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頭痛キャラメル 第十話【天国のおみくじ】

母方のおばあちゃんは、胃ガンになった。

小学生の僕は、あのときのことを思い出していた。ある年の元旦のこと、僕はおばさん(母親の姉)と、おばあちゃんたちと一緒に、大きな神社に行ったことがあった。そこで、おばあちゃんは、おみくじをひいた。

ひいたおみくじは、内容が良くなかったらしい。おばあちゃんは、その事をとても気にして、そのおみくじに書かれていたことを、心配していた。僕は、おみくじの中に、どんなことが書かれていたのかを知らない。しかし、おばあちゃんと、おばさんの会話から想像するに、「何かの病気に気を付けなさい」とか、「患っている病が悪化しないよう気を付けなさい」など、の内容を思い浮かべた。小学生の僕は、当時はおみくじを引くのが好きではなかった。それは、なぜかと言うと、おみくじの中に、良くないことを見つけたら嫌な気持ちになるし、心配事ができるからだ。

誰が薦めたのか、おばあちゃん自身が決めて、おみくじをひいたのかはわからなかったが、すでに、おばあちゃんはおみくじをひいていて、そして、その中に、あまりよくないことが書いてあったことは、事実だ。

しかし、小学生の僕が思うに、おみくじは、すべてが事実になるとは限らないものだ。書いてあることが良くないことなのであれば、信じなければよくて、よきことだけを信じて、楽しみにしていればよいだけだ。そう、思った。

母方のおばあちゃんは、確かに、少し心配性だから、おみくじの中にかかれたことを、あたかも事実に近いこととして信じた。そして、心配事になった。

この時、結局、おばあちゃんは、もう一回おみくじをひくことにしたのだが、同じおみくじではなく、別の種類のおみくじを、ひくことを、みんながおばあちゃんに提案したのだ。実は、そのおみくじのことを、僕は知っていた。

そのおみくじは、先にひいたおみくじの、二倍の金額で、僕が知っている噂では、大吉しか出ないおみくじだということだ。

小学生の僕には、なぜ、そのようなおみくじがあるのかはわからないけど、今のおばあちゃんの心境を考えると、この状況にマッチした、おみくじがあるものだなと、感じた。僕は改めて、おみくじは、ひくまいと思った。

母方のおばあちゃんは、とっても心配性だったけど、年を取れば誰でも、体のことや、病気のこと、命のことなどを気にするものだと思う。

その後、おばあちゃんは、胃ガンになって亡くなってしまった。

でも、小学生の僕はわかっているんだ、人の人生は、おみくじの中には書かれていない。人生は、自分自身で決めることができる。

「天国のおばあちゃん、僕はたまに、おみくじをひくようにしたよ。それはね、あのときのおばあちゃんの気持ちを理解することが、僕の人生には、とっても大切なことだから。それが、いま、わかったからだよ。」

第11話につづく


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