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このラノ2021を語る(後半)

まえがき

クリスマスは実家に帰省して過ごしました、富士獣です。

本記事は『このラノ2021』記事の後半です。
前記事では、自分が投票した作品や投票候補にしていた作品を語りました。
本記事では、『このラノ2021』とそれに対する各所の反応を見た上で思ったことを書きます。

とはいえ文庫部門がラブコメ旋風だとか順当だったとかはもう語るまでもないので、もうちょっと突っ込んだ話をします。

①文庫新作部門
②流行ヒロイン
③アンソロジー
④紙ラノベ以外
あたりを。

新作部門は順位がやや意外

新作部門トップ10、作品はまぁTwitterで話題になっていた10作品ですが、順位が面白いです。

『異修羅』があるので新作トップ10に入る文庫枠は9作品。
『楽園ノイズ』『いもキス』『プロペラオペラ』は実力派ベテラン作家の本気の作品なので言うまでもないとして、『スパイ教室』『たんもし』『おさいも』『声優ラジオ』『さよいせ』が頭抜けて話題になってましたね。
残り1枠は『ラブだめ』になりました。

『スパイ教室』『たんもし』『おさいも』『声優ラジオ』『さよいせ』の予想順位と実際の順位は下記の通りです。

予想
協力者票:おさいも>たんもし>スパイ>さよいせ>声優
Web票   :たんもし>スパイ>おさいも>声優>さよいせ
総合  :たんもし、おさいも、スパイ(10位圏)>さよいせ、声優
実際
協力者票:スパイ>>たんもし>おさいも>声優>さよいせ
Web票    :たんもし>>スパイ>声優>さよいせ>おさいも

『スパイ教室』協力者票が予想よりかなり多かったです。
スパイ教室は文庫部門トップ10協力者pt票率でも3位でした。
一方で『たんもし』は予想以上にWeb票が多かったですね。

※協力者pt票率
『プロペラオペラ』『楽園ノイズ』(90%超)>『いもキス』『スパイ教室』(80%超)>『チラムネ』(70%超)>『連れカノ』(60%超)>『たんもし』(50%超)>>『弱友』『天使様』(20%超)>『よう実』
で『スパイ教室』は3位です。ちなみに体感は
『楽園ノイズ』『プロペラオペラ』>『いもキス』『チラムネ』>『連れカノ』『たんもし』『スパイ教室』>『弱友』『天使様』>『よう実』
7位でした。

『スパイ教室』と『たんもし』の差
この2作品は少しジャンルは異なりますが、刊行時期も巻数も近いアクション系のラノベで、どちらもTwitterで話題になり、Web票も協力者票も入り得る作品で、どちらが上位に来るかという予想が難しかったです。

実際、文庫のそれぞれ2位と4位で、総合pt的には僅差で『スパイ教室』が制した形となりました。
しかし予想と異なり、『スパイ教室』協力者票を大きく伸ばした一方で『たんもし』Web票を大きく伸ばしていました。
『スパイ教室』と『たんもし』両方読んだ上でどちらを推すかという比率は半々くらいになると個人的には思いますが、協力者は2:1、Web票は1:3くらい差が開いています。

おそらく両方とも最新刊まで読んでいるであろうアクションラノベ好き協力者層のptがここまで『スパイ教室』に傾いているのは意外でした。
10年前のラノベ議論ならプロット重視かキャラクター重視かで喧々諤々になりそうですが、単純に『たんもし』の方が他上位作品と相対的にジャンルが近い分競合したってとこですかね。

また、Web票でこれだけ『たんもし』優位になるのも意外でした。累計部数は『たんもし』の方が伸びているようですがせいぜい1.5倍程度で、それだけでは説明がつきません。
1つの要素として、SNSを通じた布教のしやすさがあるかもしれません。タイトル、表紙、あらすじ、ネタバレの致命度的に、『たんもし』の方が面白さの説明がしやすいです。
また、イラストやツイ漫画など公式アカウントからの供給が素晴らしく、ファンならこれは嬉しいです。
『スパイ教室』もプロモーションに力が入っている作品ですが、SNSの使い方では『たんもし』に軍配が上がるでしょう。

