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大学生が潜入!農林水産省 ~カレーから日本の食料事情がわかる!?

〈自己紹介〉

 初めまして!藤崎翼と申します!突然ですが、最近小麦や卵などいろんな食品が値上がりしていますよね。この背景には、ロシアによるウクライナ侵略や円安など様々な要因が絡み合っているようです。将来、予想もしない出来事によって、私達が食べるものが安定的に供給されないかもしれません。
 そこで私は、食料安全保障の最前線ともいえる、農林水産省大臣官房政策課食料安全保障室のインターンシップに5日間参加してきました!
 なお、この記事には筆者の主観が含まれています。予めご留意ください。

〈食料安全保障とは?〉

 食料安全保障とは何でしょう?農林水産省のHPでは、「『食料・農業・農村基本法』においては、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保すること」としています!しかし最初に述べたように、予測不可能な世界事情などによって、将来にわたって食料が安定供給されるかどうかのリスクが高まっています。そんな今こそ、私たちは日本の食料事情について考えて行動しなければなりません!
 私たち消費者の行動や選択が日本の未来を大きく変えていくのです!しかし、そうはいっても、「食料安全保障っていまいちピンと来ない」「具体的に何をすればいいのかわからない」と思う人もいるでしょう。
 そこで今回は、農林水産省の食料安全保障室が進めている「ニッポンフードシフト」の取組の中の、「カレーから日本を考える。」から日本の食料事情について考えてみようと思います!

〈ニッポンフードシフトとは?〉

ニッポンフードシフトのロゴマーク

 一言で表すと、日本の「食」はどうあるべきかについて考えてみようという国民運動です。当たり前のことですが、食べ物は農業によって作られており、本来、「食」と「農」は切っても切り離せない関係にあるはずです。しかし現在、お肉や野菜はすでにパッケージ化され、既製品の総菜やお弁当が当たり前にスーパーに並んでいます。食の外部化や簡便化によって「食」と「農」のつながりを意識しづらくなっているのです。ニッポンフードシフトとは、「食」と「農」の距離を近づけるために、消費者も含め日本の食を支える人々が一体となって食の在り方を考える国民運動です!
 こちらのリンクでは食と農業とつながりの変化を解説した動画や、ニッポンフードシフトにまつわるイベント情報などが掲載されています!興味のある方は是非ご覧になってください!

〈カレーから日本を考える。〉

 そして、ニッポンフードシフトでは、身近なカレーを題材に、若い世代の私たちにも日本の食料事情を考えてもらうきっかけ作りの発信を行ったそうです。
 でも、「カレーから日本を考える。」とはどういうことでしょうか?インターンの初日にこちらの動画を見ました。

 なるほど、カレーのスパイスは、ほとんどが日本では栽培できず海外からの輸入品に頼る必要があるけど、ライスは国内で生産されるため食料自給率は高くなるんですね。でもそもそも、食料自給率って何でしょうか?食料安全保障室の担当者の方に聞いてみました。
 食料自給率は、簡単に言えば、「国内で供給されている食べ物のうち、国産品がどれだけを占めているかを表した数値です。令和3年度、カロリーベースの自給率は約38%となっています。」
 食料自給率を上げるには、どうすればよいのでしょうか?単純に国内生産を増やせばいい!と私は考えていたのですが、どうもそんなに簡単な話ではないようです。たとえ、たくさん作ったとしても、買ってくれる人がいなければ、食べ物が無駄になってしまいます。つまり「ただ生産を増やす」のではなく、「需要に応じた生産」が必要になるんですね。

〈そもそもカレーの定義って?〉

 カレーの話に戻すと、そもそも何をもって「カレー」というのでしょうか?実は、特に定義はないようです。インドやタイ、スリランカにもカレーがあり、その土地ならではの食材が使われているそうです。日本ではたまねぎやじゃがいも、にんじんを入れるのが定番ですが、季節によってナスやカボチャ、トマトなどを入れる場合もあります。このように、季節や土地柄に合わせて具材を変えられる柔軟性をカレーは持っています。
 カレーについてもっと知りたい方は、下のリンクを参照してください!

 動画に登場する野菜やジビエ、米粉など、もちろん言葉を聞いたことはありますが、現状はよくわかりません。そこで私は、より深くそれらの食材の現状を、農林水産省のそれぞれの担当者に伺ってきました!長文ではございますが、最後まで読んでいただけたら幸いです!

