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鍵をかけることにしました

鍵をかけることにしました
ええそうなんです 
鍵をかけることにしたんです
だってまあそうじゃないですか 
さわがしくてうるさくて
外は知らないものばかり 
だから今晩はもう 
自分のこころに鍵をかけてしまって 
だれも入れないようにするんです 
こどもも お母さんも 恋人であってもです
そういう大切な人でも
入ってこられないように
鍵をかけてしまうんです

最初に入ると赤い小さな部屋がありますね
まずはそのビロードの扉に鍵をかけるんです
赤い部屋の奥まで進み 
別の小さな扉を開けると 
そこは暗くて静かで暖かな部屋です 
そこでふん、と満足した息を吐いて
ゆっくりするんです 
自分ひとりで 
体をのばして 
ふかふかの床に体をのばして

ちょうどよいサイズの部屋ですから
足の先はやわらかな温かい壁にふれます 
両手をひろげれば壁に指先がとどきます 
その部屋で 
きちんと鍵のかかったその部屋で 
ゆっくりするんです 
優しい恋人はもちろん扉をたたきます 
どうしたのとたたきます 
でも 
たたいているのは 
赤いビロードの扉なのです 
遠くから小さな音がきこえるだけなのです 
かすかにきこえるその音をききながら 
暖かな 鍵のかかった安全な場所で 
わたしは手足をのばすんです 
ゆっくりと伸びをして 
自分の体のぬくもりと 
良い匂いとを感じながら 
一人きりですごすんです
 
鍵をかけることにしました
 
 
 
鍵をかけてしまって
ああ
わたしは良い気持ち
 
 
 
 
 
 
 

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