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文章から溢れ出る“バイブス”とは何なのか? 書き方でこんなに変わる

 記事を読んでいるうちに、取材先の表情や口調、現場の空気感が浮かんできて、気づくとその世界に引き込まれている。そして、ときには書き手の人柄や思いまで。まるで自分の目の前で語りかけてくるような——。

 僕は現在、ネットニュースの編集者として働いているが、時折そんな“バイブス”を感じる文章に出合うことがある。

 正直、すごいバイブスだな、と思った。いま話題の小説『みどりいせき』(集英社)である。著者が授賞式のスピーチでラップを披露したというので、どんな作品なのか気になっていたのだ。

 ここ数年は時間に追われてしまい、小説を読めなくなっていた。小説を読了できたのは、かなり久しぶりだった。そして作品の余韻に浸りながら、ふと思った。

 文章から溢れ出る“バイブス”とは、いったい何なのだろうか?

 取材記事においては、そもそも魂を揺さぶられるような中身の濃い取材ができたら、それだけでバイブス満点……と言えなくもないが、そのへんは“大前提”として、やっぱり文章を書くからにはしっかりと「伝わる」ようにしたい

 そこで今回は、“表現”の部分で初心者のライターさんにも少し参考になりそうな表記や句読点がもたらす意味に絞って考えてみた。

同じ言葉でも“表記”で異なるニュアンスに

※写真はイメージです(Photo by Adobe Stock)

 まずは、バイブスという言葉について。バイブスとは、ノリやテンション、雰囲気などを表現する抽象的な言葉として、一般的には10年前ぐらいから使われるようになったと記憶している。

 ただ、同じ言葉でも“表記”によって、読者が受け取るニュアンスは微妙に異なってくる。というか、個人的にはバイブスの表記には少し戸惑っていた。

 もともとはヒップホップやレゲエシーンで広まった言葉。僕はフリーランスで活動していた頃、HIP HOPファッション&カルチャー雑誌『411』(※現在は休刊)にライターとして関わっていたが、そこではバイブスではなく、“ヴァイブス”の表記で統一されていたのだ。

 当時の編集者に理由を確認してみると、「英語ではVIBESなので、Vの発音としてはヴァ」とのことだった。似たような言葉でバイブル(BIBLE)などは、Bの発音なのでバを使う。

「Goodleトレンド」を使用してバイブスとヴァイブスのネット上の動向を調べてみると、ギャル流行語大賞を受賞した2013年あたりから「バイブス」が急激に伸びている

 Googleトレンドで今のネット上の動向を調べてみると、ヴァイブスよりもバイブスが圧倒的に強かった。これは、おそらくギャルの影響だと思われる。『egg』などのギャルモデル・タレントが様々なメディアで多用するようになり、2013年ギャル流行語大賞で1位に。そして、ネットニュースでもバイブスの表記が定着した。今の若者たちにとっては当然、バイブスがスタンダードだろう。

 しかし、30代後半以上で、かつてのヒップホップやレゲエシーンのヴァイブス(VIBES)に馴染みがある僕みたいな人からすると、バイブスには“ギャルっぽい”ニュアンスを感じることもあるかもしれない。

 そこから思ったのが、バイブスが伝わる文章を書く人は、“あらゆる言葉の表記を意図的に書き分けているだろう”ということだ。

「漢字」「ひらがな」「カタカナ」のイメージ

 とはいえ、メディアごとに「表記ルール」や「トーン&マナー」が決められているのは、まさに読者とバイブスを合わせるためだと思っている。さまざまな言葉の表記を統一し、「です・ます」「だ・である」などの言い回しを揃えることで、メディアが想定している読者にとって読みやすくしてあげているのだ。

 文章は「漢字」「ひらがな」「カタカナ」の使い方によって、頭に浮かぶイメージがずいぶん変わってくる。次の例文を見てほしい。

例文①
文章から溢れ出るバイブスとは何なのか?

例文②
ぶんしょうから あふれでる バイブスとは なんなのでしょうか?

