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吉備友理恵・近藤哲朗『パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた』(2022年)を読んで。

「パーパス」という言葉を最近本当によく耳にする。パーパス、つまり存在意義は、もちろん重要である。

では、パーパスはどのように使うべきなのか。どのような使い方があるのだろうか。それを具体的に記す書物はまだあまり世に出ていないように思われる。

本書は、どのように共創関係を「パーパス」を用いて作っていくのかを記した一冊である。

図解総研の近藤哲朗さんが共著者に入っているため、図解が豊富で、わかりやすい。本書では、「パーパスモデル」という一つの「パーパス」の使い方を紹介している。事例を使って第2章に説明があるが、私は結構わかりやすいケースが多く取り上げられていて良かったと感じている。また、著者の吉備さんは1993年生まれということで現在20代のはずだが、この年齢でここまでパーパスの活用方法について概念化できているのは素晴らしいと思った。(アウトプットに年齢はあまり関係ないのかも知れないが私が同年代の頃と比べてそう感じた) 今後にも期待できる逸材ではないか。

共創では、多くのステークホルダーとともに、プロジェクトを推進していくことになるが、そうしたときに、「共通目的」をどのように設定するべきか、そしてそれぞれの主体者の目的を見える化しておくことも重要である。

官民共創の文脈で考えると、行政と民間では目的が異なることが多いが、なんとなく繋がって実証プロジェクトを進めることも多い。しかし実証プロジェクトが完了したらそれで関係が終わってしまうこともままある。非常にもったいないのである。実証プロジェクトをやって終わりにしないためにも、あらかじめ本書にあるように、共創のメカニズムを捉え、うまくデザインしていくことが重要となるのではないだろうか。

本書は、官民共創にかかわらず、これから、誰かと一緒に、何かを解決したいと動き始める人、すでに動いている人にとって、基礎となる一冊であると思う。

◇気になった箇所(付箋を貼ったところ)

パーパスモデルに「共通目的」だけでなく、「それぞれの目的」があるのは、まさにこの「本音の部分」、つまり、自分や自組織のためになることが何なのか、をステークホルダー間で共有する必要があるからだ。各ステークホルダーの目的を捉えられていないと、どこかでちゃぶ台返しや燃料切れが起きてプロジェクトを続けることができなくなる。お互いの目的を理解していることは、ステークホルダーが多い共創プロジェクトを持続させる上でとても重要である。

(p29-30)
(p30)
(p38  共創の8つのタイプ)
(p44-45 共創プロジェクトの事例紹介の一つ)
(p60-61)

目的工学では、目的を次のように階層化している。「小目的」は個人や個々の組織の利己的な動機、「大目的」は社会的な意義や大義、そして、それらをつなぐレンズのようなものが「中目的」であり、これが事業・プロジェクトを動かす。本書で共通目的と表現しているのは、この考え方の「中目的」に当たる。
「持続可能な社会」「ウェルビーイング」「SDGs」などの大目的をプロジェクトの目的にすると、抽象度が高いために誰も自分ごとにならず、アクションにつながりにくい。「公園はみんなのもの」と言われると、「そうだね」と思いつつ「誰のものでもない」と感じるのと同じ感覚に近い。
一方、具体的であっても、「私が私のためにこれをしたい」という主語がひとりよがりな目的だと、他者は自分とのつながりや意味を感じられず協力する気になれない。

(p124)

共通目的が独りよがりにならないためにはどうすればよいだろうか。
1つの考え方として、「課題の当事者=人」を想像することが挙げられる。今あなたは誰を起点に事業やプロジェクトを考えているだろうか?自社や顧客企業、地域などを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、自社の先には自社に関わる人がいて、顧客企業の先にはその企業に関わる人がいて、地域の先にはその地域で生活する人がいて、地球の先には地球に暮らす人々がいるはずだ。
(中略)
自分たちの先にいる「人」を想像し、それを起点にする考え方は独りよがりを脱する1つの手段ではないだろうか。

(p125)

共創プロジェクトの初期段階では特に、共通目的はまだざっくりしていることが多い。ここを乗り越える一つの方法として、共通目的の前に「共通課題」を明らかにすることが挙げられる。

(p126)

