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価格改定交渉を考える

先日、ある企業様への訪問時に、次のような問いかけがありました。

「商品・サービスを値上げするにあたって、「こういう流れでこうやって相手に迫ると、話がうまく流れやすい」のようなストーリー、手引きなどをまとめている事例があったら、ヒントになるかもしれないので、教えてもらえないか。うちの営業は、顧客の言うことを良く受け止めるスタイルが強く、値上げ交渉などはイメージが持てていない。」

まず、「値決めは経営」という観点からも、値上げに関しては社をあげて取り組む必要があるテーマだと考えます。得意先様には、社長自身が値上げのお願いをしてまわるのも大切な取り組みになってきます。

また、交渉術トークなどを体得すれば多少やりやすくなるかもしれませんが、「こうすれば必ずうまくいく」といった魔法のような方法はないと思います。中小企業庁や商工会議所の発信している情報等を探してみても、「根拠を明確にする」「誠意をもって説明しお願いする」といった当然のことが書かれています。それが王道なのだろうと考えます。

5月1日の日経新聞記事「〈小さくても勝てる〉大手、中小の価格転嫁のむ 難題の「労務費」10%超上げ合意も、原価データ交渉後押し」から一部抜粋してみます。

中小企業が取引先の大企業との間で進める2024年春の価格改定交渉で、大幅な引き上げをのんでもらう事例が出始めた。従来比10%超の加工賃の上昇で合意し、値上げ幅が23年の2倍となった例もある。加工賃は価格転嫁が特に難しい労務費にあたり、国も転嫁しやすい環境づくりに力を注ぐ。10万件以上の詳細な原価分析のデータが価格交渉を後押しした。

「部品をつくる際の加工賃が上がらないと大幅な賃上げは難しい。このままでは従業員の引き抜きリスクが高まる」。3月下旬、関西で従業員300人以下の金属加工業を営む男性社長は電機大手との交渉が不調に終わり、厳しい表情をみせた。

23年と同じ5%の引き上げは認めるとする電機大手に対し、男性社長は電機大手が3月中旬に23年の倍近い月額1万3000円のベースアップ(ベア)を決めたことを材料に反論した。「物価高で生活が苦しいのは皆同じ。5%では大手とうちの賃金格差がさらに広がる」と10%超にこだわった。

並行して温暖化ガスの削減など環境対応への協力を訴えると、電機大手は4月上旬に満額回答を寄せた。男性社長は従業員に「5月分の給与から月額1万3000円のベアを実施する」と表明し「これで成長を目指して頑張れる」と安堵した。

この企業は部品の原価を細かく分析できる生産管理システムの導入が奏功した。10万件を超す部品について、1件ずつ原材料費、燃料費、労務費がいくらだったか、原材料費なら鉄や銅ごとに分かる。男性社長は「価格転嫁が進まず数年前に赤字になったことも数字で説明できる。大企業も数字があると価格改定を受け入れやすいようだ」と語る。

ただ、取引先に納入する部品の原価の詳細データはないという中小企業は少なくない。埼玉県は23年2月、そんな企業のために、誰でも無料で使える「価格交渉支援ツール」をインターネット上に公開した。

全国の百貨店に売り場を構える洋菓子メーカーにケーキや焼き菓子をOEM(相手先ブランドによる生産)供給するシェリエ(埼玉県本庄市)は2月、支援ツールを初めて活用した。価格交渉の結果、砂糖などの原材料費の高騰分を洋菓子の価格に転嫁できた比率が、従来の7割から8割に上がった。

支援ツールを使うと、日銀が公表する807品の国産品と375品の輸入品の価格など、計1420項目の価格やサービス料金を調べられるほか、20年1月以降の増減率を簡単にグラフにできる。シェリエの幹部は「日銀のデータを基に原材料費の上昇率を示せるので交渉がしやすい。24年は通年で9割の価格転嫁を目指す」と話す。

埼玉県の委託を受け支援ツールの普及に携わる埼玉りそな銀行は「運送会社や塗装会社など多くの企業が価格転嫁に成功した」と説明する。県産業労働政策課は「労務費に関するデータが勤労統計調査の1項目しかないのが課題。24年度にも労務費の項目を増やし、使い勝手をより高めたい」と力を込める。

同記事で紹介されている価格交渉支援ツールを見てみましたが、価格交渉初心者にとっても比較的わかりやすく、ポイントを絞って必要事項がまとめられている印象です。参考にしやすい企業も多いのではないかと感じました。

冒頭の企業様も、原材料費や管理費等の物価が上がっていることは認識していながらも、同記事の企業が行っているような現状把握の取り組みまでは至っていませんでした。そのことも踏まえて、改めて3点申し上げた次第です。

・値段交渉を営業部門の取り組みに任せているようだが、経営者自らが関与して、対顧客対応も含め経営マターとして進めていくこと

・同記事で紹介されているような情報も参照し、現状把握を具体的に行うこと。どのような要因のコスト増がどれだけあるのかを把握し、だからいくら値上げをお願いする必要があるのかを、正当に、自信をもって話せるようにすること

・社員の給与が商品・サービスの値上げと紐づいているということを、社員に理解浸透させること。会社の財務・利益構造、労働分配率の考え方、従業員の待遇を上げたり採用を行ったりするための余力をつくるためには、売上・利益率を上げていくことが必要であるのを理解してもらうこと

上記の経緯もあり、同社様の今年度の事業目標、行動目標には、価格改定の具体的な数値目標と活動計画が項目として盛り込まれました。

日本の物価が他国と比較しても停滞しているために、いろいろなひずみが出ているのは昨今よく言われているとおりです。値下げ競争よりも、商品・サービスの付加価値力で競争する、それに伴う正当な価格上昇が必要であるのなら依頼する、という観点は、ますます重要になると考えます。

<まとめ>
価格改定交渉は、根拠を明確にしたうえで、社をあげて取り組む。

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