6時間並んで手に入れたクリスマスケーキ
11/7 AM 4:00
NAH ウェカピポ YO!
と、けたたましく鳴り響くSOUL'd OUTで強制的に眠りから覚める。まだ眠っていたい。いや、眠るべきなんだと主張する身体にムチを打ち、布団から這い上がろうとする自分にふと1つの疑問が浮かんでくる。
なぜこんな早起きをしているのか?
なんでなんだっけ?どうして俺は日曜日の朝とも夜とも取れるこんな時間から起きようとしているのか?なぜこんなつらい思いをしなくてはいけないのか?なぜ人々が眠りこけているこんな時間から身支度を整え出かけようとしているのか?
こんな時間に起きてるのは70億人いる人類の中でもパン屋さんくらいしかいないはずだ。この時間から起きてるのは全員パン屋さんなんだ。パン屋さん以外ありえない。パン屋さん以外であっていいはずがない。パン屋さんの定義、それはパン作りを生業とすることではなく、ひたすらに早起きすること。
もぉ〜!ちっこく遅刻ぅ〜!
と食事用パンを咥え家を飛び出し、曲がり角でイケメン転入生にぶつかる少女はパン屋さんとは対極の存在だと言える。
むろん非パン屋さん的な少女とぶつかるイケメン転入生も到底パン屋さんにはなりえない。パン屋さん性が極端に低い二人だと言える。
そこにおいて今の俺は限りなくパン屋さんなんだ。
ではなんで俺はパン屋さんになっているのか?
それは
イデミスギノのクリスマスケーキを手に入れるためだろうヨォ!!!!
この記事を読んでいる人は杉野英実という生きる伝説を知っているだろうか?いや、杉野様を知っているだろうか?
とーーーーーんでもなく、すーーーーごいパティシエです。
杉野シェフを語る際に「パティシエの世界大会クープドゥモンドで日本人初の優勝」やら「(元)ルレデセール会員」やら「アジアベストパティシエ」やら物凄い肩書きが出てくるが、もう杉野シェフに関してはこんな肩書きを羅列するのは野暮でしょう。
ケーキ。杉野シェフのケーキを食べればそれでいい。それだけでいい。それだけで杉野シェフの凄みは十分伝わるはずだ。
この記事を最後まで読み終えた暁には是非ともイデミスギノへ足を運んでいただきたい。
ただいかにめちゃんこ美味しいパティスリーだと言っても4時起きする必要はあるのか?と思う人も少なくないでしょう。
甘い。甘すぎる。その考えでは戦場で真っ先に命を落とすことになるでしょう。ママの作ったフレンチトーストのように甘いです。この戦争が終わった後にもう一度ママのフレンチトーストを食べたかったらその考え方は今すぐ廃棄せず再利用に回してSDGsに貢献してください。
ではなぜこんなに早起きなのか、それは
イデミスギノのクリスマスケーキは毎年めちゃくちゃ行列ができるんだYO!!!
ってケーキ好きの知り合いから教えてもらったからです。私はイデミスギノのクリスマスケーキ争奪戦に参加するのは今年が初めてなので勝手がわかりません。
知り合い曰く始発で出るのは必須らしいので俺もニワトリかよってくらい早起きをしました。しかも自宅から行くより職場から行く方が早いので職場に泊まるという気合の入りっぷりです。
まぁこんだけ気合を入れて臨めば確実に手に入れられるでしょ〜と思いながらお店に向かった私ですが、それが大きな油断、慢心だったとすぐに気付かされることとなります。
僕がお店の前に到着したのは確か5時半ごろ。
思った通り店の前にはすでに人が並んでいた。前泊する人もいると聞いていたので特に驚きはしない。別に1番に並ばなくてもいいのだ。クリスマスケーキが手に入れればオールオッケー。
列を目で追っていくと50メートルほど先の曲がり角のところまで続いているようだ。人数は50〜60人くらいだと思う。
クリスマスケーキは限定100台のものが2種類販売される。おそらく2台とも購入するファンばかりなので、100人目までに並んでおきたいと思っていたが60人目辺りで並べるなら安心だな〜と思い、列の最後尾に並ぼうとしたその時だった。
俺が列の最後尾だと思った曲がり角の先には更に更に人が並んでいたのだ。その列は次の曲がり角まで続いている。人数にしておよそ40人。始発で来てもなお100人以内の安全圏に並ぶことはできないというのか…!!!!