『おさいも』『声優ラジオ』『さよいせ』
「協力者層からラノベ垢あたりにはもうド定番だけど、ライト層には布教しきれていない面白いラノベ」枠ですね。キャズム的な。
特に『おさいも』は投票に強そうなので総合トップ10まであると思っていましたが、結果はいずれも新作トップ10総合トップ20でした。熱狂的なファンが多くTwitterでもよく布教している光景が見られましたが、新作トップ10では(プロペラオペラの次に)Web票が少なく、まだまだ知名度が上がる余地を残しています。3巻までのプロットが面白く、このまま走り続けられれば来年以降も伸びるんじゃないでしょうか。
一方で『さよいせ』のような心地良い面白さの作品は、平均評価は高いもののこういう投票では選ばれにくいイメージがありますが、その中できっちり新作トップ10入ってきましたね。現代人、こういう作品を求めている。あと前記事でも言ったけど表紙が最高です。
『声優ラジオ』は今後、日常ふんわり百合ラノベやるかシリアス熱血お仕事ラノベやるかで投票層変わりそうですが、3巻まで見ると毎巻シリアスも書きたい感じなんですかね。今後も毎巻一緒にお風呂入っていてほしい。

『ラブだめ』
新作トップ10のうち『異修羅』と上記8作品は本命で、残り1作品は『日和ちゃん』『豚レバ』『オーバーライト』など激戦でした。『ラブだめ』もTwitterで話題になっていて有力候補ではあったもののの、パロディ豊富なガガガラブコメファン向け作品で、投票時点では1巻しか発売されていなかったので厳しいかなと思うところもありました。
そんな中で協力者票とWeb票をバランス良く確保して新作トップ10入りは強い。おめでとうございます。
最近のラブコメと少し前のラブコメを強くリスペクトしながら上手く調和させていて、今後のポテンシャルの高さを感じます。ヒロインの7番さん可愛い

頑張れ「グイグイくる後輩」

「近年のラノベヒロインは多様化している」と言われるようになり数年が経ちました。果たして2020年はどうだったでしょうか?
僕はむしろ、またヒロイン属性が偏ってきたかなと感じています。「クーデレヒロイン・両片想い・至近距離」ラブコメを文庫とカクヨムでどれほど読んだだろうか……。

まぁ、著者が書きたいもの書いて、僕は読みたいものを読むという関係なので、全然いいんですけど。ていうか好きですしねクーデレ。既存の人気作品が有利なキャラクター部門において、真昼の2位は素晴らしい快挙だと思います。

さて、他にラノベで流行っているヒロインの1つに、「グイグイくる後輩」があります。
小悪魔系、ウザかわ系、わんこ系や、ドSからドMまで様々ですが、ここ数年「グイグイくる後輩」が流行ってます。流行ってるっていうか、みんなずっと好きですよね。キミも好きでしょ?
ラノベだと『俺ガイル』のいろはすとか、今年アニメ化した『宇崎ちゃん』とか、好きでしょ?音声作品でもド定番です。

ラノベの後輩メインヒロインというと、長らく『変猫』や『ストブラ』みたいなクールに罵倒してくる後輩が主流でした(それはそれでいいよね。キミも好きでしょ?)
しかし最近ではグイグイくる後輩が強く、ぱっと思いつくだけでもこれくらいあります。

『友達の妹が俺にだけウザい』(GA、19/4)
『わたしの知らない、先輩の100コのこと』(MF、19/8)
 (※連載開始は2017年9月)
『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』
(スニーカー、19/12)(※連載開始は2017年12月)
『今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。』(MF、20/1)
『そうだな、確かにカワイイな』(MF、20/2)
『カノジョの妹とキスをした。』(GA、20/4)(※同級生敬語義妹)
『凄くモテる後輩が絡んでくるが俺は絶対絆されない』
(GA、20/4)(※連載開始は2019年7月)
『朝比奈さんクエスト』(ファミ通、20/4)
『妹(あたし)のほうがお姉ちゃんより可愛いですよ、先輩?』
(ファンタジア、20/7)
『妹の好きなVtuberが実は俺だなんて言えない』(電撃、20/11)
『同い年の先輩が好きな俺は、同じクラスの後輩に懐かれています』
(MF、20/11)

