余談「会話のシーン」
登場人物はどこに配置されているのだろうか
脚本を書いていると人物同士の会話という場面が数多く出てきます。
1対1から1対複数、複数対複数など、その場面場面に現れる人物の数は状況に応じて様々です。
この会話の場面において僕たち脚本家は登場人物の名前を書いて「」で台詞を描けば誰が話しているかを示すことができます。
更にト書きで【AがBに向かって】と書けば、人物Aが人物Bにたいして話している場面であることが脚本の文章を見ればわかります。
1対1での会話の場面を映像にするのはそこまで難しくはありません。
(おもしろい画面かどうかは別として)
カット割りにおけるイマジナリーラインの設定も、その乗り越えもしやすいはずです。
(※イマジナリーライン「想定線」については以下、Wikipediaにて)
ただ会話の場面というものは1対1以外の状況が多く存在します。
A、B、Cという3人の人物がいる場面で会話をするとなると、その場面における話題がなんであるのかにもよりますが、三者三様といった会話内容になる場合、場面における人物のウエイトは1:1:1になります。
この場合、トリオ漫才の並びを想定してもらえるとわかりやすいのですが、
左、真ん中、右といった配置で絵が作られることになると思います。
ただし、会話の結果、AがB、Cと対立する想定となれば、どこかで1:1:1のウエイトが1:2に切り替わり、A、B+Cという撮影になると思います。
こうなると1:1のイマジナリーラインと同じような想定で画面設計ができるので会話の際の画面配置なども自然と演出できるようになります。
○ファミレス店内
テーブル席につくA、B、C。
A「なあ、ランチ、なにたのむ?」
B「うち、ハンバーグ定食かな」
C「私、サラダセットがいいな。Aは決まった?」
A「うーん、あたしもBと同じハンバーグ食べたいかも」
B「やっぱうち、サラダセットにする」
A「なんで?」
B「ダイエットはじめたんよ」
A「え、あたし、それ初耳」
上は、A、B、Cが並列だったものがメニュー選びで変わっていくというものです。
脚本で書かれる場合、テーブル席についているA、B、Cといったように席順までは想定されずにト書きが書かれることが多いです。
(なかよし関係、カップルなど条件によって変わりますが)
指定のない場合、台詞の流れで最終的などんな絵を撮りたいかで席順が決まることがあります。
上記の例の場合、出てくるメニューがA、B+Cという絵面になるので、
A:テーブル:B+Cの配置したほうが対面の絵が作りやすくなります。
フードコートの丸テーブルのようなものを使えば、上手下手のない自由配置も作れますので、場面内の人物の配置が変わる絵は面白く作れるかもしれません。
多人数の会話場面
複数の人物が登場する会議シーンなどが出てくる作品などでは、その場面の中心人物が誰なのかが鍵となります。
イマジナリーラインの想定を考えた場合、誰を中心に会話が回っているのかは演出する上でとても大事なことになるので脚本段階でもそれを想定しておくとよいと思います。
以前、場面における視点の話をnoteに書きました。
実はこの視点というものは場面における感情線(ドラマ)が誰のものであるのかを想定するものなので、会話の場面において重要な意味を持っています。
5人ほどに増えたグループを想定した場合、彼らがどんな関係なのかを考えて配置を考えます。
例えば、戦場などで部隊長が兵士たちに作戦を伝える場面などを想定してみてください。部隊長は非情な人間で「死んでこい」的な命令を兵士たちに伝えるとします。
○戦場の塹壕内
爆発音と銃声が飛び交う。
その塹壕内、部隊長と兵士4名(A~D)が武装し身を低くしている。
部隊長「次の斉射がやんだら突撃をかける。お前たちの行動で守れる命が
あることを忘れるな」
兵士A「それは俺達が助からないってことですか」
部隊長「そうは言っていない」
兵士B「……どうせ俺たちぁ、囮の捨て駒なんだろ?」
兵士C「本隊が安全地帯に辿り着くまでのな」
兵士D「短い人生だったな」
部隊長「……簡単に命を諦めるな。躊躇、怠慢、迷い。そうしたものを
