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【書評】『日本を最速で変える方法』(高島宗一郎、2021年)を読んで。

▮ 読後感

 著者の高島宗一郎氏は、現職の福岡市長で、岸田内閣のデジタル臨調でも委員となっている方。自治体関係者の中では、福岡市の近年の盛況は有名で、スタートアップ企業や大手企業の出先機関が福岡市に進出していることで知られます。立地的なメリット(東京・関西・福岡という大都市圏の中心にあり、アジアに最も近いことや、空港から地下鉄で5分!)ももちろんあると思いますが、やはり、高島氏が市長になってからの福岡市の躍進は、高島氏のビジョンや行動力によるところがあるようにも思います。

 最近は官民共創やこれからの公共の在り方について、読書を進めており、首長はどのように考えているのかを知りたく手に取ったのが本書です。官民共創に前向きな首長とは実際に話させて頂くことも多いのですが、その最先端ともいえる福岡市の市長がどのような考えを持っておられるのか、知りたく思いました。

 本書は事例や市長の見解を中心に構成されています。私としてはもう少し深い洞察についても書いて欲しかったと思いますが、一般向けには事例紹介中心の方が分かりやすいのかもしれません。もし実際にお会いしてインタビューできる機会があればいろいろと聞いてみたいと思います。

 本書にも記載がありますが、ふとした気づきが、大きなイノベーションを生み出すのだと思います。そう思うと、自治体の首長の感性というのは非常に重要なのかもしれません。(空港が近いためビルの高さ規制が課題であったが、ふと外を眺めているとひとつだけ突出して高いビルがあった、なぜだろう?という素朴な気づき)

 そういう意味では、「気づき」や発見、ひらめきって自治体側のスコープだけではなかなか気づかないことも多く、民間企業や市民の側からのスコープと組み合わせることで、「気づき」や発見、ひらめきを生み出すこともできると思います。官民共創の意義は、社会を良くしていくための仕掛けにあるのだろうなと考えています。

▮ 注目した個所(抜粋)

●こうした考えにとらわれている限り、その思いは政治家や行政に届きませんし、彼らの行動も、社会の変革にはつながらないでしょう。思いを実現するには、政治や行政の世界は、ビジネスの世界とは異なるルール、力学に基づいて、物事が決まっていることを理解する必要があるのです。
(p52)

●同じ自治体内であっても、ある部署が特定の目的で集めた個人情報を、ほかの部署が使うことは原則できません。個人情報保護の名のもと、同じ組織であっても、データの共有ができないのです。
しかし、個人情報保護の考え方が改められ、マイナンバー制度による個人情報の一元管理やデータ連携が進めば、年金や失業保険などの社会保障の手続きが非常に楽になります。
(p100-101)

●私は、これからのスマートシティにおいては、「セキュリティー」「モビリティー」「エネルギー」の3つが、大きな柱になると思っています。
(p123)

●既得権サイドが盤石な守りを見せる中、スタートアップなど、「新しいサービスや品を社会に実装したい」人たちは、どうすればよいのでしょうか?
その答えとなるのが、「社会課題の解決」といった、誰もが納得する「大義」を打ち出すことだと、私は思います。
(p163)

●スタートアップを志す人、新たなサービスや製品を広めたいと思っている人は、政治を、社会において物事が決まる力学を知る必要があります。政治と一緒になることで、初めて、生み出したサービスやテクノロジーが社会に実装され、社会の変革へとつながる道が開けるのです。
(p177)

▮ 目次

はじめに
第一章   なぜ日本は変化に弱いのか―?コロナが浮き彫りにした日本のボトルネック―
第二章   データ連携、DXが日本の全国民を救う―日本復活の糸口―
第三章   感染症×少子高齢時代の福岡式街づくり―国際競争力を持つ尖りの一手―
第四章   テクノロジーを社会に実装するための力学を知ろう―スタートアップ支援から見えたノウハウ―
第五章   未来を創れる国に―目を背けていた問題に立ち向かう―
おわりに

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◇プロフィール 藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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