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中国車の躍進を考える

10月18日の日経新聞で、「中国はおいしい車市場か」というタイトルの記事が掲載されました。三菱自動車が中国での生産から撤退を決めるなど、中国の車市場の環境変化を踏まえての意志決定がますます迫られてきそうです。

同記事の一部を抜粋してみます。

10月26日に始まる東京モーターショー改め「ジャパンモビリティショー」には、中国から自動車メーカーとして初めて比亜迪(BYD)が参加する。東京とともに5大自動車ショーに数えられるドイツの「ミュンヘンモビリティショー」(9月)では、日米欧のメーカーの不参加が相次いだ一方で、電気自動車(EV)を多数ひっさげた中国企業が脚光を浴びた。タイ、インドネシアの催しでも中国勢が存在感を増した。

その原動力は、爆発的ともいえる本国でのEVの普及と輸出拡大だ。中国汽車工業協会によれば、9月の新車販売(輸出含む)に占めるEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の比率は前年同月より5ポイント増えて32%になった。輸出も同93%増となり、2023年の累積では世界一の状態が続く。

今後はどこまでいくか、と予想したくなる。中国市場は肥沃でありつづけ、自国メーカーをさらに巨大な存在にしていくのか。少なくとも後者はイエスだが、前者はノーだ。中国国内市場の拡大はもうピークを過ぎている可能性があるからだ。

車産業の歴史をひもとけば、新車販売の過去最高水準は歴史的なバブル経済のピークと重なることが多い。しかもバブル崩壊後の約20年間は、市場規模がピーク時の7~9割の水準で安定する。

日本のバブル崩壊後が典型だ。1990年の777万台を最高に新車販売は2010年まで500万~680万台で推移した。その後も人口減や若者の車離れが追い打ちをかけ、近年は90年の6~7割で推移する。

人口の減少期に入った中国は日本型といわれている。23年の新車販売は約2760万台と3年連続で増加する見通しだが、けん引役が輸出なのを忘れてはならない。輸出を差し引いた国内販売は17年の2799万台を最高に、18年から5年連続で減少が続く。

今後についても国内総生産(GDP)の3割を占める不動産投資に不透明感が強まり、環境が厳しい。つまり、17年をピークとするなら今後は2000万~2500万台の範囲で安定期に入る。

一方で、新車の総需要は停滞してもEVへの置き換えが進んでおり、強い企業が一段と巨大化する余地は大きい。市場規模は日本の絶頂期の3.6倍もあり、実際に起きつつあるのは、BYDなどEV開発で先行する企業とその他の二極化だ。「負け組」と呼ばれる企業群は国有企業を含めて淘汰の荒波にもまれつつある。

EVで出遅れた日本勢も、手を打たなければ後者に沈む。分かれ道が迫っており、三菱自動車は中国での生産から撤退を決めた。面白いのは報道直後の株価が上昇した点だ。値下げ競争もあって中国市場のうまみは薄れており、早めの撤退判断が評価された格好だ。

同記事から想定されることとして、中国メーカーによる国外での自動車販売が今後飛躍的に増えてくる可能性が考えられます。

日本の人口は、約1億2500万人です。2022年度(22年4月~23年3月)の日本国内新車販売台数は、約439万台です。簡易な割り算ですが、1年間で約28人につき1台が、新車として売れていることになります。

中国の人口は、約14億2000万人です。この人口を28で割ると、約5071万となります。同記事の関連統計によると、輸出を差し引いた中国国内での販売台数は、2022年で約2500万台です。このことから連想すると、例えば中国の1人あたりGDPが日本並みの水準にまで高まれば、国内販売台数が今の2倍ぐらいの水準までは期待できるのかもしれません。

しかしながら、日本以上に急激に人口減少が起こっていくことや、同記事の言うように当面の経済環境の厳しさなどを勘案すると、現在の国内販売台数の水準で安定期に入るというシナリオは、十分想定できると思われます。

中国がEVで先行し生産力も手にした一方で、国内の新車販売は頭打ちが想定されるわけです。その状況下で、中国政府も補助金や税制面で、EV生産を手厚く支援していると言われています。加えて、中国依存度の高いドイツ企業は今でも中国で設備投資を続けており、供給過剰になっていくことも考えられます。

そうなると、今後は海外の拠点で生産される中国車に加えて、中国国内で生産され国内で行き場を失った中国車も海外に流れてくることが想定されます。ジャパンモビリティショーに中国から自動車メーカーとして初めてBYDが参加したのは、その動きの兆候と見ることもできそうです。

加えて、海外消費者の中国車に対するイメージの変化も想定されます。

自動車関連サイトをいくつか検索してみたところ、中国車のブランドイメージに関する定量的な変化を直接説明する情報はヒットしなかったのですが、「かつて日本車や日本のクルマ好きにとっては嘲笑の対象だった中国車だが、続々とオリジナルモデルが登場し、技術レベルが大幅に向上してから、笑っている場合ではなくなってきた」(ベストカーWeb)などのように、中国車に対するイメージの好転を予感させる内容が散見されました。日本を含めた他国で、中国車が以前より選ばれやすくなっているのは確かではないかと考えられます。

これらのことから、中国車と他国車の競争は、今後ますます激化すると予想されます。

自動車産業は経済全体に与える影響の大きい存在です。中国車の台頭が本格化していく可能性のシナリオを踏まえて、製造業をはじめとするこれからの産業構造の環境変化を想定し、戦略を判断していくことが求められると思います。

<まとめ>
中国車の台頭が本格化してくる影響を想定する必要がある。

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