捨ててただ愚直に目的に進め。戦場で生き残る術はそれだけだ」
こうした場面の場合、部隊長と兵士たちの会話の内容がぶつかり合っているので比較的、画面の絵が作りやすいです。
部隊長ひとりのカットに対して、兵士Aの台詞で兵士たちはひとかたまりのショットを取って部隊長の台詞もオフ台詞、あとはB、C、Dピンで抜くなどする感じでしょうか。
例えばですが兵士Dが作戦を敵に漏らしていたという物語の流れがあった上で、この最後の場面でそれがわかるといった場合だと同じシチュエーションでも画面の撮影の仕方が変わると思います。
○戦場の塹壕内
爆発音と銃声が飛び交う。
その塹壕内、部隊長と兵士4名(A~D)が武装し身を低くしている。
部隊長「次の斉射がやんだら突撃をかける。お前たちの行動で守れる命が
あることを忘れるな」
兵士A「それは俺達が助からないってことですか」
部隊長「そうは言っていない」
兵士B「……どうせ俺たちぁ、囮の捨て駒なんだろ?」
兵士C「本隊が安全地帯に辿り着くまでのな」
兵士D「……」
兵士C「どうしたんだよ、さっきから黙ってて」
兵士D「ごめん……、みんな俺が悪いんだ」
部隊長、兵士A、B、C「?」
兵士D「……俺が作戦、もらしてたんだ」
部隊長「お前だったのか……」
この場合ですが、明らかに兵士Dが他と違う秘密を抱えていることになりますので、場面の流れの中でウエイトがあるのは兵士Dの会話となります。
おそらくですが部隊長の最初の台詞の最中に話を聞いている兵士Dのカットを抜きで入れる感じになると思います。
アップで抜いてもいいですし、できれば分隊の仲間から少し離れたところにいる感じで、話を聞きつつ、兵士Dをなめて奥に部隊長、兵士A~Cがいる感じとか配置が作られるかもしれません。
脚本をちゃんと読めばこうした展開になるのはわかっているので、兵士Dの配置はそれを想定したものとなると思います。
(この場面だけではなくもう少し前から伏線は張られていると思いますが)
ト書きで書いちゃってもいいのですが、場面における画面の構成などは演出家の領分だと僕は思っているので、とても大事な場面以外はこうした構図が作りやすいように場面における視点を大事に書いていけば大丈夫だと思っています。
並列で書かなくてはならない多人数
最近は女の子がいっぱいいたり、男の子がいっぱいいたりする作品がかなり多く、ドラマにおいてそれぞれの見せ場などを用意しなくてはならない場合があります。
だからといって登場人物全員が好き勝手なことをキャラクターの性格に合わせた好きな言ってしまっては物語はまったく進みません。
(第一話とかで個性を立たせるためにやりがちなやつです。ダメとはいいませんが、物語の流れに乗っていれば尚いいという感じでしょうか)
ではどうやって処理していけばいいのでしょうか?
こうした場合でも、例えば7人グループの男の子たちがいた場合、彼らはひとつの塊でありつつも、それぞれの個性を保った物語の流れに乗せた会話を進めるはずです。それに対して聞き役だったり議事進行としての相手がいたりすることで物語が進んでいくのです。
敵対するグループ同士で総勢10人になったとしても、グループという塊同士で会話をすれば1:1とドラマの構図は変わりません。
イマジナリーラインなども、こうした構図を踏まえて設計されるはずです。
脚本の段階でこうした関係性をきちんと築いておければ、絵コンテにしたり撮影に入る際の立ち位置などが決まりやすくなります。
立ち位置を指定するのではなくその場面のドラマの中心となる発言者と聞き手が誰なのかをしっかり想定しておけば場面の混乱はなくなり、この話、どんな話だったっけということは避けられると思います。
活きた台詞は物語にドラマを作り出します。
ドラマをより効果的に伝えるためにも、人物の配置というものは大きな意味を持っていますので、脚本の段階でそれが伝わるように配置を想定し、混乱するような会話の流れを作らないようにしていきたいものです。
以上、本日の余談でした。
ではまた次回の余談をお楽しみに――!
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