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エンプラ企業攻略に複雑な戦略はいらない


この記事を書こうと思った背景

かれこれ10年近く法人営業という職種に携わっている中で、多くの企業・ビジネスパーソンが「大手企業の攻略に悩んでいる」「高いスキルや経験が求められており、自分には難しい」と感じている人が多いことを知り、一度自分の頭の中を文字にしてみたら参考になるのでは?と思い久々に筆を取りました。
営業担当者が成功のヒントや手法を学ぶことができるだけでなく、採用担当・経営者の悩みの種となっている”大手攻略”に新たな視点を取り入れる助力になればと期待しています。

結論だけ知りたいよ、という方は「大手企業攻略で考えるべきはこれだけ」の章だけでもご覧ください。

藤本はこんな人間

私についてはポートフォリオに一通り書いているので、ご興味あればぜひご覧くださいませ。

なぜ大手企業攻略は難しいのか

さて、話を戻しますが、法人営業に絞ってお話をすると大手とそれ以外との違いは以下の3点。

①多くのステークホルダーがいることによる多様なニーズ
②複雑な意思決定プロセスによる検討プロセスの長期化
③受け身スタイルによるリーチ・提案プロセスの高い難易度

一つひとつについてnoteが書けてしまうくらい語りたいことはいくらでもあるのですが、他にも法人営業で記事を書かれている方も多いので、”なぜ難しいのか”については概要だけ整理しておきます。

①多くのステークホルダーがいることによる多様なニーズ

当たり前なのですが、大手はその他の企業と比較して、とにかく関わる人が多い。つまりニーズがとにかく多様なのです。
例えばあるサービスの導入検討時に

担当者A:「とにかく安くて、運用が楽なサービスを入れたい」
上司B:「要件を全て満たしているサービスが欲しい」
役員C:「他サービスとの連携ができるのかが一番重要」
IT部門D:「セキュリティ要件を満たし、メンテナンスコストが低いサービスがいい」

みたいなことが当たり前に起きます。
安くて使いやすくて先進的なサービスなら売れないのが現実です。提案フェーズにおいて先方の言うことがコロコロ変わるのもステークホルダーが多いことの弊害だと思います。
導入や運用において必要なステークホルダーのニーズを全て網羅し、提案する必要があるのでそれはも大変だよ、という話です。

②複雑な意思決定プロセスによる検討プロセスの長期化

次に複雑な意思決定プロセスが立ちはだかります。
ステークホルダーの話とも近いのですが、何かを導入するとなった時の意思決定フローが複雑な傾向があります。いわゆる”ハンコリレー”を超えなければなりません。
担当者が稟議を出す場合、上司の課長、その上司の部長、金額か影響範囲によっては役員、IT部門、法務、購買、などの確認が必要です。そのどれか一つでもつまづいてしまうとサービスを入れることはできません。

複雑な意思決定により起きることとしては

・稟議書の作成工数、差し戻しの回数が多くなる
・事前の情報整理や根回しが必要で、担当者本人の社内関係性の影響を受ける
・意思決定までに時間がかかる

などがあります。
つまりとにかく”めんどくさい”プロセスです。顧客はそのサービスを入れたくない(仕事が増えるだけ)と思われてしまっていてはこのプロセスを超えることはできなくなります。大手企業で何かを導入するというのは相応の覚悟とやる気が必要なわけですね。

③受け身スタイルによるリーチ・提案プロセスの高い難易度

”受け身スタイル”というと大手企業の人が受動的でやる気がないみたいな印象を与えるかもしれませんが、言いたいのは”どの企業も大手企業を狙っている”という話です。
大手企業との取引は比較的に、「取引金額が大きくなりやすい」「導入後の解約リスクが低い」「導入後、自社サービスのブランディングや信頼獲得に繋がる」など、企業が喉から手が出るほどに欲しいメリットだらけです。つまり、”どの企業も大手企業と取引したい”のです。

あなたの企業が提案する遥か前からいろんな企業が大手企業に同様の提案をしています。(と考えた方がいい)さまざまな角度からの提案を日々シャワーのように浴びている、いわゆる”買い手市場”が局所的に起きています。
大手企業の担当者からするといろんな提案の中から良いものを”探す”プロセスが当たり前で、自分から積極的に探してサービスを見つけようとなるケースは稀です。

現時点では顧客が欲しいと感じていないものを正しく提案していかないといけない戦い。これが大手企業の常であり、だからこそ提案機会を作ること・納得していただき提供に繋げることの難易度を上げていると思います。

