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PARAISOインタビュー/人の弱さや矛盾に寄り添う音楽ユニットのこれまでとこれから

ミスiD2021の公式HPのプロフィールページでお二人が製作した映像を見た時に「これはミスiDの曲だ」と感じたことが私のPARAISOに対する一番最初の印象でした。性別の区別なく、未来への不安を一人で孤独に抱えていること。その様を音楽を通して見せてくれるからこそ、孤独に寄り添えるユニットであること。
「PARAISOの歌は、第一にPARAISOを救うためにある。でも、もしもこの歌が、あなたのことさえ救えるのならば、そんなに素敵なことってあるだろうか。」
と語る2人組の音楽ユニットPARAISOのルーツについて今回はお話を伺いました。

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2人の音楽ユニットが1人の人格「PARAISO」としてミスiDにエントリーした理由


Gaki 曲作り担当のGaki(ガキ)といいます。

Lyn ボーカルとアートワークを主に担当しているLyn(リン)といいます。

藤林檎 応募時点でミスiDに提出されていたPARAISOさんの自己PR文や、イラストを拝見した時、最初はてっきり1人のアーティストだと思っていました。ミスiDに最初エントリーするにあたって、あえて1人の人という感じでエントリーされたのはどういう意図がありましたか?


Lyn ミスiDって「〇〇な女の子を見つける」って銘打っているオーディションなので、2人組だとちょっと趣旨とズレるのかな、と最初に感じていて。それでも私たちはミスiDに応募したかったので、「じゃあどうしたらいいか」と考えた時に、ちょうどアーティスト写真として1人の女の子の絵を元々描いていたので、それをそのまま提出すればいいのではないかと思って。それで、1人の人格としてエントリーしたという流れですね。

Gaki そうですね。最初は「2人組がほんとにミスiDにエントリーしてもいいの?」って話をしていて。でも「1人です」と明言したら嘘になっちゃうし、どっちにでも取れるぐらいの感じにして応募書類を出しました。

藤林檎 なるほど。そしててっきりそのスタイルで最後まで行くのかな?と思っていたら、カメラテストではお二人の生身の姿が写ったお写真を提出され、動画でもお二人が生身の姿を出してお話されていてそこにもびっくりしたんですけど、そこで方針を変えたのはどういう背景があったんでしょうか?

Gaki そもそも、私たち2人の人格って大分ばらばらで。そんな2人が融合してひとつの「PARAISO」になっているというイメージは元々あったんですけど、だからといって「1人の女の子」っていうアーティスト像にそこまで固執している訳でもなかったというか。去年一度ライブに出演させてもらう機会があったんですけど、その時は完全に生身の姿で2人で出ていましたし。

Lyn そうですね。PARAISOが活動するときって、実は確固たる指針はなくて、その時に「こうしたらいいんじゃないか」という方に動いているので、顔出しする・しないに関しても、そこにすごくこだわりがあった訳ではなくて、その時に一番良いと思ったやり方を選んだという感じではあります。

藤林檎 では、カメラテストの時に突然方針を変えたってことでもなく、「このタイミングではそうするのがベスト」と考えたことをそこでやった結果だというニュアンスなんですね。

Gaki そうですね。

藤林檎 なるほど。あと気になるのは、音楽ユニットがオーディションに出るといえば、音楽系のオーディションを想像しますし、もしくはレコード会社に音源を送るとかが一般的なのかなって思うのですが、あえて音楽ユニットとしてミスiDに出ようと考えたのにはどういう理由がありましたか?

Lyn これはPARAISOの結成経緯にもかかわるんですけど、私が「これからどう生きよう」と思い悩んでかなり気持ち的に追い詰められていた時に、元々音楽をやっていたGakiさんと一緒に音楽をやりたいな、と思うようになって。その時点で私は未経験だったんですけど、「一緒に音楽をやらないか?」とGakiさんに聞いたところ快諾してもらえたので、2人で一緒に音楽をはじめたんですね。はじまりがそういう経緯だったし、ミスiDって結構受け入れる層が広くて、特に今回のテーマは「夢見る頃を過ぎても」だったので、「自分たちに合っているのでは?」と思って応募したというのがひとつあって。