例文③
ブンショウ カラ デル バイブスッテ ナニ?

 同じことが書いてあるのに、まったく違った印象を受けるはずだ。前後の文脈によるが、めちゃくちゃ極端にいえば、①からはスーツのおじさんが真顔で言っていて、②からは優しそうな女性が微笑みながら子どもに語りかけているような……。③はカタコトの外国人だろうか。

 ほかにも、あえて一般的な表記ではなくカタカナにすることで、なんらかの“意味をもたせる”という書き方もあるだろう。

例文④
ギョーカイの人たちとの飲み会があるんだけど来ない?」

 本来は業界という単語だけでは何の仕事の人たちかわからないが、カタカナにしたことでテレビ関係者や芸能人などを匂わせる。

例文⑤
「言論には自由があってねえ」
ゲンロンですか……」

 同じ言葉なのに表記がズレていることで、相手の発言に対して、いまいちピンと来ていない様子が伝わってくるはず。

句読点が生み出す文章の“リズム”

※写真はイメージです(Photo by Adobe Stock)

 バイブスといえば、“リズム”である。原稿を提出したら「文章のリズムが悪いですね」という指摘を受けたことがある人もいるだろう。

 しかしそう言われても「いやいや音楽じゃないんだからリズムって何?」と疑問を抱くはずで僕も編集者として仕事をするなかで文章のリズムに違和感を覚えてもなんだか説明が難しいと思ってしれっと修正の提案をしてしまったり別の観点での理由を付けたりしてごまかしてしまうことが多々ある。

 ただ、このリズム、というものが、文章や言葉から、滲み出るバイブスに、関係しているのは、マチガイナイ、と以前より、思っていたのだ。

 たいていの人が日常においては声に出さない“黙読”だろう。記事で目についたキーワードを拾ってなんとなく全体の内容を想像するのだが某ニュースのコメント欄で記事とは関係のないことをあれこれ言っている人が多いのはこのためだと思う。目で追う読み方は僕も含めて多くの編集者やライターにとってもクセになっているのでいざ原稿を書くときは注意したほうがいいだろう。

 ふう……ここのブロックになってから「なんだかリズムがおかしいかも?」と感じたはずだが、文章のリズムとは、基本的には“句読点”でつくるものなのだと思う。

 文章を“音読”したときに、一文が適切な長さになっているのか。文がテン(、)やマル(。)にたどりつくまで長ければ、そこまで息をするタイミングがないため、読んでいて苦しくなってくる。逆に、刻みすぎても息を止めるようになってキツい。

 句読点の正しい打ち方などは「文章の基本」みたいな記事に任せるとして。

 本や雑誌、ネット記事など、メディアというフロアのなかで、DJやラッパーみたいにリズムをコントロールし、観衆をのせていく。テンポを早めたり遅めたりすることで、緊張感や高揚感をもたらす。

 観衆、つまり読者としては、文章に身をゆだねるだけ。これができる書き手は存在するし、スゴいと思う。

神は細部に宿る

 記事の文章から溢れ出るバイブスについて考え始めたら、本当にキリがない。もちろん、バイブスを生み出しているのは今回書いた内容だけではない。

神は細部に宿る」とよく言うが、きっと“センスがある”みたいな人は文章の細かいサジ加減の調整が感覚的にできるのだと思う。

 ネットニュースの記事においては、前述のように検索ボリュームの大きい言葉や表記を優先しがち。そんななかで、機械的に表記のユレなどを指摘した挙句、書き手に「いや、これには意味があって……」と説明させてしまうような野暮なことはしたくない

 とはいえ、最後にこう言ってはなんだけど、表現にこだわりすぎて中身がスカスカ、小手先だけの記事は読者にも見透かされる。もはやバイブスどころの話ではない。

 ああ、あったまいてえ。

 このnoteを読んだ人からは、バイブスが何なのか考えちゃう時点で「サムい」とか「つまらない人間」と思われそうだが、まあ凡人の編集者・ライターとしては、地味にこんなことを日々考えている。

<文/藤井厚年>

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