再度最後尾を目指して歩みを進める俺の胸に不安が押し寄せる。
まさか、まさかな、いくらイデミスギノといえどそんなことがあるはずがない、、、いや、あっていいはずがない、、、、
曲がり角に到着した時、俺の不安の種は大輪の花を咲かせることになる。
まだ、列は続いていたのだ!!!!
その数およそ20人。曲がり角を2回曲がってようやく最後尾が見えたがその時点で約120番目。これは…クリスマスケーキを手にいれるにはあまりにも絶望的な数字なのではないか…
考えが甘かったのは俺だ。確実に手にいれるには始発ですら頼りなかったんだ。近くのホテルに宿泊くらいしないとイデミスギノのクリスマスケーキは手に入らないんだ…
絶望に打ちひしがれながら列に並び続ける。
俺の後にも続々と列ができているが皆想定以上の人数に驚きと戸惑いを隠せない表情をしている。
もしかしたら買えるかもしれないという希望と、こんな朝早くから来たのにケーキを買えないかもしれないという不安が 1 : 1.35 。不安の30度ボーメシロップだ。
途中から、並びに来たはいいがあまりの列の長さに諦めて帰っていく人も少なくなかった。最終的には俺の後ろに60人くらい並んでいたと思う。
11月の上旬といえど時間帯と容赦無く吹き荒むビル風で真冬並みの寒さに感じる。折れそうになる気持ちを支えてくれたのは、専門学生時代に見た「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」のイデミスギノのクリスマスに密着した回だった。俺はあの時からいつかイデミスギノのクリスマスケーキを食べるんだと心に決めて九州から上京してきた。パティシエ時代には食べられなかったが、今こうして食べられるチャンスがある。人数的に購入は絶望的だろうと僅かでもチャンスがあるのならそれに賭けてみたい。
そしていよいよ整理券が配られる時間帯になる。
スタッフの方が2色の紙を持っていて、2種類を購入なら両方の紙を、1種類の購入ならそれに応じた色の紙を配っていくシステムだ。
俺の10人ほど前の人まではどちらの紙もまだ残っていた。
頼む!!俺のところまで保ってくれ!!!無くならないでくれ!!!!!
予想通り皆二つの紙をもらっていく。だとすれば恐らく俺の辺りがボーダーライン!!!!!最悪1種類だけでも買わせてくれえぇぇ!!!!
俺のひとり前の時点でもまだ紙は2種類残っている!!!!これは多分いけただろう!!!!!紙束の厚さもまだ余裕があるように見える!!!!これは勝った!!!!!!!!!!!!!!
そしてようやく俺の番が回ってくる。
奇跡的にどちらの紙もまだスタッフの方の手に握られている。ここまで我慢して並び続けてきた甲斐があったと涙が出そうになった。
「2種類ともください」
そう言おうとしたその時だった。
俺の中の天使が囁いた。
「あなたが2種類買うってことはその分この列の誰かが買えなくなるってことよ。1種類にしておけばその分誰か1人はクリスマスケーキを食べることができるのよ」
同時に俺の中の悪魔も囁く。
「お前はイデミスギノの素晴らしさをみんなに知って欲しいんだろう?だったらここはどちらか1種類で我慢しておこうぜ」
天使と悪魔の満場一致。より多くの人にイデミスギノのケーキを食べて欲しい。俺の心からの本心だ。クリスマスケーキは初めてだが、これまでイデミスギノには何度も足を運んでいる。このお店の魅力は十分すぎるほど味わってきたのだ。
「分かったよ」
誰に言うでもなく俺はつぶやいた。
そうしてスタッフの方の目を見てこう言った。
「2種類ともください!!!!!!!!」
天使?悪魔?そんな奴らの言うことなんぞ知らん!
俺は神だ!!!!!俺は俺を司る神なのだ!!!!!!!天使悪魔風情が生意気に意見してくるんじゃない!!!!!
俺は俺の前の人で完売したとしてもその人を恨まない。俺含めて手に入れられない可能性も承知で並んでいる方々の覚悟を甘く見るんじゃない!