Gaki 私は私で、「Lynさんには才能があるな」と大学で出会った時からずっと思っていて、どうにかしてこのLynさんの才能を生かしたいというか、一緒に何か作れたらいいなっていう気持ちが元々ありました。だから音楽ありきでPARAISOの活動をはじめることにしたというよりは、まずこの2人がいて、そこから音楽をやることにしたという経緯があります。ミスiDに応募したきっかけとしても、その点が強く影響しているのかな、と。

藤林檎 では、ミスiDにエントリーしたきっかけとしても、「元々音楽ありきで始まったユニットではないから」というところが大きいっていうことですよね。

Gaki はい。せっかく2人とも絵が描けたり動画が作れたり、文章を書くのも好きなので、音楽だけに限らず、幅広くいろんなことをやれたらいいな、と思いつつ応募しました。

藤林檎 お二人の才能やセンス、考えていることを発信するのに最適な方法として選んでいるのが、音楽をやるってことだったりミスiDに出るってことだったりっていうイメージですか?

Gaki はい、そんな感じですね。

Lyn そうですね、それもあるし、個人的にはミスiDは「落ちこぼれを見捨てない」というイメージがあったので。私は自分が落ちこぼれだという自覚がすごくあって、私がエントリーできるオーディションは正統なオーディションよりもミスiDだと思っていたんですね。それで応募しようと思った、というのもあります。

藤林檎 なるほど。ちなみに、Gakiさんから見たLynさんの才能って、具体的にどういうところにあると感じてましたか?

Gaki う~ん。なんか私、Lynさんのことがほんとにすごい好きで。笑 Lynさんの作ったデザインやイラストを見てきたなかで、素敵な美的センスがあるなと思っていたし、声も純朴で、落ち着いているのにどこかしら差し迫ったような雰囲気があって、とてもいいんですよね。あと、私にもあまり見せてくれないんですけど、実は結構文章が上手かったりもするし、元々すごいものを持ってるんですよね。自分の感覚を信じてものを作れるので、本当にクリエイターに向いているなって思いながら、半分尊敬、半分ちょっと嫉妬みたいな感じで見ています。笑 でも、なかでも一番尊敬できるところは優しいところで。人のことをちゃんと見てその人に合った言葉を選べる人なので、そこがすごいなと思っています。

藤林檎 逆に、LynさんはGakiさんのどんなところがいいなと思って一緒に活動したいと思うようになりましたか?

Lyn Gakiさんは、人の良いところを見つけるだけじゃなくて、それを言葉にして伝えられるんですよ。それがすごく良いところだし、ほんとに人に好かれる楽しい人だなって思います。あと好奇心が旺盛で行動力があるので、知らない間に「そんなことやってたの」ってことをやってるし、私にないものを持ってる。

Gaki そうそう、「私にないものを持ってる」というのは、私もLynさんに対して思ってます。

藤林檎 タイミング的には、どういうタイミングでエントリーしようって決めて資料を提出しましたか?

Lyn ギリギリでした。

Gaki 本格的に動き始めたのは、応募締め切り10日前ぐらいでしたね。

藤林檎 ではそこは結構勢いもありつつ、みたいな。

Gaki そうですね。ただ、提出した自己PRに関しては、その場の勢いだけで出した訳ではなかったです。これまでのPARAISOでの活動を通して、2人の中での世界観は大体統一されていたので、それに沿いつつ私たちの考えを文章や映像で表現して出しました。どちらかというと、元々2人の間にあったものをそのままアウトプットしただけっていう感じでしたね。

藤林檎 ちなみに、あの自己PR文はどちらが書かれましたか?

Gaki 私が書いた後に、Lynさんにも内容を見てもらいました。

藤林檎 私がPARAISOさんを知ってミスiDのHPで「子供部屋海底日記」をYouTubeで聴いた時に「あ、これはミスiDの曲だ」と感じたのを覚えています。性別を感じさせず一人の人間としてそこにいる感じとか、未来への漠然とした不安を孤独に抱えている感じとか、そういうところが私のミスiDに対して持っている印象と近くて。だから、そういう曲を作られているPARAISOさんが今セミファイナルまで進出されているってことは、私的にはとても納得の結果でした。


Lyn すごくうれしいです。「性別を感じない」ってところをすごく意識して作っていたので。女性がなにかものを作ると、どうしても「女性らしさ」がどこかに出てしまうものだと思うんですけど、それでも、そういう男とか女とかに成長していく前段階の感じを出していきたくて。