多くの企業が難しく考えすぎている

大前提として、法人営業のプロセスは

・顧客の課題真因を特定し、自社のソリューションを活用した提案を行うこと
・それに必要な予算、スケジュール、人員体制を整理し推進すること

ただこれだけです。

序盤に難しさを書いておいていうのも変な話かもしれませんが、要は「お客さんが困っていることに対して自社のサービスであればどう解決できるのかを説明し、納得の上、予算をいただくことを合意すること」です。
これは大手だろうが中規模だろうがスタートアップだろうが変わりません。

それなのにいろんな企業が、
「優秀かつ経験豊富な営業担当を取らないと大手は攻略できない」
「提案しても一向に上手くいかないので、自社のプロダクト開発をやり直さねばならない」
「さまざまな戦略を書いて、それらを実行していかないといけない」
など考えすぎてしまっている印象があります。

今日は法人営業一筋、今も昔も大手企業の担当をしている私が思う、攻略の方法についてお伝えしていこうと思います。

大手企業攻略で考えるべきはこれだけ

まずは結論から。大手企業の攻略で考えるべきは以下の3つのみだと思っています。

①個人レベル:目の前の顧客モチベーションを最大化する
②チームレベル:合意すべき部署を特定する
③組織レベル:どの順番で合意形成をするか決める

それぞれ説明していきます。

個人レベル:目の前の顧客モチベーションを最大化する

このレベルでは前述の「③受け身スタイルによるリーチ・提案プロセスの高い難易度」を越え、「①多くのステークホルダーがいることによる多様なニーズ」「②複雑な意思決定プロセスによる検討プロセスの長期化」を攻略するための情報収集ができる体制を作ること、を目的とします。

前述した通り、大手企業において何かを導入するという意思決定はとにかく”めんどくさい”。つまり顧客の担当者のモチベーションが非常に重要です。「自分の仕事を増やしてでも、このサービスなら入れたい」「このサービスを入れることが自社にとってメリットがあるな」と担当者が心から思えている状態を作れるかどうかがキーになります。

じゃあどうするの?という話なのですが、このフェーズでは個人レベルの思考にフォーカスします。つまり、「目の前の人が動きたくなるような動機醸成をどうやるのか」のみを考えます。

企業に属する人が熱意を持ってある仕事を(忙しいにも関わらず)やる時ってどんな時だろう?をひたすら考えます。
私がよく考えるのは、

  • この人が昇進するためにはどんな成果を出すことが必要なのか

  • この人が評価されたい人は誰だろう。それはどうすれば実現できるのだろう

  • この人がこの会社でやりたいこと、やってみたいことは何か

  • どんなことをやっている時に楽しいと感じる人なのだろう

などです。こうしてとにかく目の前の方に「この会社と一緒に仕事したい」「このサービス・営業担当なら自分のメリットになるし楽しそう」と思ってもらえるよう対話を重ねることが重要です。

よく、「キーマンに会う」「意思決定者を特定して商談する」などが営業のTipsとして流布されていますが、担当者からしたらたまったものでないです。そんなことばかりしていると、目の前の人がモチベーション下がって推進者がいなくなる上に、入り口が閉ざされ今後のアプローチも難しくなるかもしれません。

まずは目の前の方に全力でコミットすること。そうして獲得した信頼は本物ですし、その信頼さえあればキーマンでも意思決定者でもBANTCHでもなんでも確認できますし、必要な時にいつでも会うこともできるようになります。
細かなテクニックやショートカットの前に目の前の信頼を。これが鉄則です。


チームレベル:合意すべき部署を特定する

このレベルでは前述の「①多くのステークホルダーがいることによる多様なニーズ」「②複雑な意思決定プロセスによる検討プロセスの長期化」を越えるプロセスにおけるターゲットを明確にし、提案の筋を決めること、を目的とします。

目の前の担当者の信頼を獲得したら売れる、だとすごくシンプルなのですが、そうはいきません。次にサービス導入を決める”部署”を決めていきます。

ここで”部署”という表現をしているのは、意思決定は人がするのではなく、部署がするものと捉えているからです。「○○部長が意思決定者です」と言われていても実際部長は部署の状況や戦略を考慮して意思決定します。つまり”意思決定者がいる部署全体にとってメリットがあるとなれば導入してもらえる部署はどこか”を特定し、その部署に合わせた提案をしていく必要があります。

「その部署がわからない」「組織図がわからず部署情報が得られず攻略できない」みたいな声が聞こえてきそうですが、ここもシンプルに考えることができます。

部署は大別すると3つしかありません。(あえて雑に整理します)

