不動産売買価格は、ほぼ勘(かん)

かつて人材紹介事業を行っていたころ、不動産業界は時間的歴史や事例の多さからなんてしっかりした業界なんだろうと羨望のまなざしで見ていたことを記憶しています。

時間が経ち、富士ヶ丘サービス株式会社が宅地建物取引業(不動産屋)をはじめて3年目を迎えました。不動産従事者としては1年間のアルバイト期間があるので、不動産業界経験は3年と2ヶ月になります。「何事も石の上にも3年」というのであれば、まずは出だしとしての3年を満了したことを意味しますが、諸先輩から比べるとまだまだ、これからも日々経験と学習の日々です。

不動産売買価格は、ほぼ勘(かん)というお話です。

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久しぶりに鑑定評価手法を調べるために、宅地建物取引士試験のテキストを引っ張り出してきました。大きくは3つの手法。①原価法、②取引事例比較法、そして③収益還元法、という手法が載ってます。なんだか難しそうで、私は不動産鑑定士ではないので、これらの手法は使いません。特に③収益還元法は私には絶対に使えない手法です。どうにか使えそうなのが②取引事例比較法くらいでしょう。

またテキストには「鑑定評価の手法の適用に当たっては」という注意事項が書かれています。

地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特殊等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。 ※1

つまりは、ひとつのやり方に固守せずに様々な方法を使えよというアドバイスと受け止めています。不動産売買価格を算定にあたっては、上記の①原価法、②取引事例比較法、そして③収益還元法を使うわけですが、売買価格の算定にあたってどの程度の比率で、①、②、③の方法を組み込むかは、価格算定者にゆだねられているのです。

つまるところ、私がいうところの「勘(かん)」というわけですが、多くの不動産屋さんが丁寧に①原価法、②取引事例比較法、そして③収益還元法を求め、それぞれの加重比率をかけて、価格決定をしているとは思えません。もちろんある程度、参考にしている不動産屋もあるとは思いますが、最後は、こういう価格であれ~とか、えい、やぁと価格を算出している例は少なくありません。

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とは言え、不動産屋が算出した不動産売買価格で、売り買いが成立するわけではありません。売りたい方の値段、買いたい方の値段、そして間に入る不動産屋が考える価格、これらが相まって、最終的な不動産売買価格が決定されていきます。主には、売りたい方の値段、買いたい方の値段が中心で、私なんかは不動屋が考える価格は二の次だと思っています。

元に話は戻しますが、鑑定評価手法の①原価法、②取引事例比較法、そして③収益還元法のうち、現在、日本で使われている手法は①原価法と②取引事例比較法です。不動屋はよく②取引事例比較法を使っていますが、最終的には今まで培った勘に頼ってしまうわけです。

一方、金融機関は①原価法を使うため、耐用年数に基づき原価を低減させ、木造建物は22年、鉄骨鉄筋コンクリート造は47年経過すると、建物の価値は0円になります。その建物が使用収益できようができまいと、この原価法では耐用年数を過ぎた建物は0円でしか評価されないのが問題点です。

①原価法の耐用年数に基づく方法のデメリットをリカバリーする方法が、③収益還元法であり、使用収益できる建物であれば、本来は③収益還元法で評価すべきです。この収益還元法は月額賃料〇万円と決まっていれば、簡単にその収益に関する計算ができるのです。しかし日本の金融機関は、自分で使用する場合の収益を算出することが苦手で、自用不動産も賃貸したとみなして適用すればいいのに、なかなか適用できないでいます。これは貸与年数や月額賃料と明確な数字を当てはめるのは得意なのに、自ら数字を生み出せない日本人の特性を反映しているのかもしれません。

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アメリカでは、もっと科学的に不動産価格が算定されているという話を聞きますが、私自身の目で確認したことはないので、本当のところどうなっているかはわかりません。

今後の日本がどうなっていくのか、これだけIT(情報テクノロジー)が発達した世の中であれば、売買価格がひとつのデーターベースにまとめられて、地域の売買価格がスムーズに参照できる仕組みができる日は近いか近くないか・・・私にはわかりません。でも断言できるのは、技術的には、可能です。絶対にできます。しかし、既得権益というか、現状維持勢力の抵抗により、現実できていないのが今なのです。REINSというシステムが成約価格を入力する仕組みがあるのですが、現在は、あまり活用されていません。だから②取引事例比較法の取引事例が多くないのが2020年の実情です。結果、不動産売買価格は、ほぼ勘(かん)に頼ってしまう所以なのです。

参考・引用

※1 日建学院 2019 宅地建物取引士 受験対策テキストⅣ 税その他編P44引用

静岡県磐田市という中部地方に生息しています。サポート頂きましたら、介護従事者の待遇改善に活用させていただきます。多面的な見方ができるように、異論を発信してまいります。