藤林檎 その後に、カメラテストで生身のお姿を出されてたのもすごく良いなと思っていて。何か一芸がある人ほど、自分の人間性とか芯の部分はその陰に隠しがちなところがあるような気がする一方で、結構ミスiDは「何を差し出せるのか」みたいなことを問うてくるような印象もあるので、カメラテストでお二人が生身のお姿をきちんと出しつつ、そこで「PARAISOはこういうことをしたいんだ」みたいなことをしっかり伝えていたところがすごく良いなあと思って見てたんですよね。

Lyn よく見ていただいていて、ほんとにうれしいです。

Gaki その辺りは、最近自分たちの中でも変わったなあ、と思っていて。PARAISOのTwitterアカウントも、PARAISOを始動したころはちょっと気取って、「宣伝だけしていこうよ」って言っていたんです。だけど最近は逆に、自分たちが考えた言葉や感情、その過程をできるだけ出すようにしていたので、そういう風に見てくださっていたのはとてもうれしいです。ミスiDらしさって色々あると思っているんですけど、我々みたいに「弱さや矛盾をまるごと肯定して、このままで進もう」とすることも、ミスiDらしさのひとつなんじゃないかなって思っています。

藤林檎 最初にミスiDを知ったのはどういうきっかけでしたか?

Gaki 私は、2017年にバーチャルの女の子のSayaちゃんがミスiDにエントリーしていたのを見たことがきっかけでした。「ミスiDってすごい多様性があって面白いオーディションだな」って感じたんですね。そこから毎年、なんとなくミスiDをチェックするようになって。

藤林檎 Lynさんはどういうきっかけでしたか?

Lyn 私は、一昨年ぐらいにGakiさんに「ミスiDっていう変わったオーディションがあるよ。Lynちゃん出ないの?」って言われて。

Gaki PARAISOの結成よりも全然前の話ですね。「Lynさんならいけるんじゃないか」と思って。

藤林檎 でもLynさん的には、それを聞いて「よし、じゃあ出るぞ」とはならなかったってことですよね?

Lyn そうですね。「出るなら一緒に出てよ」って言ってました。

藤林檎 結果的に、もうその時には今のような構想が出来てたんですね。

Lyn はい、結果的には。やっぱり、2人だから出られたっていう感じはあります。

Gaki 2人ならもしかしたら、って気持ちはあったかもしれませんね。私1人では絶対に無理だけど、2人でならいけるかも?っていう。


迷っている人たちが迷いながら作った1stアルバム「子供部屋から宇宙を見ていた」


藤林檎 YouTubeに上がっている初期の曲を聴いた後、この最新アルバム「子供部屋から宇宙を見ていた」を聴くと、時間の経過に伴ってお二人の環境や心境が変化しているように感じられます。YouTubeに上がっている曲はある瞬間の美しい情景が思い起こされるような曲が多い一方で、最新アルバムだとそこに「未来に対する不安」みたいな要素が入ってきていて。


Gaki なるほど。振り返ってみると、PARAISOの楽曲にはその時その時の我々の状況が生々しく反映されてますね。このアルバムを作った去年とかは、ほんとにもうね。

Lyn 「これからどうしよう」って。

藤林檎 その感じがすごく伝わってきて。私もこのアルバムを聴いていると、やっぱり就職活動をしていた時の、未来に対する不安な気持ちをすごく思い出すので。

Lyn 大正解です。別に「就職活動をしながら作りました」って訳ではないんですけど、迷っている人たちが、迷っているなかで作ったアルバムなので。

Gaki お互い、進路に迷いながらいろんなことを考えていた時期で。実は今制作中のアルバムがあるんですけど、1stアルバムとはまた違う、今のPARAISOをめちゃくちゃ的確に表している曲を収録する予定なので、それを早くみなさんにも聴いていただきたいです。

藤林檎 美しい心象風景や未来への不安を曲にしてきた後に、どんなアルバムが出るのかはすごく楽しみです。

Lyn 前作とは全然違うアルバムになりそうです。前作の「子供部屋から宇宙を見ていた」では、どちらかというと私の世界観にGakiさんが寄せてきてくれたんですが、たぶん次はGakiさんの方の色が強く出るんだと思います。

Gaki そうかもしれない。サウンドメイク的な面でも、前作では、ほんとにおもちゃ箱みたいな可愛らしい音をイメージしてたんですけど、次のアルバムはよりラフでポップなものになりそうです。前作は、ある意味でPARAISOの道標となるアルバムだったと考えているんですが、その上でまた新しく答えを付け足していくような。そういう感じで、前作とはまた違うものが作れています。

Lyn 私の印象としては、前作でどうしたらいいかわからなくて駄々をこねていたところに、静かな諦めの空気が加わったような曲が多いんじゃないかな、と。

藤林檎 具体的にどんな風に曲やMVを作っているかについてのお話も聞きたいです。例えば「子供部屋海底日記」だったら曲と歌詞、どちらを先に制作しましたか?


