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30の壁

4月で活動12年目を迎えた。「今年は活動◯年目です!!!」と毎年大きく構えていたけれど、今年はぬるっと迎えている。あ、今日で12年目か〜なんて思いながら、愛車のクロスバイクを漕いでサイクリングしていた。人ってここまで変わるもんなのかと自分でも驚いているのだけど、実はずっと辿り着きたかった姿でもある。

私は現在30歳なのだけれど、この年齢を迎える前までの数年間、かっこいい30歳になりたいという漠然とした目標があった。かっこいいにはたくさんの意味がある。だからどういう状態がかっこいいのか自分でもよく分からなかったけど、とりあえずそう強く思っていた。30という数字は誰にとっても一つの節目だろう。20代とは違って、そろそろ地に足つけてしっかりしなくちゃなんて、自分で勝手にプレッシャーを抱えたりする。周りは音楽をやめて結婚したり、子供が産まれたり、マイホームを買ったり、就職したりしていく。私もやっぱり人並みに周りには流されやすく、同世代の人たちが違う道へ進んでいく姿に何も思わなかったこともない。今思えば人それぞれなのだからそんな勝手なプレッシャーを抱えなくてもよかったのに、社会によって作られた理想の虚像に自分もハマらなければと思ってしまっていた節がある。でもただ流されるのだけは違うと、急流の中で必死に踏ん張って留まろうとしていた。実は就職先を探してみたり、求人サイトに登録してみたりしていた時期がある。どうやら人は、周りと違うのを本当に嫌がるらしい。あれだけインディペンデントアーティストと言っていたのに、心がインディペンデントではなくなっていた。そのチグハグ感も嫌だったのだろう。全然かっこよくない。

その張り詰めていたものが一気に弾け飛んでしまったのが、東京の美術館でフィンセント・ファン・ゴッホの「刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)」を見た時だった。絶望的な世界を何とも言えないほど美しく描いていて、自分が今見ている世界の視点は間違っているのかもしれないとさえ思った。

あの時はただ絵を見ただけなのに混乱している自分自身に混乱していたけれど、今なら分かる気がする。ある一つの角度からしか世界を見ることができず、それは違うと分かっていたとしても、その世界しか知らなければその場所から見るしかない。シンガーソングライターは比較的色んな場所へ行き、色んな人と出会う機会が多いけれど、それでもやっぱりその世界だけではとても狭い。進撃の巨人の主人公エレンではないけれど、私は今いる世界の外壁が見えると、そこから出たくなってしまうところがある。どんなに居心地がよくても、外が過酷で大変そうでも留まることができない。だから違う世界へ行ってみたいという気持ちを押し殺して、その場で踏ん張って留まり、さらにしっかりしなくちゃというよく分からない壁の中へ入ろうとしている自分がどうしようもなく嫌だったのだと思う。来世は鳥になりたいと思っているし、常に自由でいたいのかもしれない。

そうして私の30歳の誕生日は、パニック状態という史上最悪な形で迎えた。かっこいい30歳とは真逆の姿だ。だけど今では必要な節目だったと思えている。もしもあの時ゴッホの絵と出会えず、なんとなくモヤモヤとしたまま30歳を迎えていたら、今でも自分が作った壁の中でモヤモヤしていただろう。飛び出した壁の外には海があって(進撃の巨人みたい笑)、山に囲まれた街があって、穏やかな人たちが暮らしていて、その場所で自分もただ生活をしてみる世界が待っていた。毎日ご飯を作ったり、掃除洗濯をしたり、スーパーへ行ったり、なんてことない生活をしているのだけど、今の自分をかなり気に入っている。かっこいいのかは不明だけど、こうならなくちゃ!みたいな理想はもうなくて、ただただ今の自分を受け入れられている。その手助けをしてくれた周りの人たちには本当に感謝している。自分の気持ちに嘘をつかないこと。それがもしかしたら、探していたかっこよさなのかもしれない。だから今はようやく心も身体も自由になった、正真正銘のインディペンデントアーティストになれた気がしている。

理想や目標なんて下手に掲げるものではないと、それらを掲げまくってきた私から強く言いたい。それは無意識の内に大きな壁を作ってしまい、次の世界への扉が開いているにも関わらず覗きもしないで鍵をかけてしまう。それぞれの世界との境界線を曖昧にしておくためにも、理想や目標みたいな壁は取っ払っておいた方がいい。もしも今いる世界の壁が見えたら、私はまた飛び出してしまうのだろう。その先がどんな世界だったとしても。

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