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文楽技芸員さんの好きな映画 『風とライオン』『心の旅路』『ニューヨーク東8番街の奇跡』 [文楽名鑑2023]

文楽協会設立60周年記念として刊行された『文楽名鑑』2023年版には、セルフ回答形式で技芸員さん方のプロフィール、自己紹介が掲載されている。昔の小学生や中学生が卒業式のときに交換したプロフィール帳みたいな感じのやつで、「好きな演目」などの文楽らしい質問から、「好きな食べ物」「布団派orベッド派」などのどうでももいい(?)質問まで、様々な項目があって、面白い。
その中に「好きな映画は?」という設問があった。最近は配信サービスの充実で昔の映画、マイナー映画も見やすくなっているので、回答のあった作品を観てみた。


吉田玉志 ジョン・ミリアス監督『風とライオン』米/1975

20世紀初頭、激動のモロッコ。列強の思惑が入り乱れる中、ゲリラの頭領・ライズリはアメリカ人母子を誘拐し、モロッコ太守の首と黄金を要求。母子の館を強襲し多数の下僕を殺害したばかりか、彼の井戸を占有しようとした者の首を落とすなど残忍に思われたライズリだったが、母子の尊厳は守り丁重に扱う。彼の意図は腰弱の太守を脅迫し列強をモロッコから排除することにあった。気強い母は下僕を買収し、ライズリの隙を見て子供たちとともに逃げ出すが、下僕によって別ゲリラに売られてしまい危機に陥る。しかしそこにライズリが現れ、ゲリラを壊滅させて母子を救う。一方、アメリカでは人気絶頂のルーズベルト大統領がこの事件をどう解決するかに注目が集まっていた。常に記者や支援者、家族に取り巻かれて絶え間ない賞賛を浴び続け、次なる策を求められ続けるルーズベルトだったが……
という話。

広大な砂漠、限りなく広がる荒野に吹き渡る強風を捉えた超絶的な映像美と馬を多用した華麗なアクションが非常に印象的な大作映画。しかし、映像が綺麗で巨額の予算をかけたスペクタクル映画というのはたくさんあるわけで、これの一体何が頭抜けているのか? はじまって20分くらいで人の生首が2、3個転がってきたので、あ、そういうこと?と思っていたが(?)……、おそらく、主人公がめちゃくちゃ颯爽としてカッコイイというのがポイントだと思う。
祖国のため、強い意志で苦難を乗り越え、自らの危険を厭わず立ち上がるライズリの颯爽とした気高さは、大変魅力的。ライズリはムスリムなので「常識」がアメリカ人の母(や観客)とは全然違うのだが、それでも彼の気高さに共鳴できるように描かれている。
映画の最後のほうは話や映像がかなり通俗的になっていくものの(映像の迫力そのものはすごい)、この主人公の魅力が物語を牽引していた。母がライズリに食ってかかるほど異様に気が強いのも良かった。

これを観て、玉志さんの芸風に納得がいった。気品、知性、清潔感というのは師匠から受け継いだものだろうけど、異常なレベルで颯爽としているのを前々から不思議に思っていた。けど、あれは天然や結果論としてそうなっている等ではなく、意図的に寄せていたということだったんだなと思った。光秀とか松永大膳とか、異様に上手いもんね。いつか知盛とかをおやりになりたいのかな。

日本公開が1976年、ご本人が19歳くらいのときの映画。お若いころにご覧になって印象に残ったということなのか。
AppleTV、アマプラ等で有料配信あり。リマスターされているのか、配信でも、色味等、かなり綺麗です。映像がゴージャスなので、できれば大スクリーンで見たい作品。

▼Amazon Prime Video レンタル300円〜
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吉田勘彌 マーヴィン・ルロイ監督『心の旅路』米/1942

男は第一次世界大戦で傷を負い、戦前の記憶を失って自分が何者かがわからなくなったまま、精神療養所に収容されていた。仮にスミシィと名付けられていた彼は、終戦の賑わいに紛れ、街へ逃げ出す。満足に言葉をしゃべることのできないスミシィだったが、踊り子・ポーラに救われて街を脱出し、やがて二人は恋に落ちる。親切な人々の助けで結婚した二人は、田舎の一軒家で暮らし始め、一児にも恵まれる。ある日、スミシィは軌道に乗り始めた小説の仕事の契約のため、リバプールの新聞社へ向かう、しかしその途中で交通事故に遭い、そのショックで失われていた戦前の記憶が蘇る。が、その代わり、直近の3年間の記憶を失ってしまう。彼はチャールズという裕福な実業家一家の次男としての元の生活を再開し、手がけた事業は大成功を収め続ける。しかし彼は事故によって失われた戦後の3年間の記憶と、ポケットに入っていたどこかの家の鍵を気にし続けるのだった。
……という話。

すれ違いものの優美な恋愛劇。「昔の映画」らしい上品な雰囲気が魅力的で、普通に映画として面白い作品。
結構「女性」観点で描かれた映画で、こんなロマンチックな映画がお好きとは、意外な気がした。しかし、人形の雰囲気的に、なんとも「らしい」ニュアンスがあるのかもしれないと思った。確かに人形が非常に上品で優美な方で、老女方(というか大人の女性役)なら和生さんにつぐセンスと技量だと思っていたが、感性的にもそういう役がお好きということなのか。

