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相互副業を考える(2)

5月23日の日経新聞で、「パーソル、副業「稼ぐ」から「磨く」へ リスキリング活用 100社橋渡し」というタイトルの記事が掲載されました。パーソルホールディングスが7月に始めると発表した、企業が相互に副業を受け入れる仲介サービスに関する内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

パーソルキャリア(東京・千代田)が副業の募集案件と人材をマッチングするシステムをつくる。2027年までに100社の利用を目指す。募集案件をビジネスモデル策定やM&A(合併・買収)などの交渉・締結といった600種類以上に細分化し、希望者を募る。副業する人は受け入れ先と業務委託契約を結び、報酬を受け取る。

同社は22年から企業間で相互に人材を受け入れる副業のコンソーシアムを立ち上げた。27社128人が副業先で新規事業の立ち上げや採用戦略の立案といった業務に参加した。月額5万~10万円の報酬を得た。

コンソーシアムに参加した明治ホールディングスは、海外大卒や外国籍の新卒採用を強化したいが、社内の知見が乏しいという課題があった。そこで兼松からこうした採用の経験がある杉浦陸さん(30)を迎えた。

杉浦さんは週1回勤務し、明治HDが中期経営計画で掲げる海外人材の採用手法確立に向けて具体的な戦略を同社の同僚3人と検討した。明治HD人材戦略グループ長の大河内淳さんは「杉浦さんのリーダーシップや経験に同年代の社員は大いに刺激を受けた」と振り返る。杉浦さん自身も「初対面の人と普段と異なる仕事をすることで自己理解が深まった」と話す。

日本企業は本業がおろそかになるといった理由から副業解禁に慎重だった。18年に厚生労働省が「モデル就業規則」を副業を原則禁止から認める内容に改定し、この年は「副業元年」とされる。

ただ、パーソル総合研究所の調査では、副業を容認する企業の割合は23年に61%と21年比約6ポイント上昇したが、実際に副業を受け入れている割合は24%と横ばいだ。

副業には課題もある。相互副業なら送り出す企業と受け入れ企業が、就業状況について密に情報共有できるため、労務管理も容易になる。送り出す人材と受け入れ部署を調整すれば、情報漏洩リスクも小さくできる。

働き手も変わってきた。新型コロナウイルス禍では本業の収入減少を副業で補おうという意識が強かった。パーソルイノベーション(東京・港)の副業マッチング「lotsful(ロッツフル)」が24年2月に実施した調査によると、副業した理由では副収入を挙げる人が多いものの、「自身の将来のキャリアのため」と答えた人は21.7%と22年8月から約3ポイント上昇し、過去最多だ。

働き方に詳しい「しゅふJOB総研」の研究顧問、川上敬太郎氏は「企業は社員のキャリアを支援したいと思いつつも、ステップアップのために離職してしまわないかというジレンマを抱える。どこまで後押しできるかが課題だ」と指摘する。

相互副業のテーマについては、以前の投稿「相互副業を考える」でも取り上げました。人材を相互に送り合っている、いくつかの企業の事例について考えた内容でしたが、上記の記事は、仲介のサービスを立てることでそうした機会を体系的につくりだそうということのようです。働く個人の側の心理的負担と企業側の物理的な負担と、両方を下げる有力な方法として、今後広がっていく可能性があるのではないかと感じます。

企業としては、労働力人口の確保が難しくなる中で、1人当たりの生産性向上が重要テーマになってきます。上記記事中にあるように、社内に知見やノウハウがない領域については、その領域に明るい人材を社外から調達し、社内の人材がかけるのと同じ時間を社外から来た人材が投入することで、明らかに生産性が高くなります。相互に人材を送り合って、両社の手薄な領域をカバーし合えば、総従業員数が同じでも組織としての生産性が高まります。

加えて、多様性の視点です。社外から来た人材の目で見たときに、不自然に見えること、改善できそうに感じることで、社内の人材には当たり前になっていて気が付かないということは、多いものです。そうした指摘をし合うことができれば、両社の生産性はさらに高まるはずです。

そして、もともと所属している企業のほうに、業務委託先で得た視野の広がりを逆輸入できれば、生産性を高めることにつながります。こうしたことを実現しようとすると、所属している企業、業務委託先企業の双方の環境で、社外の声に耳を傾ける、本当の意味での心理的安全性が不可欠だと思います。

このシステムの良い点のひとつとして、本人の希望をベースにしているということが挙げられます。

本業を持ったまま、さらに自身のキャリアづくりも目指して業務委託という形態で仕事をすることを希望するのであれば、モチベーションだとかワークライフバランスだとかいうテーマは、基本的に本人次第であり問題にならないはずです。

あくまで、所属先で取り組んでいる本業で成果を上げたうえで取り組むのが原則であり、本業をおろそかにしての取り組みになると本末転倒だとは思いますが、原則に沿っての取り組みであれば得られるものも大きいのではないかと想像します。

「副業で自信や能力を高めると、ステップアップのために離職してしまわないか」というジレンマは、気になるところではあります。そのうえで、そうした人材は、囲い込むことで果たして離職する確率を減らせるのかどうかも、一考の余地があると考えます。

<まとめ>
相互副業は、双方の企業にとって生産性を高める取り組みとなる可能性がある。

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