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崖っぷち文系大学院生から、民間企業の研究職になった1年を振り返る。

2019年も、あと数日で終わりですね。以下の入社エントリーを書いたのが、今年の4月。私にとっては大きな環境の変化を迎え、人生観、職業観を見つめ直す1年でした。

文系・理系という区別自体がナンセンスかもしれませんが、人文社会系の領域にいる研究者が民間企業で研究者になるのは多分、まだ珍しいケース。大学院生や若手研究者の置かれた社会的にも金銭的にも不安定な状況の問題、キャリアパスの不透明さの問題、研究資金や研究時間の確保の問題など、色々な困難があるなかで、「実際どうだった?」「会社で何やってるの?」と聞かれることも増えてきました。

2019年の終わりに、ざっくりと激動の1年を振り返ろうと思います。

社会人院生には、すごく快適な環境だった。

私はまだ博論審査を受けておらず、大学院に籍を残しています。今年、所属先では全社員を対象にフルフレックスタイム制度と、好きな場所で働くことができるフルリモートワーク制度が導入さました。これは研究職でなくても、社会人院生したい人、書籍発売で話題になった在野研究というスタイルを考えている人にも最高なはず!また、研究職だと裁量労働制なので、私の場合は「これは会社の仕事…なんだろうか…?」と区別の難しいものも多く、助かりました。

また、副業も(細則はあるけれど)自由なので、私は入社前から決まっていた非常勤講師を務めることができました。1年目ということもあって、準備は大変だったけれど。教育経験を得るというのは自分にとって、大学は何を学べる場にしていくべきなのか、研究コミュニティを維持していくために何を繋いでいくべきなのかといった、アカデミアにいる人たちと問題意識を共有するために大事にしていきたいことでした。

民間企業の研究セクターは(うちがどうこう、というのではなくて)不安定なもの。私のような特殊ケースは、例えば他にどんな企業にいけるのかイメージが湧かないなか、アカデミアに戻る可能性があるなら教歴がほしいと思う気持ちは、正直なところあります。今の仕事に就いてから、ありがたいことに(より専門に近い)非常勤の依頼やゲスト講師のお誘いを頂くようになり、自分の経験をもとに大学という場所とどう関わっていくのか、この先も考え続けていくことになると思っています。

研究テーマ、研究費、むずかしい。

一方で、私の場合は博論(未だ先は長い)の研究テーマではなく、理研AIPの所属で進めていた研究テーマの方が会社との関わりも深く、今年メインで進めることになったのはこちらの方でした。そのため、博論は進まず。

今年の予算は入社前に決まっていましたが、学会や研究会参加は希望すれば賄ってもらえました。そして、所属先は福利厚生として書籍購入制度があり、漫画と小説以外は購入してもらえます。他の社員の人が引いてるんじゃないかな…ってほどに利用させてもらいました。

なので、そんなに研究費のかからない私のような領域では、目下の問題は博論テーマの方での調査費をどうするか。外部で研究費をとるのは難しいので、博論はのんびり進めようと思っています(っていうと、指導教官から何かしらのコメントがつきそう。笑)

細かい時間を上手に使えない問題

ところで、今年自分が最も苦しんだのが「時間の使い方」。おそらく、研究に使える時間はかなりあった。だけど、次のMTGまで1時間みたいな時間を研究時間としてどこまで有効に使えたか、反省がありますね。

今まではゼミとTA業務、月1程度の打ち合わせ以外は特に予定がなく、ほぼ自室でゆるりと研究する生活でした。なんだか、あの頃は無限に時間あるような気になっていた。今までは複数のイベントや執筆予定を抱えるということがあまりなかったですが、ありがたいことに面白い企画へのお誘いも増え、タイムマネージメントが最大の課題に。引き続き、格闘します。

で、結局会社で何やってるの?

