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決められた道なんてない、やりたいことをやればいい

 極論を言えば、やりたいことをやればいい、それでお金が稼げるならば何だっていい——。

 スマホがなかった時代にインドを訪れる旅人は、たいてい人生に悩んでいた。それぞれの「答え」を探そうともがいていた。私もそんなひとりだった。

 初めてのインドは大学生の頃。まわりの友人・知人がスーツを着て、有名企業から内定を得るべく、最後の最後まで就職活動に精を出すなか、このままレールに乗るべきか、それとも本当にやりたいことを貫くべきか。タイムリミットが迫っていた。

就職活動に悩んでインドに旅立った

 出版業界の倍率は高く(とくに大手は)高学歴でなおかつ独自の信念がなければ入れなかった。私は、すでにエントリーシートの時点で全滅だった。

 どうするべきか自分なりの「答え」を見つけるために、インドに向かった。

 そこで出会った有名雑誌を中心に商業写真を撮るカメラマンのAさん。約2週間、インドのバラナシからネパールのカトマンドゥまで行動をともにした。私が出版業界で働きたいという気持ちをより一層強くさせたが、彼もまた、大きな葛藤を抱えていたようだった。

それぞれが見つけた「答え」

 日々、地元の子どもたちをのんびりと撮影するAさん。そのときの表情はとても穏やかで楽しそうだった。ある日、Aさんが「答え」を見つけたという。

 それが何だったのか、当時は知る由もなかったが、10年後に再会したときにわかった。デジタルの時代に、あえて銀塩写真を撮るようなあたたかい雰囲気の写真館を経営していたのである。

 一方で、大学生で将来の仕事について悩んでいた私が出した答えは、冒頭に記したとおりだ。インドの街中には、路上に体重計を置いて計ってくれるひと、トイレの大便所で待ち構えていてティッシュを売るひと、「ハロー」と声をかけてきて握手をすると勝手にマッサージを始めるひと……。

 山奥では、バスが川のなかに平然と突っ込んでいく様子を目にした。まさに、道なき道を行く。

ああ、何でもいいんだと思った。正解なんてないよ。混沌とした世界を見て、気がラクになったのである。

夢を抱えたまま“仮面就職”

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道なき道を行くバス(撮影/藤井厚年)


 とはいえ、大学まで出させてくれた家族や親族には「筋をとおす」必要があった。私の進路を心配していた祖母。病気で入院しており、先は長くない様子だった。ひとまず、安心させてあげなければならない。

 私は約2か月にわたるインド旅行から帰国後、そこそこ有名な金融機関の内定式に出席。いったん就職しながらも出版業界への道を模索した——。

 あれから約15年。現在もメディアの世界で仕事をしているが、悩みが尽きることはない。ただ、迷いが生じるたびにインドでの日々を思い出してしまうのだった。

文/藤井厚年

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