介護課題デザインマップをつくる大きなステップは以下の6つ。
1 辛いこと・大変なこと・解決したいこと・違和感などを洗い出す
2 それらがなぜ起こるのか課題を掘り下げる
3 出てきた課題同士をつなげる
4 課題のゾーニングをする
5 負のループを見つけて可視化する
6 負のループ同士をつなげて、完成

(p126-128)
(p131)

共創を行う上で欠かせない複数のステークホルダーについての考え方、誰をどう巻き込んでいくかについて説明したい。
これまでのプロジェクトでは、発注者(資金提供者)が主体になることが多かったが、共創プロジェクトでは、資金を提供することは1つの役割に過ぎず、さまざまな役割をそれぞれのパートナーが分担して対等な関係で進めていく。
このステークホルダーの役割を整理できるかが、より多くのステークホルダーを巻き込むポイントである。

(p134)
(p136)
(p140)

「八方よし」というフレームを紹介しよう。八方よしとは、新井和宏氏が著書『持続可能な資本主義』で紹介しているフレームで、これからの時代は八方すべてのステークホルダーを考慮していく必要があるというものだ。その八方とは以下の8つである。
・従業員      ・経営者 ・顧客  ・株主
・取引先・債権者  ・政府  ・社会  ・地域

(p145)

通常のビジネスであれば、図の左の「顧客」からの売上だけで成り立つように設計されるが、共創プロジェクトにおいてはその過程で必ずしも顧客が明確になっていないこともあるし、顧客の売上だけで活動経費をすべて賄えない場合もある。だからこそ、図の右側の「支援者」がそれをどう支えるかを考えることが重要になってくる。
また、これまでは受益者だったステークホルダーがハイラインの事例のように支援者に回ったり、タクシー配車サービスのように協同組合を自ら設立することで主体者になったりと、立場を横断するような動きが出てくるのが面白い。
このようにビジネスモデルが確立するまでのお金の流れを可視化し、他の共創プロジェクトの事例を参考にしつつ、「主体」「顧客」「支援者」の3つの要素を工夫することで、金銭的な理由で継続が難しくなりがちな初期のフェーズを乗り越えていきたい。

(p184)

これまでは別々に評価されていた社会的インパクトと利益を統合する「インパクト加重会計」という業績評価の新たな取り組みも研究が進んでいる。たとえば、環境汚染をしている企業はそのインパクトが測定されて利益がその分マイナスになる一方で、通常より多くの給与・福利厚生の人的投資をしている企業は利益がその分プラスになる、といった考え方だ。

(p195)

【主要目次】
1章 パーパスモデルとは何か
2章 パーパスモデルで見る共創プロジェクト
 2-1 共創の8つのタイプ
 1.事業をつくる
 2.基準をつくる
 3.共通認識をつくる
 4.関係をつくる
 5.場をつくる
 6.共同体をつくる
 7.人を育てる
 8.公共を開く
2-2 共創プロジェクトの事例紹介
 スクリレ/LEO Innovation Lab/BRING/Regenerative Organic Certified
 B Corp/宗像国際環境会議/瀬戸内国際芸術祭/Fashion for Good
 BLOXHUB/BONUS TRACK/De Ceuvel/PoliPoli/High Line
 Forest Green Rovers/Waag/Dutch Skies/Dove Self-Esteem Project
 東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト/ミーツ・ザ・福祉
3章 より良い共創を実現するためのポイント
 3-1 共通目的をどう考えるか?
 3-2 誰をどう巻き込むか?
 3-3 活動をどう広げていくか?
4章 共創しやすい社会をつくるために
 4-1 個人・プロジェクト・社会環境の3つを揃える
 4-2 共創が起きやすい社会環境とは
 4-3 共創を実現する個人の姿勢と連帯
 4-4 パーパスフッドの時代

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◇プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/株式会社ソーシャル・エックス 共同創業者

1978年10月生まれ。京都大学公共政策大学院修了(MPP)
2003年に人材ビジネス会社を創業。2011年にルールメイキングの必要性を感じて政治家へ転身(2019年まで)。2020年に第二創業。官民協働による価値創造に取り組む。現在、経済産業省事業のプロジェクト統括も兼務。
議会マニフェスト大賞グランプリ、グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。
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