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手当支給の目的・合理性を考える

2月26日の日経新聞で、「非正規の手当格差、指導急増 厚労省、23年度は12倍の1700社超に 通勤や食事、精勤など」というタイトルの記事が掲載されました。普段訪問している企業先でも、人件費や人事のテーマになると手当の見直しが話題となることが時々あります。

同記事の一部を抜粋してみます。

正社員と非正規社員の間の不合理な手当格差について、厚生労働省が企業への是正指導を強めている。2023年度の指導件数は11月までで1702社と前年度の約12倍に急増。18年の最高裁判決などが後押しした。企業は非正規社員の処遇の見直しを迫られる。

2月上旬、岐阜市内の厚生労働省岐阜労働局。雇用環境・均等室の山村千華室長が、「同一労働・同一賃金」の法的要件を定めたパート・有期雇用労働法を使って企業への指導を徹底するようスタッフに働きかけていた。

同法は8条で、正社員と非正規社員の間の不合理な処遇格差を違法と規定する。岐阜労働局は23年度、通勤手当や慶弔休暇の有無などの格差について、1月までに33社を指導した。同様の指導は前年度2件のみで、急増ぶりが際立つ。

自動車通勤が多い岐阜県では、交通費がガソリン代として通勤距離のキロ数で計算されることが多い。山村室長は「パート社員と正社員で計算の基準や上限が違う企業を指導し、修正させた」と話す。

厚労省の田村雅・有期・短時間労働課長は「労基署と均等室の連携方式が効果的な指導につながっている。今後も指導に力を入れる」と話す。同省は特に、通勤手当や慶弔休暇のほか、精皆勤手当、食事手当などに注目しているという。

厚労省によると、是正指導を受けた企業の中には、正社員と契約社員のみに出していた食事手当を労働時間に昼食休憩が含まれるパート社員にも拡大したり、正社員のみが対象だった精皆勤手当の支給をパートと契約社員にも認めるようになったりする改善例がみられたという。

厚労省が正規・非正規の手当格差の是正強化に動いた背景には、23年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」など複数の政府方針がある。政府は同一労働・同一賃金に関する法制について「その施行を徹底する」と強調している。

さらに最高裁が、旧労働契約法20条(現在はパート・有期法8条に条文移植)に基づく2つの裁判について18年に出した判決で、正規・非正規間の不合理な処遇の判断枠組みを示したことも大きく影響した。

この裁判は、正社員に支給されている手当が有期雇用労働者に支給されないことを「不当」として労使が争ったハマキョウレックス訴訟と、定年前後の賃金などの処遇格差を不当として争われた長沢運輸訴訟だ。最高裁は、処遇の不当性を巡る判断では単に賃金総額の比較ではなく、賃金を基本給や手当などの項目別に分け、それぞれの支給の趣旨を考慮して個別に違法・合法を判断するという枠組みを示した。

最高裁ではその後の同種裁判でもこの枠組みを踏襲。「本給やボーナスに格差があることは一概に不当と言えないが、手当格差には不当で許されないものがある」といった判断の流れが明確になった。

同記事では、正規・非正規の処遇格差が不合理かどうかを判断する枠組みも図表で紹介されていました。「①職務内容は正社員と差があるか」「②配置転換の可能性に差はあるか」「③職場慣行ほか「その他の事情」を考慮」の3つの視点から、本給・手当・賞与をそれぞれ個別に判断するとあります。

非正規社員という雇用形態で働く人材の多くは、いわゆる「ジョブ型雇用」だと言えます。職務内容や勤務場所などが特定あるいは限定されていて、就業時間も正社員と異なる長さの設定になっているところが多くあります(仮にこれらが正社員と同一であれば、非正規社員という枠組み自体に合理性がない)。

それらの内容に見合うと双方が考える契約金額で雇用されます。よって、その内容が、正社員の貢献している価値や担っている負荷の大きさより小さければ、それを反映した本給やボーナスが低くても自然だということになります。上記にある「本給やボーナスに格差があることは一概に不当と言えない」は、そのことを表しています。

他方で、例えば「労働への直接の対価ではない、通勤にかかる実費弁済である通勤手当を、正社員には払うが非正規社員には払わない」としたら、どうでしょう。通勤頻度や距離が変われば必要な実費額が変わるため支給金額が変わるのは当然として、その弁済方法や弁済の有無が雇用形態によって変わるということには合理性が疑わしくなることが多い、というのが、同記事の示唆のようです。

自社の手当制度をどのように決めるとよいか。ポイントは3つあるのではないかと考えます。1.その手当の目的を明確にする、2.その目的が自社の理念や方針と合っているかを確認する、3.その内容に社会的合理性があるかを確認する。3.に関する考え方が、同記事というわけです。

1.2.に関して、以前お伺いした企業様で、下記のような検討例を見たことがあります。

・これまで会社は、扶養対象の配偶者と子どもに対して、その人数に応じた家族手当を出してきた。配偶者は子どもの倍の金額。子どもは第2子までとし、第3子以降は支給対象外としていた。

・これを制度改定し、配偶者への支給はやめる(現支給者には配慮の対応をしたうえで)。一方で、子どもは従来の倍額とし、第3子以降も制限なく支払うようにする。

・この手当の目的は、子育てをする社員を応援するということで明確化。国全体で子育て支援をしていこうという流れの中で、自社としても微力ながら子育てする人材を、業務のパフォーマンスとは別で応援したい。

・社員の配偶者が無職かどうかは、配偶者本人のライフスタイル次第の面もある。また、結婚という形態をとらずに子育てをしている人もいる。よって、自社が雇用する社員に対して拠出する予算としては、子どものほうに向けるのがより適切だというのが自社の判断。また、年収の壁問題に対する自社の微力な取り組みでもある。

手当制度に決まったひとつのあり方はありません。上記のような家族手当は仕事の成果と直接は関係ないのだから、自社では制度を作らないというのも考え方としてありです。そのうえで、上記1.2.のポイントに対する同社様なりの明確な答えが反映された制度改定だと思います。

今回テーマにした手当制度に限りませんが、制度やルールは時代や環境変化の影響も受けます。以前は許容されていた考え方ややり方が、今では許容されなくなっているというものもいろいろあります。身のまわりにある制度やルールについて考えるうえで、上記は参考になる視点だと思います。

<まとめ>
当該制度・ルールの目的を明確にし、その目的が自社の理念や方針と合っているかを確認する。

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