Gaki 基本的に、PARAISOの曲は歌詞が先ですね。Lynさんには歌詞を自由に、それこそ詩のように書いてもらって、それをいったん私が組み替えて曲の形に整形します。で、「こういう構成、こういうメロディでどうですか?」っていうのを提案して、2人で相談しながら作っています。私が歌詞を書くときは、歌詞を書きながら頭の中で大体のメロディや曲構成まで組んじゃいますが。曲作りの実働面に関しては、楽器選定からミキシング段階まで完全に私の担当です。それをLynさんが歌って、アートワークやイラスト、MVは原則Lynさんに制作してもらう流れです。ただ、この分業方式にすごく固執しているわけではないですし、今構想しているもののなかにはその分業にあてはまらないものもあるので、今後はどんどん変わっていくかもしれませんね。

藤林檎 なるほど。この「子供部屋海底日記」のMVに関しては、どういう風に作っていきましたか?

Lyn 「子供部屋海底日記」の作詞は私が担当したんですけど、これがいつのまにかGakiさんの推し曲になっていて、Gakiさんの中でかなりMVのイメージができている状態だったんですね。最初はMVを作る予定はなくて、普通に絵だけ描いて、曲をつけてポンと出す予定だったんですけど、Gakiさんのイメージを聞いて作ってみたら動いちゃった、という感じで。だから、このMVに関しては私がどうこうというより、Gakiさんのイメージをもとになんとなく作っていった感じですね。

Gaki こだわりがありましたね。今見ると少し画質の悪い、20年ぐらい前のPVなんかに触発されて。Lynさんに「こういうのがいい」って頼むと、大体想定を大きく超えるものが返ってくるので、「子供部屋海底日記」に関してもそれを楽しみに待っていました。


あの先輩すっごい可愛いからこのサークルに入ろ!/2人がPARAISOになるまで


藤林檎 お二人それぞれのことについてもお聞きしたいんですけど、まずGakiさんはいつから音楽をやられてましたか?

Gaki 幼稚園ぐらいの頃から数年間ピアノを習っていたのが最初です。中学生の時は吹奏楽で打楽器を、高校生の時はバンドでベースを弾いていて、そのかたわら、作詞や作曲を中学生の頃からちまちまやっていました。大学入学後の数年間は音楽から離れてたんですけど、あるとき、学園祭でバンドを組んでオリジナルの曲をやることになって。そこで作詞作曲をした自作曲を披露しました。今考えれば、それがPARAISOの原点にもなっています。より本格的な形で楽曲を出すようになったのはPARAISOを組んでからですね。なので、音楽に関してはかなり広く浅い経歴です。笑 

藤林檎 大学時代、少し音楽から離れていた期間があったのはどういう理由でしたか?

Gaki Lynさんと出会うきっかけになったサークルに入って、そこでの数年間はサークルでのデザイン制作に力を入れていたからですね。チラシを作ったり名刺を作ったり、そういうことをやっていました。当時は音楽よりそっちの方に興味があったし、音楽と両立させるのも時間的にしんどいな、と思ったので。

藤林檎 なるほど。音楽はどういう音楽を聴いてきましたか?

Gaki 私は完全に邦楽ロックで育ちました。一番好きなのはナンバーガールとART-SCHOOLかな。1990年代~2000年代の音楽が特に好きです、SUPERCARとかくるりとか。藍坊主ってバンドも中学生の頃からずっと好きですね。あとはクラシックとか吹奏楽をちょこちょこ聴いたり、最近は台湾のバンドもよく聴きます。

藤林檎 以前ボカロ曲の制作もされていたと思うんですけど、ボカロに関してはどうですか?


Gaki Twitterを見てくださったんですね、ありがとうございます。ボカロは、「まあ聴いてはいた」ぐらいで。DTMは中学生の頃からやっていましたが、初音ミクのソフト自体は大学生になってから購入して、しばらく放置してました。いっそのことボカロPになろうかな?と思っていた矢先に、Lynさんからお誘いをいただいてPARAISOを結成したので、結局その後も活用されず。せっかくソフトを持ってるんだから活用しようと思い立って、曲を作ってTwitterに上げました。

藤林檎 そういう経緯があったんですね。一方、Lynさんはどういう文化圏を通って今日に至っていますか?

