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宇宙の世界へようこそ⑲「生命維持」

宇宙船や宇宙施設というリソースの限られた完全な人工環境において、人間が生命を維持するには様々な工夫が必要である。閉鎖された空気環境では人間の呼気や機械から出る有害なガスを人工的に処理しなくてはならず、食料供給や安全な風呂トイレを供給するにしても、窒息の予防など無重力環境下での液体の安全な取り扱いに始まり、汚物や排水を可能な限りリサイクルして人間が摂食可能な物質に再加工する必要がある。

地球の大気は1気圧(1013hPa)の約78%の窒素と約21%の酸素であり、約23℃の湿度50%前後が健康的な値とされている。人間は酸素100%の0.3気圧の空気でも呼吸可能であり、窒素の節約や与圧隔壁の軽量化などメリットも大きいが、これを1気圧付近まで昇圧すると火災の危険性が非常に高まるため注意が必要である。また1気圧環境でCO2濃度が7%を超えると多くの人間が意識障害や死に至るためゼオライトなど吸着材で迅速に取り除き、サバティエ反応や燃料電池などにより酸素や水などに再利用する。また人体から発生するメタンやアンモニアや気化した潤滑油なども有毒なため触媒などにより分解する必要がある。

宇宙船は航行期間が数ヶ月~1年に及ぶため生鮮食品の常食はできず、フリーズドライやレトルト食品が主になる。スペースコロニーの食品は基本的に工場農業か可食物工業により供給されており、炭水化物や脂質は化学合成食品か輸入穀物が、タンパク類は微生物槽や水生生物の養殖品が、野菜はふつうの水耕栽培が主流である、また田畑や家畜を利用した伝統農業による生鮮食品は、必要土地面積や輸送時間の問題から宇宙では高級品である。

トイレは汚物を吸引することで無重力環境でも問題なく動作できるが、表面張力で顔面に水が張り付き溺死する恐れのある風呂は、水を拭き取る手間から無水シャンプーやボディシートが多用されるものの、サウナや完全泡風呂も利用可能である。とはいえ遠心力による擬似重力が確保可能ならばそれが最も効果的である。またスペースコロニーでは単なる汚物処理以上に工業排水の再生処理も重要であり、大規模な工業コロニーは単なる生産機器だけでなく廃棄物処理装置のためにも大きなスペースを必要としている。

人工冬眠技術は惑星間航行に有用である。人体を凍結させて半永久的に保存する冷凍睡眠と異なり、人工冬眠は冬ごもりの熊のようなホルモンバランスなどの調整による低代謝睡眠のことである。これにより惑星間航行の中盤など、負担が少ない期間に活動している船員を減らすことで食糧や衛生用品や船員の給与を節約できるほか、非常救命設備にも利用できる。

参考資料
・空気(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E6%B0%97
・国際標準大気(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%A8%99%E6%BA%96%E5%A4%A7%E6%B0%97
・アポロ1号(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%83%AD1%E5%8F%B7
・二酸化炭素(CO2)濃度と室内空気品質の関係,(ミッシェルジャパン株式会社) https://www.michell-japan.co.jp/blog/blog3_appnote_rot21-01/
・ISS内部の環境維持はどのように行うのですか?(ファン!ファン!JAXA!) https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/70.html
・宇宙ステーションの空気環境を創る環境制御・生命維持システム(Medical Gases 16巻 (2014)1号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/medicalgases/16/1/16_7/_pdf
・溶融炭酸塩型燃料電池を用いた炭酸ガス回収システム(エネルギー・資源学会論文誌 1990年9月号( Vol.11 No.5, 通巻63号)) https://www.jser.gr.jp/wp-content/uploads/2021/02/11-455.pdf
・建築物衛生の動向と課題(国立保健医療科学院 平成30年度生活衛生関係技術担当者研修会) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000483757.pdf
・中央管理方式の空気調和設備、そして環境測定が要求される法律(株式会社プラスプロエンジン) http://www.plusproeng.com/tyuoukanrihousikikenki.htm
・建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百二十九条の二の五(e-GOV法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325CO0000000338#Mp-At_129_2_5
・スペースコロニー(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%83%BC
・Nautilus-X(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/Nautilus-X
・食料・エネルギー(アナログハックオープンリソース) https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/32.html
・宇宙ではどうやってお風呂やトイレに入るのですか?(ファン!ファン!JAXA!) https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/179.html
・冬眠(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AC%E7%9C%A0
・人工冬眠技術で、助かる命を増やしたい。理化学研究所生命機能科学研究センター研究員・・砂川玄志郎さん(MIRATUKU) https://emerging-future.org/newblog/roomf2020_sunagawa/
・ヒトの冬眠に挑む研究者(理化学研究所) https://www.riken.jp/careers/people/202012/index.html
・“人工冬眠”が2030年代にも実用化、医療現場を変える(三菱電機BizTimeline) https://www.mitsubishielectric.co.jp/business/biz-t/contents/newswitch-column/column025.html
・人工冬眠は低体温療法の本来のメリットを最大限に生かせる(m3.com) https://www.m3.com/clinical/open/news/1037675#:~:text=%E8%84%B3%E3%82%92%E5%88%BA%E6%BF%80%E3%81%97%E3%80%81%E5%86%AC%E7%9C%A0%E6%A7%98%E7%8A%B6%E6%85%8B%E3%82%92%E5%AE%9F%E7%8F%BE&text=%E5%86%AC%E7%9C%A0%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%8B%95%E7%89%A9%E3%81%AF,%E3%82%82%E6%9C%9F%E5%BE%85%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
・宇宙居住地: 設計研究(wevアーカイブ) https://web.archive.org/web/20170625000423/https://settlement.arc.nasa.gov/75SummerStudy/Table_of_Contents1.html


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