【書評】『ロジカル ティーチング』(阿部淳一郎、2021)を読んで。
▮ 読後感
私が創業した当時なので2003年くらいに初めて阿部さんにお会いしました。当時から阿部さんは心理学をベースにした人材育成、早期離職予防の分野でコンサルタントや学校の授業を担当されていました。わたしも当時は早期離職予防(リテンション)をキーテーマにいくつかのプロダクトサービスを開発し、民間企業に提供していた頃でしたので、コンタクトを取って何度か東京で情報交換させて頂いた記憶があります。
なんとなく最近の若手ティーチング方法は変わっているのは知ってましたが、最先端の若手ティーチング方法を、実証研究をベースに分かりやすく、且つロジカルに書いておられます。さすがです。
個人的には就職氷河期世代のキャリア形成について関心を高く持っているので、生かす部分がないかと思いながら読み進めました。コルブの経験学習サイクルの箇所が最後の方に出てくるのですが、そこの部分は細かく書いておられて、特に「フィードフォワード」という内省支援手法は、なるほど、と思いました。
部下指導をされる方、最近の若手の教育に当たられる方などにお勧めの一冊です!
▮ 注目した個所(抜粋)
●(2018年度に調査を行った)新人の4人中3人は「仕事よりもプライベート重視」という回答です。これは私の現場感覚ともフィットしています。
(p43)
●「意識」を変えようと思うのであれば「行動を変える・環境を整える」アプローチをとりながら、「意識の部分に触れていく」アプローチを行う方が効果的なのです。
(p76)
●「結果を出す人には『人として尊重される環境』が前提として必要である」という点です。
(p86)
●人は「自分が期待をされている」と感じると、意欲が高まり、行動が良い方向に変わります。(ピグマリオン効果) 反対に、「自分は期待をされていない」と感じると意欲は下がり、行動が悪い方向に変わります。(ゴーレム効果)
(p90)
▶部下のモチベーションは、上司とのコミュニケーションの総量との相関が高い。
▶内容よりも、そもそもの絶対量が大切
(p96)
●うまくいくときのポジティブな発言とネガティブな発言の比率を統計調査したゴッドマン率という公式があります。
この統計によると、「上司部下の関係においては、コミュニケーションの8割以上をポジティブな内容にすると信頼関係はつくられやすく、それ以下になると、つくられにくくなる」とのこと。
(p105)
●部下・後輩の目標を設定する際は、「書き方」「難易度」「意義」の3つの観点に配慮し、本人にフィットしたものを作る必要があるのです。
(p163)
●「敬意ある態度で接してきてくれる上司の部下」は、そうでない上司の部下よりも
・仕事によく集中でき、すべきことの優先順位づけもうまくできている…92%
・仕事に熱心に取り組んでいる…55%
「他人の尊厳を認め礼儀正しい接し方をする上司」は、そうでない上司と比較して
・リーダーにふさわしいと評価される…2倍
・業績…13%高い
データでも、「部下に敬意を払う接し方をすることは、生産性の向上に大きく寄与する」ことが証明されています。
(p173)
●「フィードフォワード」は、「今後どうするか?」という点のみを掘り下げます。過去に触れません。自分のミスに触れられないので、本人が委縮することなく、色々とアイデアが出てきます。
・・・もちろん「フィードバック」と「フィードフォワード」の、どちらの方が優れているということはありません。両方とも効果的なものです。ただ「打たれ弱い若手」への振り返りの際にお勧めなのは「フィードフォワード→フィードバック」という順序で行う方法です。
(p176-177)
●心理学者カレン・ウィルソン氏とジェイムズ・H・コーン氏の調査で、人間は最大で15分程度しか集中力は持続しないことが分かっています。つまり、15分以上、叱るという行為を続けても「ただただ不快な時間が長く続いた」という印象だけしか残らない可能性が高いのです。
(p198)
●そもそも「教える」とか「育てる」ということを体系的に学ぶ機会は(一部の研修制度等が充実した企業を除き)ほとんど存在しないからです。結果、「どう育てればいいか分からないから自分のKKD(経験・勘・度胸)に頼るしかない」という状況にある方が非常に多い実情も知りました。
(p222-223)
●「当たり前のことを、当たり前に継続すること」。育成は、これしかないように思っています。
(p223)
▮ 目次
○第1章 若者を育てることになったらはじめに認識しておきたい基本スタンス
○第2章 「イマドキの若者」の仕事観を知る
○第3章 育成に役立つヒトの心理メカニズム
○第4章 ジェネレーションギャップを超えて信頼関係をつくるには?
○第5章 自分のさじ加減に頼らない相手の能力に合わせた業務の任せ方
○第6章 「イマイチ伝わらない」から脱却する教え方・褒め方
○第7章 振り返りを意味のある時間にするための手法
○第8章「感情的なシコリを残すだけ」にならない意味のある叱り方
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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 取締役共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。
◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp
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