Lyn そうですね、私の場合は常に「これが好きです」と言えるものがないのがちょっとコンプレックスだったんですけど、Gakiさんと初めて会った時に「私はこれを聴いています」と言って喜ばれたのは、1980年代の、なんていうのかな?

Gaki テクノ?

Lyn 1980年代の、テクノポップが流行りはじめた頃ののP-MODELとか平沢進とかヒカシューとか、YMOあたりの曲を、中学生ぐらいの時にすごい勢いで聴いていて、それをGakiさんが知っていたことにも感動したし、私が知っていたことにGakiさんも感動していたし。それでちょっと距離は縮まった感はありましたね、そういえば。あとはもう、普通にポップなものを通ってきました。Perfumeも好きですし、映画音楽を聴くのが好きで。ディズニーのサウンドトラックはずっと聴いていたし、ディズニー映画自体も好きでした。

Gaki 私が自分からは能動的に聴いてこなかった曲をLynさんはたくさん聴いていたので、PARAISOを組んでからはそういう曲も意識的に聴いて、参考にするようになりました。

Lyn それこそ、私はボカロもちょっと通っていたり、色んなところを少しずつつまみ食いしている感じはあります。

藤林檎 なるほど。Lynさんが絵を描くようになったのは子どもの頃からでしたか?

Lyn そうですね。ただ、私たちの大学は芸術系の大学じゃなくて普通の大学ですし、自分が絵をすごく描いてきたという自覚はなくて。小学生の時、「クラスに一人いる絵が上手い人」だったのが私の絵の絶頂期で、そこからはもう全然描かなくなる一方でした。だから最近ですね、また絵を描くようになったのは。


藤林檎 歌に関してはどうですか?

Lyn 歌うことは好きでしたね。それには好きになるきっかけがあって、中学生や高校生のころにカラオケに行った時、「SEKAI NO OWARIのFukaseさんに声が似てる」って色んな人に言われたんです。そこから調子に乗ってすごい歌うようになって。これ言うと、セカオワを好きな方に怒られちゃうかもしれないんですけど。笑

藤林檎 そんなきっかけが。笑 そして、そんなお二人が出会った時のことを聞きたいんですけど、どういうきっかけで最初お話ししたかは覚えていますか?

Gaki 大学のサークルの新歓イベントで会ったのが最初でした。私からみた彼女の第一印象は、どっちかっていうと結構人見知りでクールな感じで……。でも、そのサークルに可愛らしい雰囲気の男性の先輩がいらっしゃって、Lynさんから「あの先輩すっごい可愛いから!このサークルに入ろ!」ってめちゃくちゃ推されたんです。結局その勧誘がきっかけで、一緒のサークルに入りました。

Lyn でも正直、その可愛い先輩がサークルにいたからGakiさんをサークルに勧誘した訳ではなくて。笑 サークルのデザイン担当の定員が確か2名までで、2人でやるんだったら私はGakiさんとやりたいなっていう気持ちが最初からあったので、勧誘する理由としてそれをもってきただけです。

藤林檎 LynさんがGakiさんを勧誘した時点で、お二人の面識はどのくらいあったんですか?

Gaki いや、その時点ではほとんどなかったです。

Lyn はい。なぜそこでほぼ初対面のGakiさんと一緒にやりたかったかっていうと、Gakiさんの第一印象がすごく良かったんですよ。とにかくGakiさんは、誰が会っても第一印象が悪いってことはないと思うんです。みんなから好かれるタイプの人で、私自身もすごい一緒にいて楽しい子だな、ぜひ一緒にやりたいなと最初から思っていたので、誘ったっていう感じですね。

Gaki 私も私で、最初からLynさんに対して、なんというか、ただものじゃなさを感じていたので。そこから紆余曲折ありつつも、すっかり長い付き合いになってしまいました。

藤林檎 PARAISOを組んでからは1年ぐらいで、お二人が出会ってからはどのぐらい経ちましたか?

