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デジタル化とコスト削減

6月14日の日経新聞で、「「モノのパスポート」の衝撃」という記事が掲載されました。パスポートは人の属性や履歴を書き込んで、その人が本人であることを公的に証明するものですが、それがモノにも導入される動きが起きているという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に隠れて目立たなかったが、経済再開を象徴するもう一つの国際イベントは6月2日までドイツで開かれた製造技術の大型見本市「ハノーバーメッセ」だった。

(同見本市にて)「デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)」という言葉を何度か聞いた。「全デジタル製品に割り当てる旅券」という意味で、欧州連合(EU)が27年にも導入し、内外企業に取得を義務づけるという。

企業はすでに情報収集に追われている。パスポート(冊子というよりQRコード的なもの)を持たない製品は域内に入れなくなるからだ。どういう企業、製品に影響するかといえば、中国で組み立てる米アップル製品や韓国製テレビ、台湾製パソコンはもちろん、半導体やソフトウエアを使う白物家電や内燃機関の車もデジタル製品の仲間に入れられる。

なぜ今規制かといえば、脱炭素と循環型経済でEUが先行しようとするためだ。製品がどこで採掘された原料を使い、どこで最終製品にされたか。その間、製品はどう運ばれ、二酸化炭素(CO2)を合計どれだけ出したか、などもパスポート上で電子的に把握できるようにする。欧州の環境基準に達せず、認証機関のお墨付きが得られなければ、域内企業にも海外企業にも販売許可を与えない。監視は販売後も続く。

日本企業も対応が必至だ。現実的に、今からEU式と競っても意味はない。国際標準づくりは日本の重要戦略だが、今回はEU式に日本の求める要素を織り込んでもらう交渉の運び方も一案だ。中国との競争を意識するなら、人権やウェルビーイング(心身の健康や幸福)が一例かもしれない。

より重要なのは意識の転換だ。コロナ禍以降、企業が何を重視したかを調べた東アジア・アセアン経済研究センターによれば、「デジタル化」とした企業は欧州が33%、米国が28%、日本が13%(調査地区はいずれもアジア)だった。一方、「コスト削減」とした割合は日本が70%、米欧が各52%だ。コストの削減は重要だが、重視しすぎるあまり、日本はデジタル技術で新境地を目指す意識が希薄になっていた可能性がある。

デジタル化の流れに日本企業は乗り遅れているのではないか、それが「コロナ禍で何を重視したか」の回答に見られる意識の差にも表れているのではないか、という問いかけです。

他にも同センターの調べ「コロナ禍以降、企業が何を重視したか」の結果について紹介されていて、次の通りでした。左から順に、日本、欧州、米国企業の回答を棒グラフから読み取った概算です。日本企業では、これらの項目を重視しているという回答割合が、コスト削減に比べて低い傾向のようです。

・顧客を変える:35%強、50%強、55%強
・供給網の見直し:20%強、35%強、30%強
・供給網の最適化:約25%、30%強、40%強

思想家の安岡正篤氏は『思考の三原則』を提唱しました。長期的、多面的、根本的に物事を考えるのが大切だということです。

・長期的思考:第一は、目先に捉われないで、出来るだけ長い目で見ること。

・多面的思考:第二は、物事の一面に捉われないで、出来るだけ多面的に、出来れば全面的に見ること。

・根本的思考:第三に、何事によらず枝葉末節に捉われず、根本的に考える。

人だけではなくモノにも出所や履歴を問われるようになる。デジタル化の影響は、生産性の向上や商品・サービスのイノベーションに加えて、そのような影響があるのだというわけです。この流れは長期的にますます加速するのでしょう。デジタル化への対応を重視することは、長期的な視点で会社の課題テーマに向き合うことを意味すると言えます。

マーケティングでは、「誰に、何を、どのように」売るのかを考えることが大切だと言われます。経営学者のドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造である」と指摘しました。つまりは、(最終的には社会全体が顧客になるものの)誰を自社の直接の顧客とするのかは、企業活動の根本であるということになります。コロナ禍でいろいろな前提が変わったこれからの環境で、改めて自社の顧客を変えることも検討するのは、自社の活動を根本から問い直すことにもつながります。

もちろん、コスト削減も重要なテーマです。例えば、まずはコストを減らして体力を高めることを課題テーマとして絞り、その次の段階で別の課題に移る、などの認識のうえで、コスト削減に当面の間集中するのであれば、それも妥当な方針かもしれません。

そのうえで、仮に、コロナ禍でコスト削減以外の課題テーマを多面的に見ることができていない、デジタル化や顧客の再定義などをはじめとした課題を、長期的、根本的に考えられていない、などであれば、問題だと思います。

上記記事の結果がそのことに当てはまっていると短絡的には言えないですが、問題提起にはなっていると感じます。今自社で組織課題とされていることが、長期的、多面的、根本的な視点で考えられたものであるのか、振り返ってみるべきだと思います。

<まとめ>
長期的、多面的、根本的に物事を思考する。


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