以前、SanSanさんのイベントに呼んでいただいたときには、まだ特定のプロジェクトには関わっていない状況でした。今は、プロジェクトのディスカッションで知見を提供したり、調査設計を手伝ったり。

それ以上に今年、最も多く関わり、そして今後の自分の最大ミッションでもあるのが、「ファッション×テクノロジー」という考え方をわかりやすく伝え、広めること。ファッションの歴史のなかで、今起きていることは何で重要なのか。私たちの消費はどんな風に変わろうとしていて、それは私たちの何を変えるのか。俯瞰的に、批判的に語ることも、自分の役割だと思っています。

11月半ばからは、自分もコラムを書いていたFashionTechNewsというメディアの運用担当者を引き継ぎ、今はこれがメイン業務になっています。

研究業績だけではなかなか社内での評価が(特に私みたいなケースだと)難しいだろうなと思うなかで、自分のバックグラウンドやネットワーク、そしてスキルを活かせる場だと思っています。「ファッション×テクノロジー」の領域の可能性を社外に伝えるのはもちろん、社内の人にも未来の可能性を一緒に感じてほしい、そして進んでいく方向性を共に考えてほしい。そんな気持ちで、研究と並行して運用に携わっています。

語る場をもらうこと、つくること、繋いでいくこと。

WWDの特集企画への参加や、発売されたばかりのELLE JAPONへの取材協力など、語る場に呼んでもらえるようになった1年でした。これには少なからず、今の所属であることがプラスに働いていると思っています。頂いた機会を大切に、そして、だからこそ奢らずにペースはゆっくりでも研究と真摯に向き合い続けていきたい。

また、自分も語る場をつくることを、少しずつ始めていきたいと思っています。所属が変わっての最大の変化が、出会いが増えたこと。研究、ビジネスの現場、ファッション、テック、色々な領域の狭間にいる自分ができる、語る場、繋ぐ場の作り方を考え始めるようになりました。

上記のFashionTechNewsでも、色々な領域の、色々な人、そして社内外も繋ぐコンテンツを届けたい。また、社外か社内の仕事なのか最早わからないけどトークイベントを用意をしており、本の企画も進めています。自分が楽しいからやるのだけれど、やるからには自己満足にならないように、やったことで満足してはいけないと思いながら企んでいます。

金銭的な安定は、精神の安寧。

活動の幅を広げたいと思うようになった最大の理由は、生活基盤の安定でしょう。そんなにリッチになったの?って言われるとそうではないですけど、なにせ昨年は額面月額20万円の学振を頼りに暮らし、2年間の身分が終わった後は無収入の恐怖に怯えてたので…。

今年は飼い猫が病気になり、大事な存在を守るため、ほどよく生活を楽しむためには、お金のことをもっと考えなくてはと今まで以上に思うように。研究したいという情熱を、金銭的な苦しさに耐えることで測ることは危ない。そんなことを書いた以下のエッセイには、多くの反響を頂きました。

生活の不安がなくなり、そして任期の不安もないことは、色々と柔軟に活動しようと思える気力に繋がっています。以前は考えもしなかったけれど、今だったらもしアカデミアに良いポストがないのならば、在野の研究者になることを選択するだろうなと思うようになった。

私は何になりたいのだろう。

色々と書きましたが、最終的に何になりたいの?という質問には、答えがありません。大学の先生になりたい?会社のなかで活躍したい?今はどちらでも良くて、そして想像もつかなくて、とりあえず自分が面白いと思えることをやり続けたい。微力でも、社会に何か意味のあるものを届けられるようになりたい。そう思っています。

枠がない、レールがないことの不安はあるけれど、大事だね、応援するよ、自分を利用しろ、一緒に面白いことやろうって言ってくれる人がたくさんいること。そして、実際にチャレンジを後押ししてくれる環境にいること。そのおかげで、自分に自信の持てない自分が、なんだかんだで前に進み続けられているのだと思います。

研究はライフワーク。査読論文が最近書けていない、研究コミュニティに直接貢献できていないと反省もあるけれど、自分のペースで、自分の基盤として、ずっとずっと向き合っていきたいです。

ライフワークバランスという概念と無縁でも、健康第一。

とにかく研究や何かしらの好きな活動をしていたい、そのためのインプット作業をしていたい、ずっとやっていたいけど、やっぱり健康第一。今年は仕事のバリエーションも増えたことでバランス調整に失敗し、稼働しすぎる→ベッドから出ない廃人or追い詰められてピリピリという生活を繰り返しすぎたので、人間性が保てる余裕(と部屋の綺麗さ)だけは確保して、健康に過ごしたい。なんでか入社して15kgも太ったので、そろそろ本気出す。

というわけで、2019年の私はこんな感じでした。仕事はまったく納まっていない、というかハミ出しているので、このまま2020年をするーっと迎える予定ですが、来年も良い年になるといいなあ。本当に、たくさんの人にお世話になりました。関わった人、みんな大好きです。来年も、へっぽこ藤嶋をよろしくお願いします。

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