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何も救えなくても、僕らは生き続ける。

 ここ近年、本は図書館で借りることの方が多く、あまり買うことがない。
 本をその場で手に取って買う方が好きなので、Amazonとかで買うことなどはほぼないのだが、ネットでイラストなり漫画なりを見ているうちに欲しくなった漫画があり、久しぶりにAmazonを使って買うことにした。

 その漫画とは、柴本 翔氏の作品、「パンデモニウム ―魔術師の村―」である。

(掲載しているAmazonのリンクはKindle版であるが、僕はこの作品を紙の本で読みたいと思い、単行本を購入した)

 どこからともなく現れ、空から“まっすぐな雷”(ビームみたいなもの)を落とす謎の巨大物体に、人々が怯えながら暮らす世界。その最果てにある、岩に囲まれ人を寄せ付けない異形の土地に、その巨大物体が潜むという「魔術師の村」があるという…
 大きな箱を背負った旅人のジファーは、行き倒れていたところをとある村人たちに助けられる。彼らの異様な姿形を見て、彼らが「魔術師の村」に住む異形の者たちであると確信したジファーは、村長の前で「まっすぐな雷の毒気で死んだ恋人を生き返らせてほしい」と懇願するが、「それはできない」と断られてしまう。
 外界人と呼び忌み嫌う村人たちの中で、ただ一人手を差し伸べた女性、ドミーカの世話になり、彼女の仕事を手伝いながら、持ってきた花火で村人たちと交流を深めていくジファー、そのうちに、村に隠された真実と、村に生きる人々の「ただ、生きる」ことの難しさを知ることになる…

 柴本氏のチャーミングなタッチの絵や漫画は以前からネットで目にすることがあり、今回、彼の代表作となっている作品を読んでみたいと思い立ち、購入した。
 いざページを開くと、何かを成そうと必死に足掻き、それが完全に無意味と化していくのを目の当たりにしながらも、何かをせずにはいられない登場人物たちの物語に、心を打たれ、圧倒された。

 日本のメジャー漫画では今でも、自らの夢や目標に向かって努力をすれば、いつか必ず報われるという言説をテーマの一つにしていることが多い。
 しかし、この物語の世界では、その言葉はただ、登場人物たちを呪い、苦しめる言葉にしかなっていない。
 夢や目標に引き摺られた挙句、身も心もボロボロになり、ささやかな想いや願い、はたまた大切なものを奪われ、または相手から奪ってしまう。彼らはその現実に何度も打ちひしがれ、涙を零していく。
 それでも、彼らは自分たちの内側にある何かに突き動かされ、進もうとする。いや、進まずにはいられないのである。
 そんな呪いを背負いつつも、一歩ずつ歩んでいくその姿は、僕らの本質を色濃く表しているといえるだろう。

 僕自身、その時々や事柄によっては、努力と根性を嫌い、放り出すことがままある。
 それでも心の中にある、自分でも何かわからないものに動かされ、今もこうして何かを表現をする活動をしている。
 それが何なのか、はっきりとした答えは一生現れないのかもしれないし、それこそ呪いの類なのかもしれない。それでも沸き立つそれを信じて歩もうと、改めて感じられた。

 出版から8年たった現在、個人の力ではどうしようもないことばかりが起きる今だからこそ、多くの方々に読んでいただきたいと感じた作品である。
 自らの本心に向かって歩み続ける、不思議な仲間たちの心に触れ合ってみてはいかがだろうか?

 これからも僕は、この柴本氏の作品世界にもう少し深く入り込みたいと思ったので、同じ世界観を共有しているという「ツノウサギ」という作品はもちろん、柴本氏がnoteなどで掲載しているweb漫画「花の騎士ダキニ」も、購入して読んでみたいところだ。

 さらに、「妖怪ウォッチ」のレベルファイブが運営する漫画配信サービス「マンガ5」にて、「よろず鍵屋の事件帖」連載されるなど、精力的に執筆活動を続けておられるようなので、今後もできる限りではあるが、応援していきたい。

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