そうしてなんとかかんとか俺はクリスマスケーキを2種類とも手に入れることができました。
予約の受付が完了したのが11時ごろだったので約6時間ケーキのために並んでいたことになります。1日の1/4を費やすだけの価値がイデミスギノにはあるのです。
ケーキの受け取りはクリスマス期間だけでなく最短で12/3からできるので、1種類を12/3に、もう一つを12/24に受け取ることにしました。
そして12/3。
受け取ったケーキがこちら。
「ギャラクシー」
チョコレートムース、キャラメルムース、キャラメルソースにスパイスやドライフルーツを合わせたケーキです。
チョコレート、キャラメルの重厚さを感じながらもフルーティーで味わいで重くなりすぎず、スパイスでクリスマスらしさも感じるという非常にうまピヨなケーキでした。
思っていた以上に中にドライフルーツやナッツが入っていて、食感の部分でもとても楽しめました。
でも少し物足りない感じもしました。
普段はケーキに対して否定的なことは言わないようにしています。そもそも好みじゃなければ紹介しないので。
ですのでギャラクシーも美味しいし、自信を持ってオススメできると前提なのですが、僕としては物足りなかったです。
というのもイデミスギノといえばムースの口溶けが特徴です。
あれだけ素材のシャープな味わいを残しつつ軽くて繊細なムースは他ではなかなか味わえません。
ゼラチン量を限界まで減らしたりしているので、テイクアウトできない店内限定のケーキも存在します。
僕はイデミスギノのケーキを食べる時、店内限定のものを頼むことが多いので何度もその口溶けに驚かされてきました。
その感覚でいくと、やはりテイクアウト前提のクリスマスケーキは口溶けの部分で少し物足りなさを感じました。
そんなこと言ってもテイクアウト前提なんだから仕方ないだろうと思われそうですが、それでもイデミスギノには期待しちゃうんですよね。
物足りなさを感じた原因はイデミスギノにあるのではなく、俺の期待値のハードルがあまりにも高すぎたことにあるのは分かってます。他のパティスリーなら間違いなく大手を振って「うまピヨ!うまピヨ!」と叫んでいます。
何度も言いますが、間違いなく美味しいケーキでした。
そして昨日の12/24。衝撃でした。
「シシリエンヌ」
ピスタチオとクランベリーとグリオットチェリーという王道の組み合わせ。美味しくないはずがないです。
しかし今回はハードルを上げすぎないように気をつけて食べました。そして俺は自分の愚かさを実感します。
仮に俺が限界までハードルを上げたとしても、それを悠々と超えてくるようなケーキでした。
なにこれ美味すぎやしませんか???
ピスタチオが濃厚というわけではないですが、ふくよかなナッティーさはベリーとグリオットの酸味を包み込んで味わいを底上げしています。
ベリーのムースとジュレも単調ではない厚みのある酸味があり、それが心地よく口の中に広がっていきます。
底と周りに使われている生地。これは割としっかりピスタチオを主張していて、咀嚼するほどに旨味が出てきます。
そしてなんと言っても口溶け。
これだよコレェ!!!!!!って感じでした。この儚さ、ムースに含む空気量まで計算して作ってんかよってほどのエアリー感。軽さの中にある鋭さ。
イデミスギノの真髄がここに詰まってますやん!!!!!!
ハニーと2人で食べたのですが、ほんとに一瞬でなくなりました。
1/6でいいかな〜とか言ってたハニーが鬼の形相で半分食べた時には流石に寒気がしました。
仮に1人で食べる場合でも余裕で食べ尽くせるんだろうなと思わせるほどの軽さ。やはりイデミスギノは唯一無二。だいしゅき!
来年もイデミスギノのクリスマスケーキを食べたい。仮の12時間並ぶ必要があったとしても手に入れたい。
杉野シェフも68歳なので、いつまでお店が続くのかは分かりません。あくまでご自身でケーキを作るスタイルなので後継者に任せて店は継続ということもないでしょう。
確実に後世に語り継がれる事になる伝説のパティスリーなので、あとから「行っておけば良かった〜」と後悔しないよう今すぐに行きましょう。
俺もまた1月中に行きたいと思います。
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