見出し画像

21世紀枠で甲子園に出場した元主将が高校野球を考える#2

2010年3月27日、阪神甲子園球場。21世紀枠で選抜高校野球大会に初出場した川島高校は、優勝候補の大垣日大高校(岐阜)との1回戦に臨みました。「横綱」に挑むチームは、作戦を徹底し、結束してぶつかりました。序盤から相手にプレッシャーをかけ、終盤勝負に持ち込むという理想的な展開でしたが、結果は延長十回の末、2−3のサヨナラ負け。勝利まであと一歩に迫った「弱いチーム」の戦い方を紹介します。

「横綱」を追い詰める

私は3番・二塁手で出場しました。第1、2打席ともにインコース寄りに立っていたからか、足に死球を受けて出塁。3打席目は、相手左腕が勝負に来た外角の球をライト前に弾き返しました。3度の出塁全てで二盗を決めました。事前にビデオで研究していた甲斐がありました。3度目の二盗が決まった六回は、後続の打者のヒットで生還し、2−1の勝ち越しに成功しました。

二回の先制点も盗塁でチャンスを広げ、内野ゴロの間にもぎ取りました。四死球や盗塁、単打、内野ゴロで泥臭く1点ずつ取り、ロースコアの展開に持ち込む。当時は「スモールベースボール」なんて言われていました。横綱を追い詰めていきました。

結束する

09年秋の明治神宮大会(※1)で優勝していた大垣日大高校。つまり、新チームになってから1度も負けていない「横綱」は、投打で川島高校を上回っていました。
では、川島高校はどんな作戦を徹底したのか。

一つは、相手のエース左腕を崩すため、右打者6人が打席でインコースいっぱいに立ち、ライト方向を狙い打つこと。相手に意図を読まれても構わないので、インコース勝負をさせにくくし、外角の球を狙い打つ作戦でした。

もう一つは、塁に出たら大きなリードを取ること。投手が動いたら一歩だけ塁に戻り、投球なら再びリード、牽制なら帰塁という具合に揺さぶります。盗塁を狙える選手はどんどん走りました。

すぐに相手に見破らそうな作戦ですが、選手全員が徹底し、結束することで相手チームはプレッシャーを感じていたと思います。作戦を明確にし、徹底することは、緊張する場面でもプレーに迷いがなくなります。冬が明け、最初の公式戦である甲子園では、いかにプレッシャーに打ち勝つかもポイントだと思います。

これに加え、エースが好投してくれました。加え、と言いますか、彼の素晴らしい投球のおかげで、ナインは思い切ってプレーできました。

少しずつ深めた自信

延長十回の末、サヨナラ負けしたとはいえ、新チーム発足以来、持ち味を発揮できた最高の試合だったと思います。新チーム初の公式戦だった県新人ブロック大会で初戦敗退した時は、持ち味ややるべきことが分かっていませんでした。「校歌を1回歌おう(1勝しよう)」を合言葉に臨んだ県秋季大会では、準決勝で強打の小松島高校にコールド負け。しかし、実力不足を自覚していたナインはしっかり切り替えて、3位決定戦を3−2で制しました。

初出場した四国大会は、1回戦で相手の失策で得たチャンスを逃さずスクイズなどでリードし、逃げ切りました。次の準々決勝では、高知県1位の高知高校に2−3で敗れましたが、投手を中心に粘り強く戦って接戦に持ち込む、理想的な展開でした。県秋季大会で勝ち方をなんとなくつかみ、四国大会で1勝。やってきたことをちゃんと出せれば、どんな相手でも戦えるという自信が得られました。

無欲

弱いチームが勝ち進めたのは、作戦を徹底したことのほかに、選手が「失うものが何もない」というメンタルだったことも一つの要因だったと思います。勝つつもりでやっていますが、やはり強豪校に比べると実績も実力も及ばないことは分かります。自分たちがやってきたことの成果を披露できるか、という1点に集中していました。「無欲」だったと思います。

達成感と実力不足

四国大会の善戦が評価され、21世紀枠で甲子園出場をつかんだチーム。甲子園で試合に敗れ、アルプス席にあいさつした時、「よう頑張った」「いい試合だったぞ」との声を聞き、涙が溢れました。バックネット裏からは「また帰ってこいよ」と聞こえたような気がします。

チームとして素晴らしい試合ができた達成感があった一方で、個々のレベルアップが必要と痛感しました。特に私は、2−1でリードしていた場面で、守備でエラーをしてしまい、同点にされました。守りからリズムをつくるチームで一番やってはいけないことでした。思い返せば、四国大会でも強豪校の強烈な打球を捕球できず、左腕に直撃するというエラーをしていました。この時から、技術的な問題があったのだと思います。このほか、スクイズの場面でスタートを切るのが早すぎて捕手に気づかれ、ウエストされてしまうという記録に残らないミスもありました。

自分のせいで負けた。仲間に申し訳ない。やりきれない思いを抱え、甲子園を後にしました。

それでも高校野球は続く


甲子園から戻った後、私は野球を辞めたくなりました。なぜなら、守備練習で飛んでくる打球が怖くて仕方なかったからです。日々のノックが地獄でした。「聖地」を体験した仲間も燃え尽きていました。「もう俺たち野球辞めてもええんちゃん」。こんな声もありました。

それでも高校野球は続きます。燃え尽きてしまったチームは、甲子園出場校と県春季大会1位校が対戦する「チャレンジマッチ」で記録的大敗を喫します。春の四国大会では初戦敗退。結果が出ず、心が折れていた時期を乗り越え、最後の夏の大会ではベスト4に入ることができました。次回は甲子園後を振り返り、高校野球を通して得たことをまとめたいと思います。

※1 明治神宮大会 秋季地区大会の優勝校9校と東京都秋季大会の優勝校が出場し、秋の日本一を決める大会。( 日本学生野球協会 https://www.student-baseball.or.jp/game/jingu/jingu_outline.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?