グイグイくる後輩はみんな好きなのでWeb小説では18年以前から色々ありますが、ラノベのメインヒロインとしては19年以降にグッと増えた印象です。

しかし、まだ人気投票上位にはグイグイくる後輩が来ていません。今年のトップ10やアニメ化決定作品にも後輩キャラはほとんどおらず、2021も苦戦するかもしれません。
時代はグイグイくる後輩なので、せめて作中では勝ってほしいですね……。特に『おさいも』の灯火ちゃんとか……。

キミはもう『失恋文庫』を読んだか?

『このラノ2021』p174-p175で、ラノベアンソロジーの考察がありました。
「短編集であるアンソロジーと、長編メインのラノベは相性が悪いが、今年はラノベ界でもアンソロジーが熱い」という趣旨です。
そこで挙げられた4作品は俺ガイル、オーフェン、ワタモテ、小説の神様のアンソロジー。つまり二次創作アンソロジーです。
確かに、今年は(ラノベに限らず)アンソロジー豊作の年であり、ラノベ界でも二次創作アンソロジーが見られました。
しかしそれだけではありません。僕は声を大にして言いたい。ラノベ作家による一次創作アンソロジーの夜明けも近いと。

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こちらは『失恋文庫 描き下ろし小説アンソロジー』(Amazonリンク)
商業ラノベ作家7人による2019年夏コミ作品です。
来年1月から『弱友』がアニメ化する屋久ユウキ先生、4月から『ひげを剃る』がアニメ化するしめさば先生、先月『精霊幻想記』のアニメ化が発表された北山結莉先生、このラノ2021新作7位『おさいも』の涼暮皐先生など、ブレイク真っ最中の気鋭の作家陣です。

しかしこのアンソロジーのセールスポイントは作家陣のネームバリューではありません。純粋に内容がめちゃめちゃ最高です。

例えば1作目、雨宮和希先生の『灰色青春は傷つかない』

高校時代の元カノ後輩マネージャーに未練がある大学生主人公が、飲み会のあとでバスケサークルの先輩と身体を重ねるところから始まる作品であり、空気感が素晴らしいです。
元カノに未練があると書きましたが正確には、青春を注ぎ込んだ部活動とか、がむしゃらに熱中できていたかっての自分とか、そういうかっての高校生活全体と今の自分とのギャップに折り合いが付けられていない現状が繊細に描かれています。
そんな中で母校の試合を観に行き、応援する元カノと、かっての自分のような後輩プレイヤーに遭遇して……。

これを1巻まるまる商業ラノベにしても(僕は絶対買って絶賛しますけど)おそらく一般ウケはしないし、そもそも企画が通らないかもしれません。同人アンソロジーだからこそ生まれた傑作だと思います。
ちなみに2作目の『ずっと一緒な君と僕』もヤバいです。これはもう精神的なリストカットですね……。

「失恋をテーマにした短編集」というラノベとしては出にくいテーマで、爽やかな作品から本気で心を抉る作品まで集まっており、同人アンソロジーならではの1冊になっています。

こちらは同企画ユニットによるアンソロジー第二弾。今やってるエアコミケで発売されています。楽しみ。


また、Web小説からの書籍化が増え、プロアマの垣根が低くなる中で、書籍化作家も参加しているようなアンソロジー・合同本を即売会で目にすることも増えるようになりました。

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例えばこちら『究極の先輩VS至高の後輩合同』は今年の文フリ東京秋で頒布されていた合同本です。
究極の先輩をテーマにした掌編と、至高の後輩をテーマにした掌編が交互に3本ずつ載った6人の著者による本です。
うち1人がMF文庫の『わたしの知らない、先輩の100コのこと』の兎谷あおい先生ということでこの作品を知り、購入しました。どの作品も良かったです。
このように、1人の著者をキッカケに他の著者を知れるのもアンソロジーや合同本の良いところですね。
(※通販は既に売り切れていますが第2版刷るそうです)

