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21世紀枠で甲子園に出場した元主将が高校野球を考える#1

(2020年9月30日 一部を削除、訂正しました)

第1回は「リーダーシップ」についてです。高校野球部に入部した私は、上級生の理不尽さに怒りを覚えました。「指導」として走らされたり、正座させられたりしたからです。理不尽な指導は、下級生を恐怖させ、信頼を失います。チームは雰囲気が悪くなり、成長もしません。主将になった私はチームを変えるため「行動で示す」ことを心掛けました。理不尽さを排除した新チーム。ひたむきに野球に取り組む上級生がリーダーシップを発揮し、少しずつ成長していきました。そして、甲子園出場という奇跡を起こしました。

自己紹介

私は2010年春、徳島県立川島高校が21世紀枠(※1)で選抜高校野球大会に出場した時、主将を務めていました。卒業後、徳島大学に進学し、15年に徳島県内の新聞社に入社。本社運動部では高校野球を担当し、16年に鳴門高校が夏の甲子園で8強入りした時も現地で取材していました。現在はスポーツ取材から離れていますが、将来的には野球をはじめ、スポーツに取り組む人の活躍を伝えたり、徳島のスポーツ文化について考えたりする記者になりたいと思っています。

甲子園に出場してから10年。高校野球をプレーし、取材し、そして離れてみて思うことを書いていきたいと思います。

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川島高校野球部

私が最上級生になった時、部員は18人でした。怪物がいるわけでも、粒ぞろいでもないので、練習試合はなかなか勝てず、新チーム最初の公式戦である県新人ブロック大会では初戦敗退。監督に「お前たちは弱い」、引退した上級生に「恥ずかしい」と言われました。

グラウンドは狭く、サッカー部とソフトボール部と共用。部員は中学時代に軟式野球をしていた地元の子どもたち。甲子園を夢見ていても、現実的な目標にしていた部員はいなかったと思います。少なくとも私はそうでした。

21世紀枠に選ばれた理由は、少人数の部員、恵まれたとは言えない環境で練習しているといった困難さを乗り越え、県秋季大会で3位、四国大会でベスト8入りした実績があったからでした。

理不尽さ

私が感じた理不尽さとは、「あいさつの声が小さい」「練習道具の管理ができていない」「グラウンド内をランニング移動していない」などの理由で、上級生に指導として走らされたり、正座させられたりしたことです。チームとして上手くいっていないことを下級生だけの責任にすることに疑問を抱き、恐怖で支配する指導は理解できませんでした。

理不尽な指導の問題点は、上級生と下級生の間に信頼関係が生まれず、チームの中で分断が起きることです。下級生は上級生の顔色を伺い、無駄なプレッシャーを感じるようになります。さらに、理不尽さはチームの雰囲気を悪くします。そうなってしまっては、チームの成長はありません。

下級生は、高校球児とは何かを上級生から学びます。言わば、上級生の「鏡」です。上級生が指導するということは、自らに問題があると言っているようなものです。

行動で示す

新チームが発足し、私は主将になりました。チームを引っ張るのであれば、行動で示さなければならない。理不尽さを感じる中で私が考えた答えでした。

では何をしたのか。特別なことはしていません。

・下級生への理不尽な態度を許さない。
・大きな声であいさつする、道具をちゃんと管理する、学校生活もちゃんとするなどチームで大事にしていることの模範者になる。
・同級生、下級生とコミュニケーションを取る。
・ひたむきに野球に取り組む。

リーダーシップは、理不尽な指導で恐怖を与えることではなく、模範的な行動を示して誠実さや情熱を伝えること。そう信じてチームを引っ張りました。仲間も理解してくれていたと思います。

精神力

新チームは、上級生が理不尽さを排除し、ひたむきに野球に取り組むと決めてリーダーシップを発揮しました。恐怖がもたらす悪い雰囲気は消え、上級生と下級生の信頼関係は深まり、ナインは無駄なプレッシャーから解放されました。練習でも試合でも、よりプレーに集中できる環境が整いました。

高校野球は、精神力が勝敗を左右するとよく言われます。川島高校は、粘り強く戦って接戦に持ち込むことで勝機を見出し、少ないチャンスをものにしました。チームのあるべき姿を考え、変えていくことで、一発勝負の本番を勝ち進むために必要な精神力が鍛えられました。チームの「土台」とも言える精神力は、知らず知らずのうちに獲得していたのです。

次回は

しかし、上級生が「新しいリーダーシップ」を発揮し、精神力という「土台」ができても、チームは急に強くなりません。新チーム初の公式戦である県新人ブロック大会では初戦敗退でした。ではなぜ、そのすぐ後の県秋季大会で3位、四国大会で1勝し、ベスト8に入れたのか。そして、いかにして甲子園で優勝候補を相手に接戦を演じたのか。次回は「弱いチームの戦い方」をテーマに、振り返りたいと思います。

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(※1)21世紀枠 各都道府県秋季大会で8強、加盟校が多い地区は16強入りした学校を対象に、困難の克服、マナーの模範、文武両道などを評価する出場枠。2001年の第73回大会から採り入れられた。(https://kotobank.jp/word/21世紀枠-187894)

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