ビジネス部署:売上や販売促進に関連する部署
開発部署:プロダクトやシステム開発に関連する部署
コーポレート:人事や企業戦略など間接部門と呼ばれる部署

企業攻略を考える上ではこの粒度で十分です。例えば「法人営業部東京エリア第一部」「営業企画部営業推進グループ」は最終的に同じ目的(売り上げを上げること)を持っています。(部署名は適当に考えています)
「意思決定は部署がする→最終の目的が同じ=サービス導入による価値提供先は同じ→戦略の上では同じとみなして問題ない」という論理です。

事業部とミッションの例

もちろん企業攻略の中で解像度が上がってきたら情報として把握する必要はありますが、部署の特定ができないから攻略できないという思考は持たなくてもいいかなと思っています。

以上の話をまとめると、「ビジネス・開発・コーポレートどの部署に対して提案をするのかを決め、その部署全体にとってメリットのある提案は何なのか」を考えるのがこのレベルでやるべきことです。

組織レベル:どの順番で合意形成をするか決める

次に合意形成の順番を決めます。”部署の合意をとる”と言葉にするとシンプルなのですが、その合意形成がとにかく難しいですよね。そこで提案が止まる時によく言われる言葉を思い出します。

「自部署で使うとしても、他の部署の了承がないと決められない」
「経営層や戦略の方針を考慮してから意思決定したいから待ってね(そのまま音信不通に)」
「結局使うのが現場だから、本当にこれが課題なのか調査してから意思決定しようと思う」
「導入したいけど、購買や法務の確認が手間だしちょっとタイミング悪いんだよね」

「いやいや、いいと思ってるなら入れてよ!!」が営業担当の本音かもしれませんが、複雑な組織体制の中で意思決定の難易度が高いからこそ、自分の一存で決め切ることへの防衛線が何重にもはられてしまっているのが大手企業の特徴です。(良い悪いではなく、そういうものなのです)

ここでのポイントは「意思決定の際に出てくる懸念を徹底的にゼロに近づけること」です。
前述の事業部が横の区分けだとすると、この時に大事になるのが縦の区分けです。いわゆる”役職”です

私は組織を4つのレイヤーで分けて考えます。

導入サービスの予算や組織規模によってばらつきますが、外部サービスを導入する上での顧客の役割はだいたいこんな形です。上記を頭に入れながら、改めて自社視点で”各レイヤーに何をお願いするのか”を整理していきます。

会社ごとにレイヤーと役割を整理する

縦と横の区分けを整理し、どの順番で、何を目的にアプローチするのかを整理します。

どんな企業も組織を12個に分けることができる

まだイメージ湧きづらい方もいらっしゃると思うので、具体例を置いておきます。
あるサービスを提案する際に、
・最終意思決定は事業推進部の役員
・情報を詳しく教えてくれる人は同じ部署の部長
・現場の情報が必要で、営業部・マーケティング部・商品開発部との合意が必要そう
・その上で事業推進部の役員に許諾をもらいたい

というケースを想像した場合のアプローチプランです。

12個に分けた組織をどのような順番であたっていくのか矢印を引くイメージで考えていきます。

まずは赤の矢印に沿って許諾をとり青に沿って提案を作り合意をとっていく

あとはやるだけ

アプローチ先と順番、提案の筋が決まればあとは進めていくだけです。
今日お話しした個人レベル→部署レベル→組織レベルの思考方法は最初に当たる人が誰であってもいい、というのが圧倒的なメリットです。目の前の信頼を獲得し、社内情勢を把握し同意する部署を決め、合意形成の順番を考える。これが大手攻略で営業がやるべきアクションだと思っています。

前職・現職でも大手企業の新規開拓を幾度となく経験してきましたが、やることはシンプル。複雑に考えて身動きが取れない状況が続くくらいなら、まずはこの思考を試してみてはいかがでしょうか。

法人営業、その中でも大手企業の営業は関わる人も多く、課題も多く、一朝一夕では成果も出ません。だからこそ営業の真髄たる要素が詰め込まれているとも感じます。
一人でも多くの人が「法人営業って楽しい!」「大手企業に対してアプローチして成果が出せた!」となることを願っています。

よければお話ししませんか

色々と偉そうに書きましたが私もまだまだ修業中の身です。私が持つ知見はいくらでもお渡しさせていただくので、私の学びのために自社の営業組織についてお話し聞かせていただきたいです。

ポートフォリオを再度置いておきますので、ご関心がある方ご連絡いつでもお待ちしております!


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