紙ラノベ以外の展望とか


・ボイスドラマとしてのオーディオブック
オーディオブックというと、1人のナレーターの方が1冊丸々朗読してくれるものというイメージがあるのではないでしょうか。実際ほとんどの作品はそうです。
しかし、一部のラノベは違います。各キャラクターに別々の声優が付いているのです。こうなると、朗読というよりはむしろボイスドラマです。
各レーベルがオーディオブックに手を出していますが、フルCVのオーディオブックラノベは、現在はガガガ文庫が大幅にリードしています。しかし今後は他のレーベルもフルCVに着手するでしょう。
本の朗読を聴くオーディオブックの国内市場規模は、現在50億円でこれから5年間で5倍になると言われています。
声優とラノベは相性が良く、オーディオブックはアニメより低予算で作成できるので、これからはアニメ化の前にフルCVオーディオブック化というメディアミックス展開も広がるかもしれません。注目です。
参考:ガガガ文庫のオーディオブックリスト

ちなみに現在オーディオブックのサブスクは老舗のAudiobookとAmazonが運営するAudibleの二択だと思います(僕はAudibleを使っています)

・『俺だけレベルアップな件』面白いよね
ピッコマで連載されているウェブトゥーン(フルカラー縦スクロールマンガ)の『俺だけレベルアップな件』大人気ですね。テレビのCMにまで出てきてビックリしました。
ハンターの実力が大体才能で決まる世界で、最弱ランクの主人公が、ゲーム的なシステムに組み込まれ、経験値によって成長できるようになって成り上がっていくというプロットです。戦闘シーンがかっこいい。
さて、この作品の原作は韓国Web小説です。なろうやカクヨムと違い、いわゆる「待てば無料モデル」です(アプリ内コインで一定程度無料で(and/or 広告閲覧後に)読めるが、一気に読みたい場合や最新まで読みたい場合は購入が必要なビジネスモデル)。
女性向け異世界モノでも日本でも人気の韓国Web小説がいくつかあるみたいですね。
今後もいろいろ面白い作品が出てきて翻訳されると思うので楽しみです。

「待てば無料モデル」のWeb小説への導入は日本では難しい感じがしますがどうなんですかね。
そのへんは業界と経営に詳しい人がいずれLINEノベルの総括をしてくれると思って待っています。

・ラノベ読み放題サービス、いい感じらしい
BOOK☆WALKER読み放題が始まって1年が経ちました。
僕は、まだ入っていません。紙の新刊の積読が減りませんし、年間100冊程度のラノべは経済的に購入可能な年齢になってしまったので。
しかし僕が今中高生だったら迷わず入っていたと思います。(年齢的に知らない少し前の)1万冊以上のラノベが読めて月額760円はとてもコスパがいいですね。
kindle unlimitedとの差別化を心配する声もありましたが、カドカワがユーザー確保のために頑張ってBOOK☆WALKERで読めるタイトルを増やしまくっていて嬉しい限りですね。
なにか一気読みしたい作品ができたら、試しに加入してみようと思います。

BOOK☆WALKERは、kindle教徒の僕も今年ついに(チラムネ3巻の悠月)特典SSが欲しくて入れましたし、最近できたdiscordのラノベ布教鯖でもギフト授受に使われていて、ラノベ読みの電子書籍リーダーとしてはデフォルトになっていくんだろうなーと思います。

あとがき

このラノ2021関連の話は終わりです。
今年は自分と世間と出版社の好みがかなり一致していて、自分好みのラノベがどんどん出てそれを周りも高く評価しているという心地良い1年間でした。
この流れはまだ続きそうですし、推しラノベの続刊も多数期待できるので、来年も楽しい1年になりそうです。
皆さんのラノベライフ2021にも幸がありますように。
それでは良いお年を!

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