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経営者の主観を磨く

先日、ある経営者様とお会いする機会がありました。「自分は、わけあって今の会社の後継者となる前提で入社し、2年前に前経営者からバトンタッチした。正式にバトンを受け取るまで、自分の使命と会社の使命について考え、それらを一致させることに、かなり時間をかけて自分と向き合った」というお話が印象的でした。

経営者は、自らの思いを研ぎすます必要があります。

自分自身の価値観は何か、自身は何に感謝をして、どんなことを通して、何に貢献したいと思うのか、ということです。

そうした思いのことを、ここでは「経営者の主観」と呼ぶことにします。

主観とは、「その人が持つ独自の視点や感情、思考」のことです。自分の主観を磨き、自身が仕事などの活動を通じて成し遂げるべき「使命」にまで昇華させる。

また、会社の歴史や経緯を振り返りながら、そして創業者の思いを振り返りながら、自身の率いる会社は何を目的にやってきて、どのような貢献を世の中にもたらしたのか。その「会社の使命」と、自身の主観に基づく「個人の使命」とを合致させる

創業社長の場合、こうしたプロセスは不要かもしれません。なぜなら、自分で会社をつくったわけですので、意識せずとも自分の主観と自分の使命感、そして会社の使命は合わさっていることが多いからです。

中には、(適当なイメージですが)「タピオカがブームらしいから、一旗揚げて儲けることだけを目的に会社をつくる。自分の価値観とタピオカはまったく関係ない」という創業者もいるかもしれません。しかし、そうした事業は長続きせず、せいぜい数年で終わるでしょう。それなりの年数、社会から認められて存続できるには、経営者自身の主観を土台とした強烈な熱意が必要です。このことは、とりわけ創業者以外の後継者にとっては、特に大切になります。

2代目3代目などの後継者の場合、会社の経営は既にあるものを引き継いでいることになります。そのため、自分の主観だけで何かが決められるわけではありません。既につくられたものの中に自身の主観を投入していくのは、新しいものを1からつくりあげるのとは違った難しさがあります。そのような中で、今まで会社がやってきたことや、創業者の思いを深く理解することがとても重要になります。

このことは、経営者に限りません。企業の中でいえば、営業部や製造部など部門を代表する部門長にも、部門という単位で同じことが当てはまります。スポーツチームや公的な団体などでも、その代表者は自らの主観を磨き、自身の使命、組織の使命と合致させることが必要です。自身が、既に存在している組織を代表者として受け継ぐのであれば、その組織の歩みを深く理解することが必要です。個のメンバーについても同様のことが言えますが、とりわけ影響範囲の広いリーダーにとってより重要な視点だと言えます。

豊かなキャリア形成について考える際、「キャリアの3つの輪」の考え方がよく使われます。Must(会社や周囲の人がその個人に対して求める役割)、Will(個人が仕事を通して求めていること、実現させたいこと)、Can(個人ができること・能力)、この3つのバランスが取れている状態で仕事ができているときに豊かなキャリアが形成されていくという考え方です。

この3つの輪は、個人の単位に加えて、組織の単位でも成立します。組織単位であれば、Must(顧客や社会がその組織に対して求める役割)、Will(組織が事業を通してどのように社会に貢献したいのか)、Can(組織がもっている資源やノウハウ)です。「自身の使命」と「会社の使命」を合致させるとは、経営者個人のWill(個人が仕事を通して求めていること、実現させたいこと)と、会社のWill(組織が事業を通してどのように社会に貢献したいのか)とを合わせるということです。

創業者の場合、経営者個人のWillと会社のWillはピッタリ同一である、という構図が自然と成立します。だからこそ、自ずと仕事に没頭する。

しかしながら、既にある組織を引き継ぐ後継者の場合は、その組織に対する思い入れやプライドも相応にあったとしても、どうしても創業社長ほど強くはなりにくいものです。だからこそ、自身のWillと会社のWillが合っているかどうかを、時間をとって意識的に確認するプロセスが重要なのです。

・創業者は何を思ってこの組織をつくったのか
・創業以来、この組織がこれまで取り組んできたことは、どんなことだったのか
・だからこそ、これから先も何を大切にしていくべきなのか

・一方で、自分の人生はどうありたいのか、仕事を通してどのようなことを成し遂げたいのか
・自分はどんなときに喜びを感じるのか、譲れないことは何か
・それらと、自分が受け継いだ組織の使命は、しっかり重なっているのか

このようなプロセスにしっかり向き合うことが大切になってきます。

経営者個人のWillと会社のWillの合致は、経営で成果をあげて組織を存続させていくうえでの必要条件です。冒頭の経営者様のお話は、このプロセスにしっかりと向き合って、会社の経営を自分事として捉えることができ、自身のWillと会社のWillを重ね合わせることができているということでしょう。

<まとめ>
自身のWillと組織のWillを重ね合わせる。

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