〈加工・業務用野菜って何だろう〉

 先ほどのカレー動画の中では、「じゃがいも、にんじん、たまねぎ、トマトなどの野菜は、家庭で作る場合は国産のものが多いと思いますが、加工・業務用の場合は、海外からの輸入品が使用されることも。」とありますが、実際はどうなのでしょうか。
 野菜といえば、スーパーにそのまま並んでいる状態を思い浮かべると思います。これらは生鮮用野菜と呼ばれ、ほとんどが国産です。一方で、スーパーやコンビニでは、皮をむかれている野菜、カットされた野菜や、レトルト食品などに使われている野菜などもあると思います。これらの野菜は加工・業務用野菜と呼ばれ、その3割が海外から輸入されているそうです(令和2年)

出典:農林水産省(資料:農林水産政策研究所、(株)流通研究所)

 生鮮用野菜はほとんど国産なのに、加工・業務用野菜が輸入されているのはなぜでしょうか。それは日本の農家さんが作りたいものと、食品事業者が欲しいものとの差があることが一つの要因ではないでしょうか。
 実は生鮮用と加工・業務用では、求められる野菜の規格が異なります。生鮮用はそのままの状態で陳列するので、見栄えや適度な大きさ、高い品質が求められます。それに対し、加工・業務用は細かい品質や傷よりも、大きさや価格の安さが求められます。農家さんとしては、できるだけ単価の高い野菜を作りたいという思いがあります。しかし、食品事業者としては、「安く、加工しやすいものが欲しい」というすれ違いがあるのです。
 加工・業務用野菜は、最終的には、スーパーやコンビニで販売されている商品や、飲食店などの料理の中で使われ、私たち消費者のもとに届きますが、私たちとしては、年間通じて同じ価格・同じ品質の商品や料理を求めていると思います。そのため、それらを提供する食品事業者としては、量や価格が安定している野菜への需要が高くなります。しかし、日本は四季があり気候の影響を受けやすいため、生産量や価格が季節ごとに変動してしまう可能性があります。だから、加工・業務用野菜には輸入品が使われることがあるわけですね。
 お話を伺って個人的には、「需要と供給の不釣り合い」という事情が読み取れたため、需給のギャップを改善する必要があると思いました。生鮮野菜を育てている農家さんが、規格の異なる加工・業務用野菜を作るには、原料として買い取ってくれる食品事業者さんを探さなくてはいけません。どんな野菜が必要とされているのか、農家さんの方にはどんな事情があるのか、農家さんと食品事業者さんが、もっとお互いの事情に配慮した取引をして歩み寄ってくれればいいのに、と思いました。そんな疑問を職員の方に投げかけたところ、農林水産省では既に、農家さんと食品事業者さんがお互いが情報交換を行い交渉できる場を独立行政法人を通じて設けているそうです。新型コロナウイルス感染症が蔓延してからは、オンラインでのやり取りも行えるようにしているとのことでした。
 さらに、国産の加工・業務用野菜を安定して供給できるようにするために、加工・業務用向けの品種の開発や、機械化により低コスト・省力化を図ることで農家さんの所得を向上させる取組などを行っているそうです。

〈ジビエって何?〉

 カレーのお肉の定番は、牛肉や豚肉、鶏肉ですが、動画の中ではジビエも登場します。しかし、そもそもジビエという言葉を聞いたことがない人も多いのではないでしょうか。
 ジビエとは、イノシシやシカ、野鳥などのお肉のことです。令和3年には野生鳥獣によって155億円もの農作物被害が出ています。農作物被害を防止するために、これらの鳥獣の捕獲も進めていますが、捕獲した後は埋却または焼却などにより廃棄をします。しかし、これまで廃棄していた鳥獣をジビエとして利用することで、農山村地域の所得向上が期待されることなどから、ジビエ振興が進められています。それに加え、捕獲を行っている方々が、命を奪うことにやるせなさや心苦しさを感じているというお話を聞きました。命を奪っているのだから、できる限り無駄にしたくない!という思いもジビエ振興にはあるかもしれません。
 動画では、「もし、イノシシやシカなどのジビエなら自給率は100%。」とありますが、これは、牛肉、豚肉、鶏肉の代わりに、ジビエを食べましょうということではありません。シカやイノシシの命をジビエとして活用した結果、自給率が上がるかもという、まさに、カレーを通した気づきの1つとして発信されているんですね。ジビエカレーもありかもと思ってきました。
 しかし、多くの人は、ジビエになじみがなく様々な疑問をもつのではないでしょうか。イノシシやシカは、豚や牛とは異なり、人の手をかけずに育っているので、衛生的に大丈夫?人に感染する病気を持っていたりしない?
 これについては厚生労働省からガイドラインが発表されています。ジビエとして利用するためには運搬時に腐らないよう冷却しながら食肉処理施設へもっていき、処理の際には品質や病気の有無などについて様々な検査を行っています。国による認証制度も存在しており、認証マークが安全の目印になっています。ジビエの消費は増加傾向にあり、鹿肉は牛肉と比べて低脂質、高たんぱく、イノシシ肉は豚肉と比べて、鉄分、ビタミンB6、ビタミンB12などの栄養が豊富ことからも徐々に注目されています。人の食用だけではなく、ペットフードや動物園の肉食動物のエサとしても利用されています。またお肉だけではなく、皮を革製品に、骨をアクセサリーや陶器にするなど、新しい用途としての利用が広がっています。

