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制度の目的から考える

2月26日の日経新聞で「「育休手当の壁」を壊せ」というタイトルの記事が掲載されました。育児休業にかかる手当制度の見直し提案をしている内容です。

同記事を抜粋してみます。

育児休業給付の受け取りを延長しようと「落選狙い」で保育所に入所申請する事例が相次いでいる。現行制度では出産後に1年間の育児休業が取得可能で、保育所が見つからない場合は最大2年まで延長可能だ。その間、育休手当は給料の約3分の2から半分程度が支給される。落選狙いはこの制度を「悪用」して、あえて入園が難しい保育所に申し込んで手当を受け取ることを指す。

運良く当選すれば保育所を利用して働ける一方、落選した人は仕事ができない。待機児童の増加でこの不公平は急増した。育休手当が最大2年に延長された理由は待機児童対策であり、落選狙いはそんな制度の趣旨から外れていると非難される。しかし、落選狙いは働かない方が得をする「育休手当の壁」がそもそもの原因であり、制度的な欠陥だ。

従来は休業には手当を払う、仕事へ復帰するなら保育所を提供する、という関係だった。だが、現在導入が進められている「こども誰でも通園制度」は親の就労に関わらず保育所の利用が可能で、従来の関係に矛盾が生じている。

この10年で「産休・育休が取れない」状況から、「保育所に入れない」「時短勤務で普段と同等の成果を求められて大変」などと当事者の声も変わりつつある。そして早く仕事に復帰したい人もいれば育休を長く取りたい人もおり、ニーズは様々だ。ライフプランの多様化も考えれば、取得期間に応じて育休手当を支払う方法が制度疲労を起こしているのである。

ではどうすればよいか。育休の取得期間と育休手当の支給を連動させなければよい。つまり出産時点で育休手当を一括で払う形への制度変更である。一括支給は就労のインセンティブを維持して制度的な不公平も解消可能だ。現在の制度は早期に仕事に復帰すれば育休手当のもらい損ねが発生してしまう。ライフプランの選択で社会保障に差をつけるべきではない。

何よりも一括支給による最大のメリットは早期復帰を選ぶ人が増えることだ。もらえる育休手当の額が同じならば働いた方が得というインセンティブを生み、人手不足に悩む企業が歓迎する仕組みとなる。より柔軟な制度変更を期待したい。

興味深い着眼点だと思います。
上記提案と同様の制度として、再就職手当が挙げられます。

失業者の早期再就職を促すために、厚生労働省が「就職促進給付」として設けたものです。失業保険受給中に再就職が決まると、残りの給付日数と前職の給与に応じた手当がもらえる制度です。

再就職した時点で失業保険の給付日数が多く残っているほど、再就職手当としてもらえる支給額が増える仕組みです。早く就職するほど受け取れるお金が増えるわけですので、失業保険に期限いっぱいまで頼らずに、早く就職しようという気持ちを促す効果があるとされています。

出産時点で育休手当を一括で払う形にすれば、早期に仕事復帰する人に対してこれまでに支給していた以上の支給額を支払うことになります。その結果、どの程度かは分かりませんが、必要となる公的予算は見た目で増えると想定されます。

しかしながら、早期に仕事復帰しようとする人が増えることで、社会全体での人材供給力を高めることに寄与し、経済が活性化します。その結果から得られる税収の増加等で返ってくるものもあります。トータルで考えると、社会全体でプラスになるのではないかと想定されます。

これと似た構図の存在は、身のまわりでも挙げられそうです。
例えば、固定残業代制度です。

固定残業代制度は、時間外労働手当に相当する一定の賃金を定額で支払うものです。例えば、対象時間を月20時間と設定し、月20時間分の残業代を月例給の中で毎月定額で支払います。残業実績が20時間未満でも支給額が減ることはありません。20時間を超過した場合は、超過分に相当する賃金を支払う必要もあります。

この制度による効果はいくつか挙げることができますが、最大の要素であり目指すべきものは、業務効率化・生産性の向上にあるはずだと考えます。

一定の時間分固定で支払われている=その時間以内なら残業時間の長さにかかわらず賃金支給額が同じなわけです。従業員には、同じことをするのなら、なるべく業務を効率化して労働時間を短くしようというインセンティブが働きます。そして、効率化して浮いた時間は、自己研鑽や別の何かに取り組むことで、職業生活全体のパフォーマンス向上につながります。

管理側も、一定の時間の枠内に労働時間が収まっている限りは、残業支給額の確認等をする必要がないため、手間が減ります。

職場によってはありがちだと指摘されるのが、生活費を稼ごうと、効率的に済ませられるであろう仕事を時間をかけて残業をする行動です。固定残業代制度が適切に運用されれば、こうした行動に一定の歯止めをもたらすことも想定できます。

一方、同制度があまり有効に機能していない職場があることも指摘されます。私も、仕事を通して同制度の導入例を見聞きすることがありますが、賛否両論で、いろいろな運用の難しさがあるのも感じます。

そのうえで、ひとつ確かなこととして言えるのは、「給与の見た目をかさ上げするのを目的とすると、うまくいかない」ではないかと考えます。

基本給などを低く抑え、長時間分の固定残業代を設定して月例給に組み込み、「自社ではこれだけ月給を出している」とすることで、従業員に対する説明や求人での見栄えがしやすくなる面があります。しかし、これを制度の主目的としてしまうと、本来生み出したかった(上述した)インセンティブが歪み、処遇への不満という別の影響を生み出しかねません。

歪んだ目的は、従業員や関係者が敏感に感じとるものです。

身のまわりの制度や規程に対して、本来目的としたいことは何か、今の制度内容はそれに合っているのか、別の内容に改善できる余地はないか、考えてみたい視点だと思います。

そして、冒頭の記事にあるように、制度の趣旨から外れた使い方についての向き合い方です。そうした使い方を非難したくなるものの、そもそも制度的な欠陥があるなら、その仕組みのほうが問題の事象を誘発している要因であり、フォーカスすべきはそちらのほうだと考えるべきでしょう。この視点も、身のまわりの組織活動で応用可能だと思います。

<まとめ>
制度の目的に立ち戻って、制度欠陥は改善する。


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