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2024年のサプライズ

12月15日の日経新聞で「2024年、世界に10のサプライズを」というタイトルの記事が掲載されました。マネックスグループ グローバル・アンバサダーのイェスパー・コール氏によるもので、定量面、定性面、過去のトレンド、直感の観点から予測をしたとあります。日本と関連の深い事象をドイツ人の視点から冷静に捉えている、示唆に富む内容だと思います。

同記事の一部を抜粋してみます。

(1)まずマクロ環境だ。24年には日米の景気循環が完全にデカップリング(分断)する。米国経済は前年までの利上げが消費と設備投資を冷やすことになり、急減速に直面する。対照的に日本経済は金融引き締めがなかった分、好調を維持するだろう。

(2)そこで活発になるのが日本企業によるM&A(合併・買収)だ。米国の企業や資産は不況で割安になる。考えられるサプライズは、日本の大手金融機関が米国の大手銀行や保険、クレジットカード会社などを買収することだ。

(3)日本ではMBO(経営陣が参加する買収)やLBO(借り入れで資金量を増やした買収)のブームが加速する。株主からの圧力と低位の資金調達コストが追い風となる。24年は新規株式公開(IPO)の件数を非上場化が初めて上回るかもしれない。

(4)日本の最高経営責任者(CEO)たちはついに、成長のための新興企業の買収を本格化させる。社外のイノベーションを社内のビジネスと融合させる時がくるだろう。

(5)そして日本のコーポレートガバナンス(企業統治)は海外に輸出されることになる。従来は企業統治を米国から輸入するだけだったが、日本のCEOが米大企業の役員に任命され始める。米国の企業も「三方良し」の日本式統治から学ぶところは多い。

(6)24年度には日本版の国防高等研究計画局(DARPA)が立ち上がる。日本が軍民両用(デュアルユース)の技術開発に関わるルールと制度を確立できれば、防衛費の増加が経済にも好循環をもたらすだろう。

(7)外国人の家事手伝いの受け入れが進み、共働き家庭の利用が拡大する。労働力不足や少子化といった複合的な問題を家族への外部支援により解決できれば、ポジティブなサプライズとなる。

(8)サプライズの種は隣国にもある。世界最大の食料輸入国である中国が生物学で飛躍を遂げ、食料安全保障を確立することだ。中国は「合成生物学」やハイテク補助食品に多額の投資をしており、革新的な成果を生み出すのは時間の問題だ。世界の食料安保にとって朗報となるだろう。

(9)24年は選挙イヤーでもある。11月の米大統領選に注目が集まるが、4~5月のインド総選挙もネガティブサプライズをもたらしうる。モディ首相が再選を逃せば、日米豪印による「クアッド」だけでなく、グローバルサウスの連携も大きく揺るがす。 

(10)最後は24年6~7月のサッカー欧州選手権だ。ドイツ人の私は当然ドイツチームを応援するが、チーム状態は前回のワールドカップで日本に敗れてから悪化している。それでも24年の私にとって最大のポジティブサプライズは、ドイツの欧州選手権優勝だ。

同記事による10のサプライズを通して、大きく2つのことを感じました。ひとつは、状況を多面的に捉えることの大切さです。

今現在に関しては、日本は先進諸国の中で全体的な傾向と違って景気の先行きに期待が持てる状況です。コロナ禍以降の経済拡張の度合いやそれに伴う金融政策などで、他国に後れをとるかのような動きだとも言われてきましたが、ここにきて、地に足着いた動きだという評価も聞かれるようになりました。

ここ数年の日本を取り巻く経済状況の推移は、後で振り返ってみたときに、比較的うまくいったほうだったと言うこともできるようになるのかもしれません。

日本企業が多様性実現というテーマのもとに、外国人の経営経験者を役員として登用する動きが加速してきましたが、同記事の言うように「日本のCEOが米大企業の役員に任命される」など逆のパターンは、あまり一般的なイメージとしてありませんでした。

しかしながら、これからはそれも一般的になるかもしれないという予測です。米国企業も「三方良し」の日本式統治から学ぶことが多いというのをその理由のひとつに挙げています。企業統治というテーマでは、米国流を日本へという流れで見ることが多いと思いますが、ドイツ人著者によると逆の流れで提供できる価値も日本企業に見てとれるというわけです。このあたりの冷静な物の見方は、参考になる視点だと思います。

もうひとつは、上記にも関連しますが、マクロの視点で事業機会をとらえることの大切さです。

今週は、日本製鉄が米鉄鋼大手のUSスチールを買収するという発表がありました。買収額は2兆円で、日本製鉄としては過去最大級のM&Aということです。同記事のサプライズ(2)などの現実化を彷彿させるような内容です。

(1)などを手がかりにすると、これから当面の間、日本が好景気とは言えないまでもそこそこの景気の状態だとして、厳しい状況に置かれそうな米国をはじめとする日本以外のエリアとの違いは際立ってくるということです。厳しい状況下のエリアにある企業などは、良い買い手がいれば積極的に応じやすくなります。これを事業機会ととらえることができる企業もあるはずです。

マクロに視点を移すと、周りとは違った景色が見えるかもしれない。同記事からはそのように感じました。

なお、外国人の家事手伝いの受け入れという外部リソースによる、家族への支援浸透を10のうち1つに挙げている点も印象的です。このことの浸透はハードルが高そうですが、他国の人から見ると現在の日本の就労環境・家事を含めた生活環境には難しさがあると映っているのではないかと推察します。

<まとめ>
日本と他国の景気循環が、当面の間大きく別の動きをとる可能性がある。

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