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「人手不足倒産」を考える

7月11日の日経新聞で、「物価高・人手不足…倒産が急増 中小企業に淘汰の波 上期4000件 コロナ後、問われる実力」というタイトルの記事が掲載されました。飲食店を中心に人手不足が要因で倒産が増えていると紹介しています。

同記事の一部を抜粋してみます。

中小企業に淘汰の波が訪れている。東京商工リサーチが10日発表した2023年上期(1~6月)の倒産件数は前年同期に比べ3割増え、上期としては20年以来、3年ぶりに4000件台となった。新型コロナウイルス禍での手厚い資金繰り支援で延命してきた企業も多い。人手不足や物価高の逆風下でも、事業を継続できる強さが問われる環境に入った。

東京商工リサーチによると1~6月期の倒産件数は4042件。産業別では、資材費高騰が続く建設業が前年同期比36%増の785件、円安による輸入物価高が響く製造業が37%増の459件と多かった。小売業は燃料代が膨らみ、25%増の434件だった。

倒産企業に共通するのが人手不足や物価高だ。経済活動が正常化するなかで人手を確保できなかったり、給与水準が上がって採用できなかったりする例が増えた。中小はエネルギーや資材費高騰の転嫁も不十分だ。

「人手不足倒産」の典型が飲食業で、上期は79%増の424件と過去最多となった。「小規模の飲食店の倒産が増えている」(城南信用金庫=東京・品川=の川本恭治理事長)という。

コロナ禍前の年間倒産件数はおおむね8000件前後だった。21、22年は手厚い資金支援により2000件ほど倒産が抑えられていた。資金繰り支援として政府が導入した、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などが企業を支えた。

支援の期限切れとともに倒産件数が増えている。ゼロゼロ融資の元本返済猶予期間が終わり、返済が本格化する時期は7月から24年4月とされ、今後も高水準の倒産件数が続くとみられる。

中小は自力を磨かなければ生き残れない。最新設備やIT(情報技術)機器の導入で生産性を上げる努力もみられる。

自動車部品の製造装置などをつくるアオキシンテック(栃木県真岡市)は事業の多角化を進めている。自動車製造の技術を応用し、カップ焼きそばなどの食品製造装置に参入した。政府の事業再構築補助金も活用し、生産性を上げるための設備投資も進めている。

政府は追加支援に動いており、ゼロゼロ融資からの借り換えを促す制度を取り入れている。ただ、資金をばらまいてすべての事業者を救済する政策には限界があり、経営効率の引き上げを目的とした中小支援が重要になる。人手不足の解消には働き手を成長分野に動かす施策も必要になる。

上記に関連し、2つの視点から考えてみます。ひとつは、時系列の視点です。4000件という数は、コロナ禍前の2018年上期の倒産件数と同じです。現時点では、以前の水準に戻った状態とみなすこともできます。

そして、記事中にあるように、コロナ禍の発生以降ゼロゼロ融資などによって倒産件数が抑えられてきました。2020年上期も18年・19年並みの4000件程度、21年・22年は3000件程度に収まっています。よって理屈上は、1000件程度の差分が時間軸で後ろにずれてもおかしくないわけですが、それでいて4000件ということは、現時点では特別多いというわけではないのかもしれません。

もちろん、これからさらに件数が増えていくかもしれず、問題ではあるわけですが、「増えた」「減った」というのは、何に対してそうなのかを評価する必要があると思います。

もうひとつは、「人手不足倒産」とはなんだろうかということです。

深刻な人手不足は、計画的な事業運営を難しくします。オペレーションの再調整や、採用活動・再教育などの工数・費用も増え、事業を圧迫します。店舗の場合、本来は営業したい日を休業日にする必要が出てくるなど、大きな影響があるはずです。

そのうえで、「人手不足」ということは、「仕事に対して今対応できる人手が足りない」ということで、人手の数<仕事量、仕事がある状態ということになります。よって、仕事があるのに倒産するというのは、本来理屈上は成り立たないと言えることだと思います。

より本質的には、仕事はあるが人手がなく集めるのが困難であったり、後継する体制がないためであったりで黒字廃業する。あるいは、人手不足で売上減となってしまい機会損失を発生させながらも存続している。「人手不足」=「倒産」ではなく、このどちらかになるのではないかと考えます。

そのうえで、「仕事はある」の「仕事」が「どういう仕事」なのかも大切になってきます。

例えば、仕事は存在しているが、物理的にとても利益が生めそうにない条件での仕事であり、だから人件費を上げることもできないため人手を集められない、ということであれば、条件を変えるか、条件の良い部分だけに絞って他は切り捨てる、ということも必要になります。京都の飲食店で、1日100食だけの提供を宣言してお客さまに喜ばれ、メディアなどにも取り上げられている佰食屋は、その例なのかもしれません。

取りくむことをひたすら減らせばよいというわけではありませんが、採算性のない事業は継続していくことができないのもまた事実です。採算の取れる事業に絞り込む必要があります。

あるいは、社会やお客さまに喜ばれていて、自社として引き続き手がけていくべき事業であるなら、採算の取れる状態に変えることが必要です。その際に、買い手側への価格転嫁などが避けられないとしても、本当に必要とされているものであるなら、受け入れの余地があるはずだと思います。

(簡単でもありませんが)今後の環境下では、どれぐらいの売上が見込めるのか、どこまでの条件なら持続可能なのか、人手を集めるための投資がどこまで可能なのかなど、定量的・数値的な判断が一層求められることになるのではないかと、思った次第です。

<まとめ>
定量的・数値的な判断で、採算の取れる事業に絞り込むか、採算の取れる状態に変えることを行う。

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