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来世に届ける10分間

 もし来世があるとして、もし今世のあなたの記憶を10分間分、来世の自分に送る事ができたら。
 あなたはどんな10分間を送りたいですか?


 本当に言う人がいるかどうか、わからないけど、お年寄りの発言としてこういうのをよく聞く。

「つらかった事も苦しかった事も、過ぎてしまえば良い思い出」

 確かに、それはそうだなぁと思う。
 もちろん筆舌に尽くしがたい凄惨な苦しみを背負ってしまった人もいるだろう。その人が同じように答えるかはわからない。
 ただ一般的に、いわゆる人生のあるある的に、つらかった出来事はたいていの場合は「いい思い出」になるのではないかなと思う。


 例えば「子育ての苦しみ」。
 正解のない子育てに四苦八苦するのは世の普遍的なテーマだろう。
 普遍的と言えば「恋愛」のトラブル。
 石を投げれば当たるくらい人生と切り離せられないテーマだろう。
 友人、家族、ぶつかりあったり怒ったり傷ついたり泣いたり。
 こういったものは「過ぎてしまった良い思い出」になる事だろう。


 人は生きているので、いずれ死ぬ。
 いつ死ぬかはわからない。
 死んだ後どうなるかも、わからない。
 天国があるの?地獄があるの?また人に生まれ変わるの?
 死んでみなければ、わからない。

 自分が消えてしまう事。それはとても恐かったり悲しかったりする。
 逆に精神的に病んでしまって消えてしまいたい人もいるだろう。


 もし。
 もし、また人に生まれ変わるとして、来世の自分に今世で経験したり見聞きしたり感じた事を10分間の音声付映像として送る事が出来るとしたら。
 あなたはどんな10分間を送りたいですか?


 生まれ育った故郷の風景。
 育ててくれた家族の笑顔。
 鏡で見た自分の姿。
 叱ってくれた人の声。
 誰もいない校舎の静かな廊下。
 体調を崩して保健室のベッドで休んでいた時に窓から見えた青い空。
 猫。
 犬。
 好きな漫画。
 よく行く喫茶店。
 転んで擦りむいた膝に絆創膏をはってくれた手。
 大好きな人。
 大嫌いだった人。
 絶対に許せないと思った相手。
 自分を不幸にした人の顔。
 楽しい思い出。
 つらい思い出。

 何を送るだろう。
 10分間に詰め込めるだけ詰め込むだろうか?
 何も送らない人もいるかも。

 こんな事考えても、もちろん意味はないだろう。
 実際に10分間の映像を送れるわけではないだろうから。
 だけどこんなくだらなくてどうでもいい事を考えた事も、やっぱりいずれは「いい思い出」になるのだろう。

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