Gaki 大体、5年半ですね。

藤林檎 長いですね。ではほんとにPARAISOとしての活動は、お二人が出会ってからの時間の中で考えるとまだまだ短い時間なんですね。


弱い人が辛い思いをしない、優しい人が損をしないPARAISOの国


藤林檎 今後の展望は何かありますか?

Gaki これ、カメラテストでも聞かれて……たしか、「知名度を上げたい」って答えました。笑 それから「これ言えばよかったな」っていうのを思い出したんですが、お茶会をやりたいです。これはPARAISOの展望というより価値観なんですけど、ライブ活動に限らない活動をしたいなと思っていて。こちらから一方的に発信するかたちよりももっと、聴いてくれる人に寄り添う音楽を作っていきたいんですよね。もっと具体的な展望としては、次のアルバムを出すっていうことと、「子供部屋から宇宙を見ていた」のサブスクリプションを始めたいです。

藤林檎 私もこのアルバムは色んな人に聴いて欲しいので楽しみです!今の話に補足して、何かLynさん的な展望はありますか?

Lyn お互いすり合わせが出来ていないところが多いので、それが結構2人の間での問題になるんですよね。性格も考え方もかなり違うので、そこを上手くやりつつ、どうお互いの良さを引き出しながら良いものを作っていくのか、それを見極めるのがまずは第一だなって。

Gaki それは以前から話していました。一見同じものをみて、同じようなことを考えているようにみえても、その考えに至るまでに積み上げてきたものとか、その思いに行きつくまでの過程、根拠みたいなものはお互い全然違うから、そこのすり合わせをしていかないとっていうのは確かにありますね。

藤林檎 かなり活動の上での現実的な部分ですね。

Lyn 今後の展望、なんでも言っていいんだったら、PARAISOの国を作る。私は小さい時ディズニーランドを作りたかったから、ウォルト・ディズニーになりたいです。

藤林檎 どんな国になりそうですか?

Lyn 弱い人が辛い思いをしない、優しい人が損をしない国です。


一人一人の人生をこういう解像度の高さで見ることってそうそうないですよね/ミスiD2021について


藤林檎 ミスiDにエントリーしてみての、ここまでの感想をお聞きしたいです。

Gaki 自分たちと年が近い人に限らず、色んな女の子のことを吸収できたっていうのは、私の中で結構大きいです。我々は2人とも同じような生活圏にいて、しかも普段男性が多い環境にいるのもあって、無意識にそのバイアスがかかっているところがあるんですね。結構物の見方が一義的になっているところがあったり。だからミスiDでたくさんの方を見て、ほんとに色んな考え方があるんだなってことを再確認できたというのが一つ。あとは、ある意味自信が湧いてきたかな、って。みんなの評価とか感想が来る、来ないに固執せずに、自分がやってみようと思ったことは怖気づかずにボンボン出すようになったという変化が、私の中ではありました。

藤林檎 Lynさんはどうですか?

Lyn そうですね、同じぐらいの年代のミスiDのみんなが、Twitterや動画で自分のことを詳しく発信してくれることで、一人一人の人生を現実のものとして感じることができて、見ているとすごく心に迫ってくるものがあります。

Gaki 一人一人の人生をこういう解像度の高さで見ることってそうそうないですよね。それぞれの女の子が発信していることにとても価値があるんだな、と思います。本当に一人一人に選評を書きたいぐらい、素敵だなって。

Lyn ミスiDって、容姿だけじゃなくて自分の人生丸ごとをオーディションに出すという感じがあります。それを否定されたらすごく傷つくのは当然だし、そこに賞を与えたり与えなかったりするのってちょっと残酷な感じもするなあっていうのは、実際に応募してみて思いました。

Gaki 人生を賭ける勢いで心を砕いてやってる子たちもいるから、ほんとに繊細な部分の多いオーディションだと思う。そのなかで我々は、なんだか結構ニュートラルな感じ。

Lyn なんか、ミスiDに出ながらもミスiDをちょっと離れて見ているような。あんまりのめり込むと苦しくなるのが分かっているから、逃げちゃっている感じはあるのかもしれないです。

藤林檎 なるほど。あとカメラテストの話がさっきもちょっと出てましたけど、質疑応答ではどういうことを聞かれましたか?

Gaki 駄々をこねる人を肯定したい、とか子供部屋を出たくない、って言ってるけど……

Lyn 「実際のところどうしたいの?」とか。

Gaki そういう、私たちの立ち位置を尋ねられました。

藤林檎 ちなみにそれにはどう答えたんです?