また、この作品は文楽的部分があるストーリーで、舞台を日本に置き換えて時代ものへ改作できそうな話でもある。
実業家として多忙を極めるチャールズは女性秘書を雇っており、スケジュールのマネジメントだけでなく事業関係のことも相談して、彼女はなくてはならない存在になっているのだが、実はその秘書というのが元妻のポーラ。ポーラは必死で夫を探し、彼が実業家になっていることを知って就職試験を受けて潜り込んできたのだが、夫が記憶を失ったことを知って元妻だと言えないままでいる。もちろん、チャールズは何も気付かない(目の前に最愛の人がいるのにわからないという設定は『生写朝顔話』みたいなのだが、突然オフィスにポーラがいるので、かなりぎょっとする。最初、ホラーかと思った。「熊谷陣屋」の最初の場面的なアレで)。
ポーラに再び惹かれるようになったチャールズは、彼女に結婚を申し込む。しかし彼女が亡夫(お前だよ)を今でも愛していることを知っているため、遠慮して「友情結婚」という形で社交場でのみ夫婦として振る舞うだけでいいという。その後、チャールズの形式上の妻となったポーラは、貢献のお礼として豪華な宝石のついた洗練されたデザインのネックレスをチャールズから贈られる。だけどポーラは、かつてスミシィが贈ってくれたおもちゃみたいな安物のネックレスいまでも大切に持っていて、それを握りしめて涙するんですよ!!!!!!!! もちろんチャールズはネックレスのことは忘れてるんだけど、おもちゃみたいでも、ポーラがそれを切にしていることを尊重するのも良いです。

ご本人が生まれる前の映画なので、わざわざご覧になったということだと思うが、誰でも知っている名画でもなくこれというのは、勘彌さんは映画がお好きなのだろうか?
アマプラ無料配信あり。ただ映像に潰れが出ているので、映画館のフィルム上映か、あればデジタルリマスター等でまた観られると嬉しいな。

▼Amazon Prime Video 会員無料
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吉田玉佳 マシュー・ロビンス監督『ニューヨーク東8番街の奇跡』米/1987

再開発地区に一棟だけ取り残されたオンボロビル。ほとんどの住人はすでに退去していたが、一階のカフェの亭主と認知症の妻、アパート部分に住む元ボクサーの寡黙な男、ミュージシャンを恋人に持つ妊娠中の若い女、女に捨てられた画家の5人は地上げ屋からの立ち退き料を拒否し、ビルに居座り続けている。地上げ屋の下っ端チンピラはなんとしてでも彼らを追い出そうと躍起になってカフェを襲撃、店や建物はズタボロになるが、実はそうならなくとも住人たちもまた人生のどん詰まりに陥り、悩み苦しんでいた。そんなある夜、小型UFOの夫妻(?)がアパートへ飛来。電気を分けてもらって充電完了した夫婦は、アパートの屋上のハト小屋に住み、三つ子を出産(?)。UFO夫妻の不思議な力(?)でカフェは新築同様に綺麗になり、再開発工事の従事者たちに大人気の店になって、ビルは再び盛況になったかに思えたが……
という話。

普通の通俗ヒューマンドラマかと思ったら、するっとUFOが飛んできたので、びびった。UFOはいかにも昔っぽい、レトロでメカニカルなデザインで、可愛い。直径30cmくらいの薄い円盤型で、豆電球のチカチカしたランプが愛らしく、おめめ(?)があることもあって、本当に生きているように見える。ママ(?)や三男坊(?)の困り顔も愛らしい。UFOたちは生活空間にいると猫やカメくらいのサイズ感で、ペットっぽいのが良かった。
昔はこういうハートフルストーリーの娯楽映画がたくさんあったよなあ。結末はいまの観点からするとちょっとぬるいというか、何の解決にもなっていなくて、展開や人物の描き方もツメが甘いと思うんだけど、そのヌルさも含め、懐かしい気分に浸ることができた。そのまま終わる、物語の優しい雰囲気が良い。そこらあたり、玉佳さんらしさがあるセレクトだと思った。(?)

ご本人が22歳くらいのときの公開作。22歳でこれが好きという男の子、なんか、可愛い。
U-NEXTで無料配信、アマプラ等で有料配信あり。クリスマス映画的なノリなので、一日ゆったり楽しんだ休日の夜に見るのにぴったりな感じ。

▼Amazon Prime Video レンタル400円〜https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/amzn1.dv.gti.7aa9f495-c773-912c-f94e-cf7d90962c11?autoplay=0&ref_=atv_cf_strg_wb



私は映画自体は好きだけど、洋画は全然興味ないので、鑑賞のいい機会になった。ここまでに観た3本は、セレクトにどれもその方らしさが感じられて、面白かった。

ほかの技芸員さんの回答だと、咲さんの「東映時代劇」が印象的だった。時代劇でもメジャーな東宝(黒澤)や、映画好きに受けのいい大映じゃないのが本気感あると思った。
個人的には『セッション』(米/2014)が好きな人いそうと思っていたが、掲載されている限りでは、いらっしゃらないのね。文楽技芸員ってあれくらい不条理で狂った世界というイメージ(偏見)。
映画項目じゃないけど、簑二郎さんの趣味「韓ドラ」が気になった。たしかに韓ドラ感、ある。若い子だとネトフリ配信ドラマとかが好きな方もいらっしゃるんじゃないかと思った。広義の「好きな映像作品は?」も聞いてみたい。
玉男さんはプロフィールに映画鑑賞をご趣味として挙げておられることがあるけど、『文楽名鑑』に回答掲載はなかった。何をご覧になるのかしら。

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