出典:農林水産省(野生鳥獣資源利用実態調査)

 ジビエはスーパーにはあまり並んでいませんが、通信販売や外食で食べることができます。ジビエの場合は、「いろんな事情があるのに、そもそもその存在が一般に知られていないのでは?」と感じました。ジビエの消費が拡大していくためには、ジビエについてもっと一般に広く知ってもらう取り組みが必要だと思いました。

〈ナンの原材料は?〉

 ここからはカレーに欠かせない主食の話をしていきたいと思います。日本ではカレーといえば、ライスがくっついてくるくらい、カレーと深く結びついています。お米はほとんど国内で生産されているため、自給率は高くなります。一方で、カレーといえばナンもあります。ナンの主な原料は小麦粉ですが、小麦は約8割を輸入に頼っています。その理由は、小麦を生産するには、広大な土地が必要であるということと、小麦は湿気に弱く、日本では、小麦の収穫期と梅雨の時期が重なってしまい、収穫量や品質が年ごとに変わってしまうことがあるからとのことです。
 小麦は、小麦粉に製粉された後、主にパンや麺、お菓子などの商品として、私たち消費者のもとに届きますが、小麦の収穫量や品質がバラバラになってしまうと、年間を通して、同じ品質・同じ価格の商品を買うことが難しくなってしまいます。そのため、アメリカやカナダなど、広大な土地を持ち、大量生産している国から安定した品質の小麦を輸入しているそうです。
 一方で、消費者の国産志向が年々増加しており、そのニーズに応えるために、日本の温暖湿潤な気候でも安定した品質で育成できる品種や、パン用や麺用などの加工に適した品種などの開発や、畑地で小麦を育てるなど、国産小麦の取組が増加しつつあるそうです!

〈ナンに米粉!?〉

 ナンには、小麦粉だけでなく、最近では、米粉を混ぜるということも聞いたことがあります。このように、米粉を使った食品が注目を集め始めているということをご存じでしょうか?お米は日本の主食として、長い歴史を持っていますが、主食用米の消費量は人口減少や高齢化、ライフスタイルの変化により減少傾向にあります。そのため、主食用以外の新しい用途のお米の需要拡大が求められており、米粉が注目を集めています。

出典:農林水産省

 米粉が使われた商品に、これまであまりなじみがありませんでしたが、意外と身近なものに使われているそうです。例えば、団子、お煎餅、和菓子などがあります。他にも、揚げ物の衣に使われていたり、パンの中にミックスされていたりする場合もあるそうです。米粉の特徴は、例えば、食パンであればもっちりとした食感、からあげであれば、カリカリな食感になるそうです。
 この先、米粉の需要が高まっていけば、製粉技術の発展や商品開発がすすめられ、米粉がもっと一般的になっていくのではないでしょうか。そのためには、消費者の皆さんに米粉の商品について興味を持ってもらい、商品を手に取っていただく必要があると思います。米粉の商品やレシピ、イベントについて農林水産省のホームページに掲載されていますので是非ご覧になってください!

 個人的に、米粉は独特な風味や触感で、なかなか食べ慣れないというイメージがありましたが、今回お話を伺い、スーパーなどで手に取ってみようと思いました。

〈最後に〉 

 ここまでご覧いただきありがとうございます。今回は、カレーに使われている各食材の現状についてお話を伺ってきました。この記事を通して日本の食料事情について、少しでも身近に考えていただけるきっかけになれば嬉しいです。

 私はこの記事を執筆するにあたって、食料安全保障室の皆さんだけではなく、穀物課や園芸作物課、鳥獣対策・農村環境課の皆さんからも貴重なお話を伺いました。本当にありがとうございます。

 今回、私が皆さんのお話を伺ったときに共通していたのは、私たち消費者の行動は決して無関係ではなく、我々の行動が大きく食の未来に関わっているということです。特に食料安全保障に関しては、供給面からの一方通行ではなく、需要と供給を釣り合わせることが大切であると学びました。私たち消費者が何を求め、何を手に取るかが、日本の食の未来を大きく変えていきます。そのことを、買い物をするときや食事をするときなど、ささやかな日常の中で思い出していただけたら嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。

「カレーから日本を考える。」ニッポンフードシフトWEBサイトはこちら

「食から日本を考える。」ニッポンフードシフトムービーはこちら


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