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乳酸菌Lactococcus lactisの感染防御作用を確認 疲労と免疫力の関連にも注目

疲労と免疫力には密接な関係があることが知られています。近年の研究で、疲労・倦怠感に伴って低下する免疫力の強化に乳酸菌が役立つことが明らかになってきました。具体的には、乳酸菌のうち「プラズマ乳酸菌」の効果が報告されています。プラズマ乳酸菌は熱殺菌されたLactococcus lactisの一種で、日本で初めて“免疫力アップ”という切り口の機能性表示食品として認められています。

疲労や倦怠感によって免疫力は低下

学術顧問の望月です。そばの新芽の青汁を乳酸発酵させた発芽そば発酵エキスには、数種類の乳酸菌が含まれています。「Lactobacillus plantarum」に次いで多いのが、「Lactococcus lactis(以下、L. lactis)」です。以前の記事では、L. lactisの脂質代謝改善作用をご紹介しました。今回の記事では、免疫賦活作用が報告されているL. lactisの一種である「Lactococcus lactis JCM5805」の働きを確認していましょう。

ご紹介する論文は、『Journal of the International Society of Sports Nutrition』という学術誌に投稿された「Efficacy of heat-killed Lactococcus lactis JCM 5805 on immunity and fatigue during consecutive high intensity exercise in male athletes: a randomized, placebo-controlled, double-blinded trial」です。「男性アスリートの連続高強度運動中の免疫および倦怠感に対する熱殺菌Lactococcus lactis JCM5805の有効性」という意味で、機能性表示食品として知られている「プラズマ乳酸菌」の健康効果が取り上げられています。

疲労と免疫には密接な関係があります。例えば、長時間の高強度運動によって上気道感染症のリスクが高まることが知られています。上気道感染症は、アスリートのケガ以外の不調の原因の約65%を占めるという報告があり、免疫力の低下がかかわっていることもわかっています。具体的には、唾液分泌免疫グロブリンA、ナチュラルキラー細胞などとの関連が明らかになっています。簡単にいうと、疲労の蓄積はウイルス感染にも直結しうるというわけです。

今回の研究では、免疫細胞のうち「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」に注目しています。pDCは、免疫の司令塔である樹状細胞の一種です。細菌やウイルスなどの異物が体内に入ってきたときに活性化して、NK細胞やT細胞、B細胞などの免疫細胞に、異物を排除するように指示を出す役割を担っています。

プラズマ乳酸菌の免疫強化作用は、これまでにいくつか報告されています。プラズマ乳酸菌のヨーグルトを食べるとpDCの成熟マーカーが活性化され、12週間の摂取でインフルエンザ様症状の累積発生日数が減少することや、熱殺菌したプラズマ乳酸菌の12週間の摂取で、上気道感染症の発症日数が減少することなどがわかっていました。一方で、免疫力低下の一因となりうる長時間の高強度運動との関連は明らかになっていませんでした。

高強度の運動後も免疫の司令塔は活性化

プラズマ乳酸菌の摂取は、長時間の高強度運動によって疲れがたまっている状況下でもpDCを活性化させ、上気道感染症の予防効果をもたらすのでしょうか。試験には、順天堂大学のスポーツクラブ(陸上競技・フットサル・サッカーに所属する51人の男性が参加。プラズマ乳酸菌を飲んでもらう26人、コーンスターチを含むプラセボ(偽薬)を飲んでもらう25人の2つのグループに分けて、pDCの成熟マーカー、筋肉損傷のマーカー、ストレスマーカーのほか、上気道感染症の累積日数や症状、倦怠感との関連が分析されました。

試験期間は14日間で、それぞれの指標を分析するのに必要な血液と唾液が1日目と14日目に採取されました(プラセボグループの1人はステロイド薬の使用により最終的に除外)。体調の変化については、参加者がつけた日記を参考に結果を分析しています。データを見ると、pDCの成熟マーカーは14日目にプラズマ乳酸菌グループで有意に上昇していました。

さらに、上気道感染症の累積日数もプラズマ乳酸菌グループで有意に低いことを確認。プラセボグループは陽性56日、陰性256日だったのに対し、プラズマ乳酸菌グループは陽性39日、陰性299日という結果が得られました。また、くしゃみや鼻水などの症状がプラズマ乳酸菌グループで有意に低かったこともわかっています。プラセボグループは症状ありが52日、症状なしが258日だったのに対し、プラズマ乳酸菌グループは症状ありが36日、症状なしが301日という結果になったのです。

これまでに報告のなかった疲労に対する影響はどうだったのでしょうか。累積疲労日数を見ると、プラズマ乳酸菌グループで少ないという結果が得られています。プラセボグループは疲労蓄積ありが128日、蓄積なしが182日だったのに対し、プラズマ乳酸菌グループは疲労蓄積ありが110日、蓄積なしが225日で、有意差が認められていました。一方で、筋肉損傷のマーカーとストレスマーカーには、グループ間に有意な差は認められなかったようです。

プラズマ乳酸菌がpDCの活性化を介して上気道感染症の発症や症状を抑制するという結果は、これまでの報告と一致しています。今回の研究では、プラズマ乳酸菌の抗疲労効果が新たに確認されました。倦怠感の改善と免疫力の強化の直接的な関係にはふれられていませんが、「Lactococcus lactis JCM5805」、すなわちプラズマ乳酸菌の感染防御効果は確かなものになりつつあるといえそうです。

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