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課題に真正面から取り組む革新力

7月19日の日経新聞で、「シンガポールの革新力に学ぶ」というタイトルの記事が掲載されました。日本を取り巻く国際・国内環境が厳しい中で、シンガポールに打開のヒントを見つけることができるのではないかという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

6月に発表されたスイスのビジネススクールIMDの「2024年世界競争力ランキング」で、シンガポールが4年ぶりに世界首位の座に返り咲いた。他方日本はカザフスタンやクウェートの後じんを拝し、38位へと落ち込んだ。

シンガポールと日本では国の成り立ちや人口規模、統治機構が大きく異なり、比較に意味がないと一蹴する向きもあろう。しかし約60年前にマレーシアから分離独立を余儀なくされ、資源もエネルギーも食料も乏しい淡路島ほどの島国が、今や日本の2.5倍という1人当たり名目GDP(国内総生産)を誇っている。

後退の一途をたどる我が国が、シンガポールから学べることがある。それは社会課題に真正面から取り組み、独自のソリューションを生み出す「革新力」だ。

象徴的な例は水だ。水源を持たず、マレーシアからの原水輸入に依存する構造から脱却するため、雨水や下水、海水といったあらゆる水を活用、下水再生や淡水化などのイノベーション(技術革新)によって飲料水をつくり出した。水がないという国家存亡に関わる課題があったからこそ、自国を水ソリューションの実験場として開放、世界中のノウハウを集積し、水不足で悩む多くの都市にノウハウを提供するまでになった。

もう一つは住みやすい都市づくりだ。赤道直下、高温多湿という気候条件は、グローバル企業・人材の獲得においては圧倒的な弱みである。その弱点を克服すべく、公園や街路樹の充実、ビルの屋上・壁面緑化、グリーンビル認証、水辺づくりなどを迅速に推し進め、緑豊かで住みやすい都市へと変貌させた。今ではシンガポールより東京の夏の方が暑いと感じるほどだ。その知見は「リバビリティー(都市の住みやすさ)フレームワーク」として、途上国へも輸出されている。

このように課題を起点にして、国家・都市の優位性を生み出すメカニズムこそ日本が学ぶべきところだろう。少子高齢化、コミュニティーの衰退、災害の多発といった日本が抱える大きな課題に、最新技術とビジネスモデルをもって挑み、包摂的で強靱(きょうじん)なコミュニティーやまちづくりのソリューションを生み出し、同様の課題を抱える他国へと輸出することが日本にもできるはずだ。

政官民が強烈な危機感を共有し、課題をソリューション、さらにはイノベーションへと変える。これこそ、崖っぷちに立つ日本に求められる挑戦にほかならない。

たいへん示唆的な内容だと感じます。

マレーシアから分離独立を余儀なくされた。水源がない。赤道直下、高温多湿という気候条件。国を成り立たせるための基盤の要素にも不自由する環境下から、技術革新によるソリューションで国をつくりあげてきた、というわけです。

「一言で危機感といっても、当時のシンガポールと今の日本や各国とでは置かれた状況が違いすぎる」と言うこともできるかもしれません。しかしながら、同記事の指摘の通り、緊急度の時間軸が違うかもしれないものの、労働力人口の減少など切羽詰まった課題テーマに囲まれているという点では、共通しているのではないかと思います。

「小国だからやりやすいが大国では簡単にはいかない」と言うこともできるかもしれません。小さい組織より大きい組織のほうが、変えることが難しいのは確かです。そのうえで、例えばデジカメ等の出現でコア事業だった写真フイルム市場が激減するという環境変化の中で、全社一丸となって事業構造転換に成功したことで有名な富士フイルムの例があるように、組織が大きいからできないという理由もありません。

同記事が示唆する「社会課題に真正面から取り組み、独自のソリューションを生み出す「革新力」」について、(そのままでも通用しますが)「社会」を「顧客」に置き換えると、より企業という単位の組織の目線になります。「顧客の課題に真正面から取り組み、独自のソリューションを生み出す「革新力」

危機感をあおればよいというものでもないと思いますが、事実の認識は必要です。未来を確実に予測することなどできませんが、今起こっていることは把握できます。そして、今起こっていることがこの先も簡単には変わりそうにない場合、今後も継続して起こり続けるとどうなるかを想定することもできます。

また、自組織や自分が持っているものと持っていないものを、事実ベースで把握することもできます望ましくない環境(脅威)や逆に望ましい環境(機会)に対して、持っているものを使ってどのように対応するか、持っていないものについてはどのようにカバーや代替するのか、方針をまとめて実践する。企業戦略で行われる環境分析などでも基本とされることですが、改めてシンプルかつ物事の本質であり、その実践例を同記事に見ることができると言えそうです。

このことは、国という単位の組織でも、企業やその他の単位の組織でも、同じことが当てはまります。

シンプルながら実践は簡単ではありません。しかし「明日すぐに困るわけではない」と、重大な脅威だが緊急性が低いことをずっと先延ばしにしているうちに、緊急性が高まってきていよいよ困ってしまった、ということは、身のまわりにいろいろあります。

・何が起こっているかの事実と、「まだ大丈夫」「そうはいっても難しい」といった意見とを分ける

・事実に対し、持っているもの(強み)を使ってどう対応するか、持っていないもの(弱み)はどのようにすればよいか、方針をまとめる。

・方針とその理由を周知して、実行すべきことに対して一丸となって一貫して取り組む。

同事例も参考に、改めて認識したいことだと思います。

<まとめ>
置かれた環境を事実ベースで把握し、どんな資産を使ってどう対応するかを決める。

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