Lyn 結構焦って答えたね。

Gaki 焦ってた。あの日はお互い体調が悪くて、頭が全然働いてなかったから。「ここに留まりたい、ここからどこへも行きたくない」という気持ちはたくさんの人に共通してある気持ちで、でもそこで素直に「留まることって幸せだな」とだけ思えるのなら、悩む必要なんてないわけですよね。そういう方もいるかもしれませんが、我々の場合は、それとは相反する「このままじゃダメだ、社会に出なきゃいけない」っていう気持ちも同居していて。そのどちらの気持ちも否定する必要は全然ないし、だからといってみんなに「社会に出よう」と言いたい訳でも、逆に「ここに留まろう」と言いたい訳でもない。この、相反する2つの気持ちをまるごと肯定して寄り添っていきたいなっていうことを、カメラテストが終わってから考えてました。そういう矛盾を肯定したいです。

Lyn 私の個人的な気持ちとしては、矛盾を肯定したいということ以上に、むしろ矛盾を泣き叫びたいという気持ち。私が率先して泣き叫ぶことで、みんなもそれを聞いて泣き叫んでほしい、ぐらいのことを考えていました。みんなに対して「ここにも泣き叫んでいる人がいるよ」と伝えたい。

藤林檎 なるほど。「PARAISOの曲に触れる個人に対してどう関わっていきたいか」ということをここまでお話いただいたと思うのですが、PARAISOとしての世界や社会に対するアプローチみたいなものについては何か考えがありますか?

Gaki 実は、PARAISOで「世界を変える」みたいなことはあんまり考えていないんです。PARAISOの曲を聞いてくれた人の、世界の見方に少し変化がもたらされたら、それが一番うれしい。例えばお地蔵さんみたいに、お参りしたらその人の心がちょっと安らぐ、みたいなことがPARAISOにも出来たらいいな、と。それもある意味「世界を変える」といえるのかもしれないけど。


Lyn 私は、はなから世界を変えられはしないと思っているけど、こういう人もいるんだよってことが伝えられたり、この音楽を聴いている時間がちょっと幸せになったりとか、そういうちょっとした良いことを提供できたらなという気持ちでやっています。ただただPARAISOに関わってくれる人に良い思いをしてほしい。幸せに、楽しく、うれしくなってほしいっていう気持ちで。

藤林檎 最後に、インタビュー記事を読んでくださってることにこれは伝えておきたいみたいなことは何かありますか?

Lyn 私たちには、結構矛盾があるんです。これは言ったけど。

Gaki もしここまで読んでくださってる方がいたら、クリスタルひとし君ぐらい、何かすごく良いものをあげたい。PARAISOは結構作品を出すスピードが遅いんですけど、そんな我々を長い目で見つつ、一緒に歩んでくれてもいいよという方がいたら、PARAISOの活動をすこし覗いてくださると本当にうれしいです。


PARAISO

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追い詰められた京都の学生2名による音楽ユニット。 2019年8月10日、初めての作品となる「15才」「花、夜に溶けて」をYoutube上で公開し、本格的に音楽活動を開始した。8月31日には通算3作目となる「記憶と花火」を公開し、12月9日には1stミニアルバム『子供部屋から宇宙を見ていた』を発売するなど、わりと精力的に活動している。2020年6月には講談社の主催する「ミスiD2021」に出場、セミファイナルに進出(2020年10月現在)。2ndミニアルバム『Crashed』を鋭意製作中。
ジャンルに囚われないポップでキャッチーな聴きやすいサウンドと、ほとんど駄々をこねるばかりの子供じみた歌詞を融合させた、唯一無二の音楽を作り上げていきたい、という気持ちでいる。

twitter
https://twitter.com/paraiso_info_JP
HP
http://paraisojp.wp.xdomain.jp/
Youtube
https://www.youtube.com/channel/UC1oE_9mWgv7X11wYSLV1gKA

【PARAISOの今後のお知らせ】

「子供部屋から宇宙を見ていた」サブスクリプション配信決定!
お待たせしました!11月中に1stミニアルバム「子供部屋から宇宙を見ていた」の配信がスタートします。各種音楽配信サービスで配信予定。
CDも好評発売中です(Lyn特製歌詞カードがついてきます)
https://paraisojp.thebase.in/

それ以外にも、近日新たな発表がある予感。乞うご期待!


「〇〇とふじりんご」過去のインタビュー記事はこちらより