いをはせた。

 食事後、カリーナ陛下の元へと言って謁見した。
 双方の事情を話したうえで、よくよく会話をしてなんとか納得してもらった。
 とりあえず、意見は私が言ったとおりに通って、叔父二人は処刑。
 両家の次男は労働監獄へ、関係者も同様。
 という事になり、また跡継ぎはアナベル家は長女のアナトリア、シネン家は三男のエネーアとなった。
 アルバートとカルミネの会話から、両家が潰されなくてよかったという安堵の内容が出た。
 両方の父母も、安心して家を正式な跡継ぎとなった二人に任せられると言っていたそうだ。

 ただ、エネーアの方は「アルバート様と兄さんがさっさと嫁ぎ先決めてくれないからここまでごたごたして、挙句インヴェルノ王家のダンテ殿下にめちゃくちゃ迷惑かけたのは理解してくださいね」と二人に文句を言ったとか。

 二人とも事実なだけに反論ができなかったそうだ。

 カリーナ陛下の滞在する屋敷からの帰り道、会いたくない男と出会った。
 女性の方は別に良かったのだけれども。
「ダンテ殿下、ご婚約おめでとうございます」
「有難うございます、ロザリアさん」
 ロザリアさんと、ベネデットだった。
 会いたくないのはもちろんベネデットの方。
「アルバート様も、カルミネ様もおめでとうございます」
「ロザリア、頼むから今まで通りでいてくれないか。ダンテ殿下の婚約者になったとは言え、私達は親友だろう?」
「ですが……」
「その通りだ、ロザリア。今まで通り接して欲しい。身分関係なく」
 アルバートと、カルミネの言葉にロザリアは困惑しているようだった。
「俺達は婚約しただけだ、まだ結婚までしていない」
「ロザリアさん。宜しければ、アルバートとカルミネと今まで通りに接して頂きたいのです」
「で、では……アルバート、カルミネ、おめでとう」
「ありがとう、ロザリア」
「ああ。ありがとう、ロザリア」
 二人の態度にほっとしたような表情をロザリアさんは見せ、穏やかに二人と話し始めた。

「フン、四人も婚約者をつくるような種う――」

 メキャァ

 アルバートとカルミネの拳が失言馬鹿男ベネデットの顔面にめり込んだ。
「ダンテ殿下も殴っても問題ないかと」
 フィレンツォがそう進言するが私は首を振る。
「既に幼馴染二人から殴られてるんだから私が殴ったらさらに悲惨じゃないか、今もうスゴイ悲惨だし」
 アルバートとカルミネが倒れたベネデットをゲシゲシと蹴り続けている。
「だ、ダンテ殿下!! ほ、本当に申し訳ございません!!」
 ロザリアさんは何度も何度も頭を下げた。
「いいえ、いいんですよ……それよりも二人を止めましょう」
 今回の失言沙汰がヴァレンテ陛下やカリーナ陛下に伝われば、この馬鹿ベネデットを庇うことが難しくなるので、私は伝わらない内に二人を止めることにした。

 倒れたベネデットはロザリアさんが治療し、なんとか顔のアザが残る程度まで回復した。

「ぐぐぐ……アルバート! カルミネ! お前等本当にそんな男でいいのか?!」
「いいから婚約していただいたんだよ」
「その通りだ」
「誰にでも顔色を伺うようなビビりがか?!」
 ベネデットの言葉、まぁ八方美人に近いような所があるから否定はしない。
「ベネデット、それは違うぞ」
「何処がだ!!」
「ダンテは、普通の相手には普通に接してるだけだ。お前みたいな奴や、下心ある連中にはかなり厳しいぞ」
 カルミネがそうやって私の事を説明し始めた。
「というか顔色を伺うビビりなら、お前の事を真っ先に始末するはずだよ? 食って掛かるし、ダンテの事を馬鹿にするしだし、そんな輩居たら不味いからさっさと家を潰してるだろう?」
「そうだ、なのに潰していない。ダンテは厳しいが、自分だけの場合は優しい方だ、自分の周囲にまで危害が加えられそうになったら、容赦しないのは重々承知だ」
「何故わかる!!」
 食って掛かるベネデットに二人は言い放った。

「「俺(私)はダンテに命を助けられ、家も救ってもらったからだ」」

 と。

 ベネデットはそう言い放った二人に圧倒されたかのように、口を閉ざし、最後には「そうか……」とだけ呟いて去っていった。
 ロザリアさんは頭を何度も下げてベネデットの後を追っていった。

「一体どうしたんだ、ベネデットの奴は」
「さぁ、分からん」
「……」
 私には一つ、気になることがあった。
「アルバート、カルミネ。彼は貴方方の事情を知っておりましたか?」
 それをたずねると、二人は首を振った。
「いや、言っていない。言えるわけがないじゃないか」
「ああ」
「なるほど……じゃあロザリアさんも?」
「勿論」
「当然だ」
 ここまでくると、一つの仮説が立てられた。

 ベネデットは自分の幼馴染の事情を全く知らなかった事、知らさせれない、知られたくない相手だと思われていた事に気づく。
 その上で、助けを求める相手だとも思われていなかったと。

 そうなると、自分は助けるだけの力があると思っていたのに、全くないと思われていたどころか、幼馴染の危機にすら気づかない存在だと気づいた。

 自分は多くを救わなければならないと思っていたからこそ、身近の存在すら救えず気づけなかった事による自分の無力感――

 所謂「身の程を知った」のだ。

「しばらく元気がなかったらどうしましょう」
「それはないだろ、あいつは凹んでも一週間もすれば復活するからな」
「ああ、ロザリアが昔誘拐された時一ヶ月は凹んだが一か月後には復活してたぞ」
「……」

――要らぬ心配だったのだろうか?――
『だろうな、安心せよ、奴は奴で勝手に復活する』
――マジか――

 どんだけメンタル強いんだと感心してしまう。

――こちとら豆腐メンタル以下なのに――
『今は遥かにマシだろうよ』
――そうですかね?――
『そうとも』

「――大丈夫なら、いいですか。帰りましょう」
「もう、カリーナ陛下のお説教は受けたくないな……」
「俺もだ……」
 相当精神を削られた二人の頭を撫でる。
「帰ってゆっくりやすみましょう、ね?」
「……そうするか」
「そうだな……」
 私達はそうして屋敷へと戻っていった。





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