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低金利という前提は続くか

依然としてコロナウイルスの感染状況の影響に加え、新たに地政学的なリスク要因も高まり、経済の今後の動きが懸念されています。これまで低金利が当たり前のようになっていましたが、変化の兆しが見られるようになりました。

4月9日の日経新聞で、「原油130ドルなら今年度の経常赤字16兆円試算 42年ぶり転落も」という記事が掲載されました。以下、一部抜粋です。

~~資源価格の高騰で2022年度の経常収支が42年ぶりに赤字に転じる可能性が出てきた。日本経済新聞の試算では、為替が1ドル=120円、原油が1バレル130ドルなら、22年度は16兆円の経常赤字になる。円安が輸出金額を増やして経常赤字を減らす効果が低下し、資源高と円安で国外に資金が流出する影響が大きくなる。

経常収支が赤字になれば年間では1980年以来、年度では統計が遡れる96年度以降で初めてとなる。

日本経済新聞が「NEEDS日本経済モデル」で試算したところ、22年度に円相場が1ドル=116円、原油が1バレル105ドルの「標準シナリオ」では1年間に8.6兆円の経常赤字が見込まれる。~~

経常収支とは、海外との貿易や投資といった経済取引で生じた収支を示す経済指標です。自動車などモノの輸出から輸入を差し引いた貿易収支、旅行や特許使用料などのサービス収支、海外からの利子や配当を示す第1次所得収支、政府開発援助(ODA)などの第2次所得収支からなります。(日経新聞解説参照)

40代以上の人であればおそらく、「日本は加工貿易立国であり、貿易で稼いでいる」という説明を、学校の社会科授業で聞いたのではないかと思います。貿易収支が黒字(プラス)であれば、シンプルに貿易によってその国にお金が集まっているということになります。日本の貿易収支で最も黒字が大きかったのは、1994年の約1,220億USドルでした。為替レートは都度変わりますが、1ドル=110円として約13兆円というところでしょうか。

しかし、それから20年後の2014年には、逆に約1220億USドルの赤字となりました。最近では、年によって黒字と赤字を繰り返している状況です。企業の生産拠点が海外に移転し日本からの輸出が減ったこと、日本での生産活動にも海外から輸入した製品がより多く使われるようになったことなどが大きな要因です。もはや、「貿易で稼ぐ国」は成り立っていないわけです。

ただし、貿易収支以外の第一次所得収支が大きく増えてきたため、経常収支全体では黒字を維持してきたわけです。もしこれが赤字になると、42年ぶりということです。経常収支が赤字となると、トータルで日本から資産が海外に流失するということを意味します。円相場が1ドル=116円、原油が1バレル105ドルの「標準シナリオ」は十分にあり得る想定ですので、42年ぶりの経常収支赤字の可能性が高まっていると言えます。

仮に経常収支が赤字となり、それが常態化するとなると、日本経済にとって激震となる可能性もあります。日本は赤字国債の発行大国ですが、それがあまり問題にならないでこられたのは、日本国内の膨大な金融資産もあってのことです。「日本の借金は日本人からしているから、とりあえず大丈夫」などと言われるゆえんです。しかし、経常収支の赤字常態化は日本の資産の海外流失の常態化を意味します。日本の国債が国内だけではまかなえなくなり、海外に買ってもらわなければならないという状況にもなり得ます。

日本国債への信認が下がると、日本国債(=日本国)を買うリスクが増えるということになりますので、金利が上がります。円の価値が下がって物価高となると、さらに金利を押し上げる効果があります。

同日付の日経新聞の記事では、倒産件数が57年ぶりに低水準になったことが紹介されています。しかし、これはコロナ禍に対応した資金繰り支援策で、返済能力が低い会社の倒産まで抑え込んだことが大きな要因となっています。コロナ禍で売上が減った企業に実質無利子・無担保で融資する「ゼロゼロ融資」の実行額は20年から21年末までで約42兆円にのぼり、金融機関も返済猶予に積極的に応じてきましたが、いつかは返済が本格化します。そして、「新たに融資を受けようと思ってもその時には金利が上がっていた」という結果もあり得ます。

このことは、企業経営の立場に加えて、住宅ローンをはじめとする個人の立場でも影響を与えることが考えられます。

私たちは何十年にわたって低金利に慣れ切ってきました。もしかしたら、ゼロ金利が永遠に続くかのような感覚にすらとりつかれてきました。しかし、今年に入ってからの経済の地殻変動が契機となって、いよいよそれも終わるのかもしれません。今後の経常収支やそのことも一因となっての金利の動きは、注意して見ておく必要があると思います。

<まとめ>
低金利という前提がいつまでも続くとは限らない。


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