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宇宙の世界へようこそ⑥「軌道の種類」

基本的にあらゆる工業製品の設計には必ず意図がある。そしてそれは、人工衛星をどのような軌道に投入するかという「軌道設計」についても同様である。ここでは目的地としての軌道(orbit)について書く。

人工衛星は真空中でないと周回軌道を長期間維持できないため、地球や火星のような大気のある天体を周回する際はある程度以上の高度に投入する必要がある。地球の場合は高度250kmを下回ると数ヶ月で大気圏に再突入するくらい大気は濃ゆくなり、イオンエンジンなどにより空気抵抗をキャンセルしないと軌道の維持が難しい。大気のない天体であっても山脈に激突したり、ジャガイモ型の天体など真球でない場合も考えられるので最低高度の設定は必須である。

低軌道では通信やセンシングの対象である地面との距離が近くなり、狭い範囲での高分解能センシングや低遅延大容量通信が可能となる。しかし低軌道の衛星は狭い範囲しか見れないので天体表面全土をカバーするには大量の衛星が必要となる。地球の場合は高度2000km以下が低軌道に該当するが、ちょうどいい数字だから2000kmに決まっているだけで劇的に環境が変化するわけではない。地表から1000km以上離れてもわずかながら大気は存在するため、リブーストを実施しないと高度600km以下は数年で、高度800km付近では10年〜数十年で、高度1000km以上では100年以上の時間をかけて軌道速度を失い大気圏に再突入する。

低軌道と対地同期軌道の間にある軌道のことを中軌道と呼ぶ。中軌道は地表から遠いため観測機器に性能が求められる割に、定点観測には衛星のコンステレーション化が必要なため使い道が少ない。低容量の通信以外では、天体地表向けの衛星測位システム、準同期軌道に投入されて地表の特定地点を毎日2回観測可能な衛星などが中軌道に存在する。

対地同期軌道は、中心の天体が自転するペースと衛星が軌道を周回するペースが同期している軌道のことであり、地球だと高度35000kmほどに存在する。赤道上にある対地同期軌道は静止軌道と呼ばれ、天体上の観測地点を24時間途切れなく観測可能なため通信衛星や早期警戒衛星などが投入されている。静止軌道は軌道自体が各天体に1本しか無いことに加えて、需要が大きい観測地点は限られているため軌道上でのポジションや周波数の奪い合いが激しく、オークションなどが実施されている。

対地同期軌道より高い軌道は高軌道と呼ばれている。天体表面との距離が遠すぎて地表との通信やセンシングには不利だが、逆に天体から見て外側にある宇宙を観測するのに適している。惑星間通信を目的とした大出力通信衛星や惑星防衛用警戒衛星などが投入されると思われる。

そのほか準天頂軌道や墓場軌道、馬蹄形軌道などもあるが省略する。

参考資料
・人工衛星(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F#%E5%91%A8%E6%9C%9F%E6%80%A7%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%88%86%E9%A1%9E
・人工衛星の軌道(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F%E3%81%AE%E8%BB%8C%E9%81%93
・低軌道(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Low_Earth_orbit
・中軌道(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Medium_Earth_orbit
・静止軌道(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%99%E6%AD%A2%E8%BB%8C%E9%81%93
・高軌道(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E8%BB%8C%E9%81%93
・軌道減衰(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Orbital_decay
・軌道保持(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Orbital_station-keeping
・スターリンク(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Starlink
・国際宇宙ステーション(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3#%E9%AB%98%E5%BA%A6%E5%88%B6%E5%BE%A1
・人工衛星の軌道を徹底解説! 軌道の種類と用途別軌道選定のポイント(宙畑) https://sorabatake.jp/23000/
・人工衛星の軌道の種類~目的地としての軌道と移動ルートとしての軌道~(宙畑) https://sorabatake.jp/24030/
・宙を拓くタスクフォース(第4回)JAXAプレゼン資料 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/space_utilization/02tsushin05_04000086.html
・米国衛星「UARS」の落下に関する情報について>良く聞かれる質問:スペースデブリ(仮訳)(文部科学省) https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/satellite/detail/1311417.htm

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